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「クラリーズ様! 体調回復されたんですね……良かった!!」
「心配かけてごめんなさい、ミリエット」
「いえいえ、治ったなら何よりです!」
ミリエットを初めとして、クラスメイトたちは皆、私を心配する言葉をかけてくれた。
あの事件から1週間。
対外的には、私は病欠ということになっていたので、昨日まで家に引きこもっていた。
そして、事件の真相は、よくわかっていない……
馬車から降りる時、
「この件に関しては、僕らの方で片づけるから、君は心配しないで。必ず報いを受けさせる」
なんてオリヴァンが言っていたから、勢いで頷いて了承したけれど……
後々考えてみれば、私の敵である彼に全てを任せるのではなく、自分も関わっておけばよかった……なんて思った。
まぁ、後の祭りというやつだ。
今更口を出すことは、もうできなかった。
そんなこんなで自宅に戻ると、昨日の今日で帰ってきた私に、両親も驚いていたが、正直に事情を話すと、まずは私の無事を泣いて喜んでくれた。
私としては、オリヴァンから離れるためにも、留学を続行したかったのだけれど……彼と、私の両親の強い意見により、安全面を考慮して私の留学は取りやめになった。
オリヴァン的には、大事なネックレスを持った極悪人クラリーズは、傍に置いておきたいに違いない。
計画は失敗したものの、その全貌は彼にバレていないみたいだったので、とりあえず一安心だ。
あの時私に襲い掛かってきた人たちは、結局私が雇った人とは別人だったみたいだし。
私が雇った人たちは、あの後待ちぼうけになってしまっていたらしい。
なんだか申し訳なかったので、気持ち多めに報酬金を送っておいた。
そして、なんやかんやで家にひきこもって、暇だったこの1週間、私は今後について考え直した。
ずばり1番気を付けなくてはいけないことは、
『コレットとオリヴァンに近づかないこと』
である。
色々原作乙女ゲームとは、少しずれているところもあるけれど、大枠の設定は一緒のはずだ。
となると、コレットが精霊使いとして覚醒する……クラリーズの断罪イベントも、大体同じような状況で発生するだろう。
イベントは、クラリーズが偽物の精霊使いである、という証拠をつかんだオリヴァンとコレットの2人が、クラリーズと偶然郊外で遭遇するところから始まる。
そこで逃れようのない証拠を突き付けられたクラリーズは、コレットへの嫉妬を爆発させ、彼女に害を及ぼそうとするのだ。
しかしそんなことをされて、コレットのことが大好きなオリヴァンが、黙って見ているわけがない。
彼はコレットのことをかばい、重傷を負ってしまう。
けれどその時、「オリヴァンのことを助けたい」という強い思いを抱いたコレットが、精霊使いとして覚醒し、クラリーズがつけていたネックレスが彼女の元に渡るのだ。
つまり!
クラリーズ断罪イベントの発生条件は、まずオリヴァンとコレット、そして私が一緒の場にいることである。
だから私が、彼ら二人が一緒にいるところに出くわさないよう、慎重に動いていれば、イベントは発生しないはず。
イベントが発生しなければ、ネックレスも奪われないし、コレットも覚醒しない。
私は、この偽物の身分に甘んじることができるというわけだ。
勿論こんな方法で一生逃げ切れるなんて思っていない。
これでどうにか時間を稼ぎつつ、次の行方不明作戦を考える予定だ。
こうして今後の立ち回りを再確認していると、横にいるミリエットが、私を呼ぶように、少しだけ服の袖を引っ張った。
「あの、クラリーズ様……一応言っておかなきゃいけないかな、と思うことがあって」
……もしかして!
春休みに入る前日、エドガーをミリエットのところへ向かわせた後の話だろうか?
あれだけ私に言われておいて、もしエドガーが自分の気持ちを何も話さず、ミリエットとの間に何も進展がないのであれば、もう一度説教しなくてはならないと思っていたところだ。
「あのですね……」
彼女は私を教室の隅に連れていき、耳元に手をよせ、ヒソヒソと話始める。
「ここ数日……クラリーズ様がお休みしていた間、いつも以上に、コレットさんとオリヴァン様の距離が近いんです」
予想とは全く異なる話をされて、私は思わず固まってしまう。
それを見たミリエットは、私がよほどショックを受けたと思ったのか、慌てて言葉を重ねてきた。
「でもでも! やっぱり私から見たら、クラリーズ様があの方の本命ですから! クラスの皆さんは勘違いされているようで……その、あなたのことを同情の目で見てくるかもしれませんが」
確かに。
先ほど久しぶりに教室へ入った時、クラスの皆は病気で休んでいた私のことを、とても気にかけてくれたと思っていたけれど……そこには同情もあったのかもしれない。
気遣ってくれているという雰囲気を通り越して、どこか腫れもの扱いをされているようにも思えたから。
別に、オリヴァンとコレットが仲良くしているだなんて、今更だし。
私は……そんなに気にしていないはず。
だって、もはや彼の隣にいたら、いつ私の嘘が公になるかわからない……自分の身が危ない状況なのだから。
私はもう、偽物の幸せを享受する立場にすらないのだから。
それなのに、まだそばにいたいなんて思っているはずがない。
つまり、彼のそばに誰がいようと、私には関係ないし、なんとも思わない。
……本当に?
突如頭に浮かんだ疑問をかき消すように頭を振り、私は話題を変えることにした。
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