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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
39/79

39風 波

果てしなく続く旅路を、幾人の先人たちが通っただろうか。

「……上月様、大丈夫ですか?少し、お休みになられた方がよろしいのでは…?」


ここは、葉月から100キロほど西へきたところだ。田園が広がり、まだ戦の被害も少ないらしく、また住人も少ないのか、人影らしきものも見当たらない。

上月は、ここまで大分焦って馬を走らせてきたことにあらためて気付いた。

後ろの馬に向かって振り向き、フジエとアキジを確認すると、二人とも随分疲れているようだった。

「……すまない。無理をさせた。どこかで休憩しよう。先はまだ長い。」

そういうと、二人は少しほっとした顔で、アキジが馬を進め、

「……では、この先の泉で休憩いたしましょう。あそこでしたら、木々に隠れて目立つこともありません。

上月は馬の首を軽く叩いて、感謝した。




「……それにしても、二人とも馬に乗ったことがあるのか?」上月は、泉へつくと近くの大木へ馬を繋ぎ、草の上へ座った。

「…わたくしは、何度か。姫様の使いで都までゆきますから。…フジエは、まだ慣れていないようなので、このお役目はどうかと進言したのですが…。」アキジが言う。

「まぁ!アキジったら酷い。わたくしは、アキジより馬に慣れていないだけで…。それに、馬にも休息は必要ですのよ?上月様とアキジのお二人でしたら、馬の方が先に参ってしまいますわ。」フジエは少し頬を膨らませて言う。

「……そうだな。でも二人も必要だったのか?」上月は笑うと、アキジが少し表情を固くして、

「もしもの時はわたくし共が身替わりになります。上月様は、都へ向かうことを最優先してくださいませ。そのための、フジエと、わたくしです。こう見えても姫様付きをしております、武術の心得はございます。いつ、敵が…敵ともわからないものが襲ってくるかわかりませんもの。ここは、…この国はそういう場なのです。」

「………。」上月は一瞬二人を見る。二人は、共に真剣な目をしていた。都へのトヨからの書状はフジエとアキジも持っているが、上月も持っている。もしも、二人に何かあっても紹介状を介して都へ入れるように。

「では、そうならないようつとめよう。俺は確かに、剣術などはお遊び程度にしかできないが、女性を助けるくらいのことはするつもりだよ。」上月は謝罪はしない。こうなったのは、もともと彼が原因ではないからだ。少し笑って、水を飲みに立ち上がる。

アキジは、それを見て少し表情を柔らかくする。

「よかった…。」フジエが言う。

「何が?」

「だって、堤様がさらわれてからの上月様、とても思いつめてらっしゃったのだもの…。心配でしたわ。」

「……そうね。どのみち、他に方法もないわ。姫様がいつクルスヒメ様から告発されるかわからない状況ですもの。最も、こんな状況だから、それもお控えなさっているのでしょうけれど。…フジエ、とにかく姫様のためにも上月様を無事とどけなくてはいけないわ。剣はいつでも抜けるよう。」

「アキジこそ。剣だけではありませんから。…でも嬉しいわ、アキジがいつも都へ行っている時、わたくし一人でしたの。……今度は一緒ね?」

「………フジエ………。この先、シナと、カムイの土地が一番危ないわ。そこまで二日。そして、どんなに馬を走らせても、馬を断たれれば無理。あそこは深い谷になってるから…。通達はしてあるけど、南からのケイトの進軍が入ったらしいわ。」

「……では、アキジ、そこでお別れですわね。わたくしが残ります。」

「……フジエ……。足は捨てなさい、最悪、わたくしにしがみついてでも、生きなさい。姫様もそれを望んでおられる。」

「……でも、アキジ……都までの道のりを理解してるあなたが残った方がいいわ。」

「…バカを言わないで。…いい?谷では上からの攻撃は弓しかないわ。届くのも最後の数歩だけ。となると、前後からの歩兵しかない。馬で駈けるのは難しいけれど、ここを駆け抜けて、前を突破するしかないわ。後ろからの攻撃は、私達が包囲に入らない限りないから、入ったら全力で走り抜けるのよ。いい?」

「………はい。アキジ。」

「…ケイトの兵はそれほど強くないわ、歩兵がほとんどだから、それさえくぐり抜ければ…何?」アキジはフジエの視線に気付いて、顔をあげる。

「………いえ。姫様がわたくしのことなど気にして下さるのは、身にあまる栄誉なのですけれど…。」

「…?だから?」

「……アキジは、どうなのかなって…。」

一瞬言葉につまったアキジがフジエを見ると、別れる、と言った時のような潔さはなく、ただ不安を必死で隠そうとする少女の瞳があった。

「………ばかね。フジエと死ねるなら本望だけど、わたくしはフジエと生きたいのよ。」

アキジは少し早口でそう言うと、フジエの額を指先で弾いた。

「………はい、アキジ。」フジエは、額を押さえて笑った。それが、嬉しいのか悲しいのかわからないそんな笑顔だった。


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