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大逆転、関ヶ原! ~小早川秀秋、難波の夢を露と落とさず~  作者: 浦賀やまみち
第四章 風雲、大阪城

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第34話 去った初恋、遅い初恋




「お待たせいたしました」



 襖をそっと開けると、寝室の中はほのかに温もりを帯びていた。

 綺麗に整えられた布団のそばには火鉢が置かれ、白くなった炭が赤く燃え、かすかにぱちぱちと音を立てている。


 枕元の行灯が柔らかく灯り、布団の前で白い寝間着に身を包み、俯いて正座する淀の方を淡く照らしていた。


 襖を閉めたあと、俺は無言の淀の方の前へと進む。

 胸の鼓動を抑えながら、足を少し開いて正座した。



「ど、どうして、裸なのっ!?」



 淀の方は弾かれたように紅く染まった顔を上げ、目を見開いた。



「ご覧の通り、もう辛抱たまらなくて脱いじゃいました」



 俺は照れくささを隠すように、苦笑して後頭部を掻いた。


 そう、俺は全裸だった。

 淀の方が、この寝室で待っている。その想像だけで、理性はじりじりと溶け崩れていった。


 心臓が早鐘を打ち、喉の奥がひりつくほど乾いた。


 廊下で襟を緩めたのが、いけなかったのだ。

 歩くうちに、いつの間にか服を脱ぎ捨てていた。

 寝室へと続く部屋を抜け、襖の前に立ったときには、もう何ひとつ身にまとってはいなかった。


 俺の殿様は、出陣の刻を今か今かと待っていた。

 淀の方の指先が触れた瞬間、法螺貝を鳴らしてしまいそうなほどに戦意が高ぶっていた。



「そ、そう……。」



 淀の方は目を逸らそうとするが、俺の殿様が気になって仕方がないようだ。


 見ては逸らし、逸らしてはまた見る。

 そんなことを繰り返しているうちに、淀の方は正座のまま、かすかに腰をもぞもぞと揺らした。


 絶対、間違いない。

 その切なそうな仕草は、淀の方も俺を待っていた証拠だ。


 勇気を得た俺は、淀の方を抱きしめようと、右膝を立てた。



「ま、待ちなさい!」

「えっ!?」



 ところが、淀の方が両手を勢いよく突き出して、俺を制した。

 俺は思わず体をビクッと震わせ、固まる。断腸の思いで、右膝を元の位置に戻した。



「わ、私が欲しくて、『権大納言』を断ったって話、本当なの?」



 淀の方は、顎を少し引き、上目遣いで俺を見つめながら問いかけた。


 そんな話、初めて聞いた。

 多分、淀の方を説得するときに使った、大野治長の方便だ。


 でも、格好いい俺なら、あり得るかもしれない。


 サンキュー、大野治長。

 明日、食べ損ねたブリを手に入れて、酒と一緒に差し入れてあげよう。



「本当です。俺はそんなものより、貴女が欲しい」



 俺は淀の方を真っ直ぐに見つめて応えた。



「わ、私は10歳も年上よっ! ど、どうしてっ!」



 たちまち淀の方は視線を忙しく彷徨わせた。

 最後には逃げ場がないと気づき、顔を背けつつ目をぎゅっと閉じて叫んだ。


 なるほど、年齢差を気にしていたのか。

 確かに、戦国時代における女性の結婚適齢期は、十代半ばと非常に若い。


 それに対して、淀の方は31歳。

 言い方は悪いが、戦国時代の結婚適齢期をはるかに超えている。


 しかし、俺にとっては問題にならない。

 今でこそ、俺は18歳の肉体だが、元々は30歳間近。


 ストライクゾーンには、ばっちり入っている。



「初恋でした。ずっと好いていました」



 淀の方が目をゆっくり開き、怖々と横目でこちらを見た。

 俺はその一瞬を逃さず、狙い撃った。


 正確ではないかもしれないが、嘘ではない。



「ほ、褒美をとらせます。……あ、あなたの好きになさい」



 淀の方は大きく見開いた目を震わせ、耳まで真っ赤に染めた顔を俯けた。


 正座の足をさらに内向きに揃え、膝を合わせる。

 両ももの上に重ね置いていた手を、ぎゅっと握りしめ、さらに押し付けた。


 そのたまらなく切なそうな仕草が俺の心を直撃。

 心臓がドキリと高鳴り、鼻息がフンフンと荒くなるのを感じた。



「では、これを……。」



 だが、俺は紳士だ。

 陣太鼓をドンドンと鳴らし、出陣をせかす俺の殿様の訴えを必死に黙らせる。


 そして、この部屋に唯一持ってきた右手の手ぬぐいを、淀の方に差し出した。



「……な、何?」



 どこにでもあるような豆絞り柄の白い手ぬぐいである。


 当然、淀の方は戸惑った。

 目をパチパチと瞬きする様子が、なんとも愛らしい。


 いつものように、淀の方をからかう愉悦が俺の中に湧き、口の端をニヤリと吊り上げた。



「声が大きいと聞いています。聞かれたら、まずいですよね?」

「ぶ、ぶぶぶ、無礼者っ……。キャっ!?」



 きっと自覚しているのだろう。

 手ぬぐいを引ったくる淀の方の仕草が、またしても愛らしく、俺はもう我慢できそうになかった。




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