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「ねぇ、ミラン。彼女のことは頼むって言ったよね?」
「いやー、ははっ。俺もできる限りの事はしたさ……あの子が想定外な程にお転婆だっただけで」
「クラリーズを悪く言うのは見逃せないな」
「あーわかったごめんって」
ミランは数少ない、隣国の友人だ。
幼い頃に彼を助けてから、その恩返しというていで、色々手伝ってもらっている。
まぁ、彼も隣国では公爵家の三男だし、こんな下働きのような手伝いは嫌だ、とはっきり言えば、断ることもできるだろう。
それでも僕のことを手伝ってくれるのは、道義を大切にするタイプだからか、はたまた単に好奇心が強いアクティブなやつだからか……
少なくとも前者では無いことは確かだ。
「なぁオリヴァン、でも今回に限っては俺、よくやってる方だと思うぜ。お前から連絡を受ける前に、婚約者を保護しておいたんだから。俺がいなかったら彼女、人身売買現場に連れていかれるか、野宿してるところだったんだぜ?」
彼と通話するための通信機器が、聞こえてくる声に合わせてキラキラと光る。
「はぁ、それは感謝してるけど。でもそれ以上に、君がクラリーズと一緒の部屋に泊まったことが許せそうにないかな」
「は? 何でお前そんなこと知って……」
「国境付近の宿全部に問い合わせただけだよ?」
「……」
クラリーズがいないことに気がついたのは、春休み1日目が終わった時だった。
文化祭の準備が始まり、春休みと言えど、クラスのほぼ全員が集まる中、ミリエット嬢が、
「クラリーズ様がいらっしゃらなくて……」
とエドガーの所へ来たのだ。
精霊使いでは無いとはいえ、クラリーズはその公務で忙しくしている。
でも、お人好しで頑張りすぎな彼女が、こういった行事に初日から顔を出さないのは、少し妙だった。
何かあったのだろうか?
と、その日のうちに侯爵邸へ顔を出したところ、クラリーズは留学へ行ったと聞いた。
なるほど、最近どこか思い詰めているようだったし、1人になりたかったのかもしれない。
僕は彼女に我慢を強いているから、そこに口を出す権利は無い。
……ただ、僕にくらい言ってくれれば良かったのに、と思っただけ。
しかし、状況は一変する。
コレット嬢を見張らせていた1人から、彼女の動きが怪しいとの連絡が入ったのだ。
時間差はあったものの、まるで何かに操られているかのように虚ろな様子の数人の男たち、その後に同じ部屋からコレット嬢が出てきたと。
そして、その男たちは隣国に向かっているという。
何かの偶然だったらいい。
でももし、彼らの狙いがクラリーズだったら?
彼女がちょうど1人になって、国を出たタイミングを狙ったとしたら?
僕はいてもたってもいられなくなって、ミランに連絡した。
彼ならば信頼はできるし、クラリーズのこともある程度守ってくれるだろうと。
それはそれとして、僕も怪しい男たちを追跡するために、直ぐに出発した。
もし、クラリーズの1人静かな留学生活を邪魔しようものなら、
「後悔させてやる……」
「怖いって! 謝るからさ!」
心の声が口に出ていたようだ。
今の言葉はただの回想で、別にミランに向けて言った訳では無い。
「すまない、ミランに言ったわけじゃない」
「はぁー……良かった」
結果的にやはり、あの怪しげな男たちはクラリーズを狙っていた。
ただ、計算外だったのは、彼女が何故か外……しかも路地裏という危険な場所にいた事だ。
ミランだって馬鹿じゃない。
きっと夜の治安は良くないと言って、部屋にいるよう忠告してくれていたことだろう。
では何故……?
という疑問については、彼女は何も答えてくれなかったので分からないけれど。
「で、コレット? だったっけ。お前の婚約者を殺そうとしたやつの証拠は取れたの?」
「それなんだけどさ……連れて帰ってくる最中にクラリーズを襲った男たちは、皆死んだそうなんだ。原因不明……多分、計画が失敗した時のために、コレット嬢が何か細工していたんだろう。だから証拠は何も残らなかった」
「うわぁ、証拠消すために何人も殺しちゃうとか、その女怖いな……そういえばお前、そいつに色仕掛けしてるんじゃなかったか? 婚約者のためとはいえ、お前が助太刀したら、向こうも自分が本命じゃないって気がつくだろ」
「色仕掛けって……まぁいいや。勿論、そんなこと勘づかれたら不味いから対策はしたさ。男たちを操っていたとしたら、多分黒魔術で彼らの視覚や聴覚も共有していただろうから、現場では僕だと気が付かれるようなことはしなかったよ」
「あー、確かに黒魔術は、他人に干渉する系統の魔法が多いもんな」
「あと、彼らを気絶させたあとの処理は、基本的に兄さんに任せた。自国の人間が他国で騒ぎを起こしたから引き取るってね。僕とクラリーズが一緒に帰る馬車も、基本的に裏道を選んでいたし、多分大丈夫なはず」
「なるほど。なら、そこまで心配は要らなさそうだな」
ミランは1度言葉を切り、それから何か思い出したかのように、不意に話し始めた。
「あ、あとそういえば、クラリーズ
「軽々しく呼び捨てにしないでくれるかな?」
「はいはい、お前の婚約者の留学はどうなったんだ?」
「……安全のために留学は中止にしたよ」
「……過保護だな」
「仕方ないよ……僕が早くコレット嬢に取り入って、どうにかしないと」
僕の婚約者だからか、それともクラリーズが精霊使いの身分だからか。
コレット嬢はやはり、彼女に異常な執着を見せている。
だから……黒魔術使いを取り締まるためにも、愛する人の安全を守るためにも、この春休みを通して、僕はより一層、コレット嬢に近づくことを決めた。
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