黒池も女に見え……る?
第二十五話 襲来
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露天風呂、気持ちよかったな……。まさかあの時、桜花さんが入ってくるとは思わなかったけど……。
あとでクロガネも洗ってあげなきゃ。都会みたいに建物がないし……。風が吹いてそのまま砂ぼこりが付いてしまったから、もうザラザラになっている……。
「ふふ、浴衣も着せてもらっちゃいましたし、しばらくエンジョイしちゃいましょうか♪」
ルンルン気分で座布団に座る。
男が女物を着るのはおかしいが、まぁ似合わなくもない。むしろ似合っていると言われた。
……こうしていたら、まるで温泉旅行のようだ。パソコンを出して仕事の続きはできないけど……だからこそ、ゆっくりできるのかもしれない。
窓から見る景色は漆黒だ。まだ電気なんてものは無いのだから。
もしも光が見えたとき、それは恐らく百鬼夜行の鬼火だろう。ゆっくりと、地面と平行に動くアレみたいな……。
「あ、あれぇ!?」
アレみたいなじゃない、そのものだ!
悠長にしている場合じゃない!面狐さんの依頼をこなさないと!
「あ、あわわっ」
急いでクロガネを持ち、靴を履く。江戸時代の浴衣に現代の靴というアンバランスな見た目だが、今は一刻を争う事態だ。気にしてなんかいられない。
「はぁっ、はぁ……」
ここも通るだろうということで、まだ町の中だが待つことにした。勝手が違うので動きにくい。
「女子供は皆拐ってこい!」
「へい!」
「!!」
地獄の地響きのような声が響く。
心なしか、暗雲が立ち込めてきた気がする。気分が重い。
「おっ!女だ!」
「へ?!……ぼ、僕!?」
妖怪の一人に見つかり、きょろきょろと見渡す。……僕しかいない。ってことは……僕、女の人に見えてる!?
「なーにが『僕』だ!私、だろ」
「え、ええっ!?」
「いいから来い!」
「や、やめてくださいっ!」
女性用の浴衣と、かんざしまで使って綺麗に整えられた長い髪、そして露天風呂の石鹸の香りで立派な女の子……って、冗談ですよね!?
「ほう、風呂上がりか……」
「こ、このヘンタイ!!!」
クロガネを振り下ろす。
下の長い餓鬼のような妖怪は断末魔を上げながら黒い泥となって消えていった。
「うっ……わ……」
さすがに引いてしまった。いろんな意味で。
「この妖怪たち……全員がこんな感じなんですか……!?」
クロガネに付いた血を振り払い、構える。鬼火の他に、シャンシャンと鈴の音も聞こえてきた。これから本丸ってやつが来るのだろう。
「……っ」
浴衣、動きにくい……!左右に足を広げられる範囲が狭すぎる……!
これで戦っている師匠は本当にすごい。やはり着崩している方が動きやすいのでは?
「……ぅ」
少しだけ胸元を開く。肩を動かし、腕が動く範囲を増やす。帯を緩め、余裕を作った。
「これで……マシなハズです」
夜とはいえ、こんな町中で、しかも警察の自分がこんなことをしているだなんて考えたら恥ずかしくなってきた。誰か見ていませんように……!
