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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
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38莫 逆

18:42。

ノックの音に気付き、涼子がドアに近付く。

部屋の玄関にあたる部分は、薄暗くて、スポットライトだけが頼りだ。

のぞき穴からのぞく。



「うわっ、あぶねーーっ。急にあけるなよな~。」

そう言って、器用にドアを避けたのはまだ高校生くらいの男だ。髪はキャラメル色。ピアスはイミテーションサファイア。背の高さは180前後、薄茶色のサングラスをかけて。そして、その隣には20代後半から、30代のあるいはもっと上か。とにかく年令がよくわからない男が一人。日本人離れしたその顔はモデルと言ってもいいくらい美しかった。目も髪も色素が薄く、肌も白い。高校生の横に立つと、場違いな雰囲気を出していた。

「………なんで、あんたがいるのよ。」涼子の機嫌はただでさえ悪いのに、さらに悪化させる人物がもう一人いた。

「……彰くんの一大事ですから。僕が来ないはずないでしょう。」

涼子の視線は高校生の横の男に注がれていた。

「で?ナンなの一体、センちゃんは?」高校生の男がずかずかと部屋に入って行く。

「…ということですから、失礼。」その後を男が入り、涼子は力任せにドアを閉めた。



「……うっわ~。ヤな感じ~っ。センちゃん、ナンなのこれ~。承もバッカだなぁ、またハマってやんの。だから職変えた方がいいって言ったのにさぁ。」

「優君悪いですね、休日に。でも君でないと多分無理じゃないかと思いまして……や、彼方さんもおいででしたか。どうも、おひさしぶりです。」茜也は優と呼ばれた高校生の後に立った男を見て、あわてて立ち上がる。

「そのままで。はぁんこれは、珍しい。」彼方と呼ばれた男は面白そうに茜也のパソコンをのぞいてベツトに横たわっている三人を見る。

「……センちゃんってのヤメなさい。優、彼方呼んだのアンタ?」涼子はうっとおしそうに言う。

「……信じないかもしんないけど。名駅にいたんだよ、こいつ。偶然だって言うけど、ぜってー計画的に決まってる。だから、俺は悪くないもんね。それに、性格はともかくとして、こいついた方が絶対良いって、今回みたいな場合はさ、涼子だけじゃ無理ありすぎ、だろ?」

「……『涼子さん』。そうね。あんたに聞いた私がバカだったわ。彼方、どうなの?確かに私の手には余ると思うけど。」

「………うーん。そうですねぇ。その前に、何があったか話してくれません?ものすご~く聞きたくない感じではあるんですけど。」





「…………さいてーー。」すべてを聞いた後、優がそう呟く。

「……困りましたねぇ。ああ、面倒だなぁ。」彼方は全然困っていないように笑う。

「……どうしましょうか。」茜也は苦味をつぶしたような顔で聞く。

「…うーん。こちらから働きかけることはできないかしら。」涼子が言う。

「だとしても!向こうでその鏡が発動した時と同じ条件になってくんないと、こっちに引っ張ることできないんじゃない?こういうのって特殊なパターンだよねぇ。」

「そうですねぇ。方法が無いわけじゃないんですけど…。多分ね、茜也くんの仮説を信じたとして、こちらとあちらを結ぶものが何かないと…。」

「……媒介が必要なわけ?…鏡では?」

「……鏡は条件の一つだから、もちろん必要だけど…。」ふぅ、と一つため息をついて、彼方はベットの上の彼等を見る。

「…彼方。時間が無いのよ…多分。」涼子が言う。

「……あんたが、そう感じるんだな?」優が真面目な声で聞く。涼子のこういうことに関する勘は外れない。だから、危うい。

「……『雪の月』にお願い申し上げる。」彼方の口調が変わる。

「……なんなりと。」涼子は一瞬息を飲んだが、すぐさま答える。

「……今から彼等の中に繋がっている線を探して欲しい。」

「…それは、あたしに『潜れ』ってこと?」涼子は緊張した。わかっていても確認しなくてはならなかった。

「…そうだ。私と、優がサポートする。」彼方は優と涼子を見た後、茜也を見た。

「……わかったわ。けど、三人いっぺんは無理だから、一人ずつ、いくわ。」涼子は立ちあがって、ベットに向かう。

「……疲れたら、俺代わって良いだろ?」優が彼方に言う。

「感覚が鈍いお前が?…無いよりマシか。」

「やりっ。着々と、レベルアップだもんね。……大丈夫だよ、センちゃん。彼方、一応上月だし。」

「……心配はいつもです、でも、涼子さんが決めたことですから。」茜也はあきらめたように言う。いつも、彼は彼女を見ているのだ。ただ、見ているだけなのだ。

「で?いざとなったら、どうにかしてくれるんでしょうね?」涼子は半分諦めたように聞く。

「上月の名にかけて。」彼方は言う。

「『神憑き』……ね。いいわ。そうね、どれも難しそうだわ。彰は潜りやすいんだけど、ガードが固いだろうし、京介は感覚としては一番近いんだけど、免疫ないからねぇ、反動が激しいわね。承は、かえって一番やりやすいかもしれないわ。それに、首飾りが原因でこうなったわけじゃないものね。…うん。承からやってみるわ。茜也さん、応援よろしくね。」涼子は覚悟を決めたように、ベットの前に椅子を持ってきて、座る。

優と彼方がそれを囲むように立つ。

「何かネーミング欲しいよね。『ダイビング ブレイン』とかどうよ?」

「映画のタイトルじゃないんだから。でもダイブっていいね。」

「……はじめるわ。」

「らじゃー。」

「お願いします。」

涼子は息を吸い込んだ。





色が消える。

音が消える。

臭いが消える。

感覚が消える。



一瞬の浮遊感。ただ、それだけ。涼子は肉体から完全に解放された姿で、承の身体を覆っている『何か』に沈んでゆく。深く、深く。

深く、ただ、深層を目指して。彼等の魂の鎖を見つけるために。

幽体離脱、それに近しいこれは、さらに『検索』という部分だけに集中させて、相手の中に無理矢理入っていく。相手の無意識であれ、意識的であれ壁を撃ち破っていくのだから、当然入って行く方も傷付く可能性が高い。相手を傷つけないように潜るのはかなり至難な技だった。

魂のガードをくぐり抜けて、あちらとこちらを結んでいる道を見つけ、彼等をこちらへ引き戻す。

そこに微塵のかけらも疑問があってはならない。

ただ、必死に信じるだけだ。彼等と、そして自分、自分の愛おしい人たちを。

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