「よし……来い!魑魅魍魎め!」
ヒュウ、と風が吹いて身震いした。日付がわからないので季節がわからない。
革の靴なので冷たくて足が震える。さっさと倒して部屋に戻ろう。それがいい。早くしないと湯冷めして風邪を引いてしまう。いくら面狐さんが医師さんでも、迷惑はかけられない。
「……お前さんは如何様な人間なのだ?」
「……!誰だ!どこから話しかけている!?」
凛とした声が聞こえた。男の声だ。
「私の質問に答えろ」
「……。平和のために戦う、刑事です」
「平和。平和か……。我々あやかしには関係ないな」
「平和のためにはあなたたちの協力が必要不可欠です。あなたたちが攻撃をやめてくだされば、僕もあなたたちを攻撃しません」
「それは出来ない。人間を襲わなければ、生きてはいけないからな……」
「死活問題……ですか」
僕はこの姿の見えない男性に同情の念を抱いてしまった。
サワサワと僕の周りで風が巻き上がる。ここに彼がいるのだろう。
「お前……我々の仲間にならないか」
「……えっ?」
「その瞳……アヤカシを追いかけすぎて、狂気を纏っている。他の人にも同じような事を言われたことあるんじゃないか?お前の目は異常だ」
ヘラの影を追っている僕にとっては実に魅力的な話だった。
だが、そうしたらどうだ?現代に帰れないじゃないか。置いてきた師匠はどうする?お腹空いたと泣きじゃくっているかもしれない。いや……言い過ぎだけど、そうなりかねない。
だから、僕は仲間になることは出来ない。
「嫌です」
「そうか……残念だ。いい人材だと思ったがな」
ヒュッ、と顔の真横で風が吹く。かまいたち、というものだろう。呆気に取られていた僕は、頬の鋭い痛みと、ドロリと滴った血の感触で我を取り戻した。
「うぁ……うああああっ!?」
「次は牽制では終わらないぞ」
「あ、あああ……あぐっ!?」
グキッ!!と足が嫌な音を立てる。そしてそのまま倒れ込んだ。必死で体を仰向けにする。そこには……。
「おやおや……足が捻挫してしまったのかい?」
「う、ぐ……」
血のように真っ赤な着物を着、白く長い髪を持ち、頭には大きな天を衝く闇のように黒い角がある鬼がいた。よく見ると耳が尖っている。ヘラたちでもそんなことはないのに。
内緒で出てきてしまったことが仇となった。
足が変な方向に曲がっている。あぁ、靴を脱いだら腫れているだろうな。いや、靴を脱ぐ頃には僕の体はただの死体となっているのかもしれない。
「……そん……な」
「時間はたっぷりとある。このままいたぶってもいいが。痛いだろう?苦しいだろう?……人間をやめれば、傷はすぐに治る。……どうだ、まだ仲間になる気はないのか?」
「ありません!」
「強情な……!」
「そこおおおおおっ!!離れなさーーい!!!」
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「そこだああああっ!!」
ヘラが思いっきり廻貌を振り上げた。左右に移動し続け、完全に彼の息が上がっている。叫ぶ声はもう掠れかけていた。
「やったな!マスター!」
見事にエガタは台座にピッタリと刺さり、青白い光を放った!
鬼はというと、なぜか「自分の役目は終わった」とばかりに満足そうな顔をして微動だにしなかった。
「っはぁ、はぁ……。んっ」
へなへなと柄を持ちながら座り込む。口を大きく開け、荒い息をしながらもグッと親指を立てた。その目は、疲れすぎているのか、真っ正面しか睨んでいない。
「もっ、無理」
「お疲れ様!ヘラ!やった、勝ったよ!!」
「あ、あぁ……うん……」
駆けてきたムジナはヘラの手を握ってピョンピョンと跳ねる。返事しようとするヘラだが、気の抜けた声しか出ていない。
「どうしてですか、桜花様!」
一方、あっちからは無奏が騒ぎ立てていた。
「……」
「どう見ても手を抜いていたじゃありませんか!あなたならあんな子供、一撃で____」
「……どきなさい、無奏」
「イカヅチ!お前も何か言ったれ!」
「無奏に同意するのは不本意ですが、私も先程の戦いは満足できません。どうして手を抜いたのですか?まだ力が残っていらっしゃるのであれば、もう一本の剣の持ち主とも戦われますか?」
「げっ!オレ?!」
ビシッと扇で指され、思わずビックリして狼狽えた。
「しょ、勝負は決まったじゃねーかよ!」
「お前には自信がないと」
「そうは言ってねーよ!逆にメッタメタのボッコボコにしてやる!」
「見事に乗せられてるんじゃねーよ……」
「おい、ヘラ!オレが、じゃねぇ。ムジナが、だよ!」
「え?!そりゃないよ、レインー!」
「……」
ヘラに吠える。一瞬で彼から殺気が飛んできた。冗談のはずが、思わぬ敵を作ってしまった。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




