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魔人教授の怪奇譚【連載停止中】  作者: 泥陀羅没地
第九章:かつて神で在った者達
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思い焦がれて燃え尽きて

燃え盛る炎に、神と…竜の陽炎は消える。


――グギャオォォォォンッ!!!――


苦悶の叫びが轟き…人は自らの御業が敵に触れたことを理解する。


――ゴウッ!――


太陽に成り代わり燃え盛る焔…その中で狂い鳴いていた竜も、その焔に耐え切れず灰燼に消え、気が付けば其処には〝沈黙の炎〟だけが残っていた…。


「……やった…やったわ、皆!」


そんな焔の直下で…緋色の少女が歓喜を上げると共に、人々の中に張り詰めていた緊張の糸は途切れる。


皆が皆、命を懸けた…死と隣り合わせの地獄を生き抜いた…その実感が彼等の心を柔和に満たし、彼等の顔に安堵が過る。


「――ハァァッ…怪我人は?…まさか死人は居ないわよね?」

「はいッ、怪我人は数人居ますが死傷者は何とか!」

「そう…なら良いわ」


歴戦の兵達、死線を潜り抜けた一流の魔術師、永い時を生きる妖姫さえ今この勝利を噛み締め、その美酒に舌鼓を打っていた…。


「……」

「……いや、待て」


ただ、二人だけが…その〝違和感〟に酔いを覚まし…空を見上げる…其処には。


――パチッ、パチパチパチッ!――


〝未だ燃え果てる事の無い〟…〝焔〟の姿が有った。


○●○●○●


――パチッ、パチパチパチッ――


()える〟…〝()える〟…〝()える〟…肉が、骨が、腸が…。


――パチッ、パチンッ!――


息苦しく、刺すように肌が痛む…焦げ付いた身体はボロボロと崩れ、茹だるような熱さに脳髄が沸き立つ…何故…己は此処に居るのか?…。


朧げに、思い出す…あの一瞬…己の焔が人の手に打ち負けた、押し負けた…その事実を。


「……」


そして、その焔が今…己を焼き尽くしているのだと…そう理解した。


「……〝フ〟」


死にゆく身体の奥、心臓の奥底に疼きを感じ…己の口から、言の葉の種が漏れ出す。


「……フフッフフフッ…!」


否、ソレは言葉である事を放棄し…ただ衝動に呼応して紡がれるだけの雑音に早変わる。


「ハッハッハッハッ…嗚呼クソッ…〝負けた〟」


己の腸に〝歓喜〟が浮かぶ、ソレに追い縋る様に〝怒り〟が、ジワリジワリと〝恐怖〟が、その恐怖にかぶさる様な〝充足〟が…。


相反する二つの性質が唯一つ、朽ちゆくだけの身体を巡る…そんな己はふと忘れていた、〝あの日〟の出来事を今更に思い返す。


『あぁん?…人間との戦争に手を貸せだとぉ?』


人が神を忘れて数千年…ゼウスとガイアの試みにより生み出された〝神代の生存領域〟…その中で生きていた…そんな俺の神殿にゼウス自らが足を運び、俺に協力を持ち掛けてきた。


『そうだ…いずれ来たる〝聖戦〟に備え、お前の鍛冶の腕が要るのだ…協力しろ、ヘファイストス』


ゼウスが兵を集めているのは知っていた…今一度世界を支配する為に、敵対勢力だった龍とも手を組み…その時を待っていた事も。


『……』

『――もし、我が試みを否定すると言うのなら…それも良い』


沈黙する俺にゼウスがそう言った…その言葉は酷く穏やかだったが、俺は知っていた…ゼウスの試みを拒んだ物の末路を…。


『〝喰らう〟…か?――お前の弟を喰らった様に…この俺の〝神性〟を取り込むつもりか』


最早目の前に居るソレはゼウスであり、ゼウスでなかった…腹の奥に蠢く無数の神性の蠢動が、ゼウスを〝混沌(カオス)〟に近しい存在へと作り変えていた。


『――貴様が手を貸さぬなら、致し方有るまい』


俺の問いにゼウスが答える…その淀んだ瞳に俺が映り、俺は…ゼウスの企みに思考を巡らせる…そして。


『――ふむ…いや、構わん…手を貸してやっても良いぜ』


俺は…俺の意思でゼウスの試みに相乗りした。


神としての矜持も、一応は持ち合わせていたのかも知れない…或いは、人間と言う存在への無意識な怒りが為か…恐らく、それも有っただろう…だが。


『――〝未来の人間〟が、俺の教えた技術から、どんだけ進んだのか…見てみてぇ♪』


その選択を選んだ最大の要因は…〝人間への期待〟だった。


人間と言う生き物の性質…定命の主で有りながら、比類無き継承と発展の性を持つ〝人間〟に…俺は強く期待した。


奴等の〝技術〟が何処まで伸びたか、奴等の〝武器〟がどれだけの進化を遂げたのか…見たい、知りたい――〝比べたい〟…。


ただ…それだけの理由で、俺は人類の敵となった。



「――フフハッ…見事なもんだ…全く」


燃え盛る焔に身を委ねる…全身が焔によって塵と化すのを受け入れながら…俺は、眼下の人を視界に捉える。


「――〝だが〟…まだ終わらねぇ…!」


そう否定の言葉を吐いちゃいるが、その実俺の身体は死に体も良い所だ…だが、そんな死体同然の身体を引きずってでも俺は…奴等人に、〝納得〟をしていない。


「――何千年生き続けた神の生き汚さを舐めんなよ…ただじゃ死んでやらねぇぞ」


身体中の魔力を心臓に回す…収縮した魔力の純度が周囲に伝播し…その気配を察知したのか…人の中にも〝動き〟が見える…逃げるつもりなら、ソレはもう手遅れだ。


「――俺の最後の悪足搔き…〝人間(テメェ等)〟なら受け切れるよなぁ…!」


この一瞬一節の瞬間に…俺の最後の〝悪足搔き〟は…盛大に火を撒き散らし人に降り掛かる。


――ヒュウッ――


そして…俺は全ての力を使い果たし、そのまま大地に落下する…。


その大地には、足の踏み場も無い轟々と全てを焼き尽くさんとする神の焔で満ちていた。



●○●○●○


「「〝全員動くな〟!」」


瞬間…私と彼…伊方武君が同時にそう叫び、その魔力を振り絞り…護りを施す。


――ドボォッ!――


「〝喰らい尽くせ〟…!」


私の鋼がその場に集う彼等の頭上を覆い隠す…魔力を食み増え続ける鋼は、私の意思を通じて、堅牢な結界を作り上げた…が。


――カッ!――


その瞬間、天上の空から振り注ぐ…膨大な魔力を燃やして生み出された焔は、鋼の波に纏わりつき…その一糸乱れぬ連携を蝕んで崩してゆく。


「クッ…不味いな…このままじゃ生成が間に合わない…!」


焼き尽くされ、溶け落ちてゆく鋼の波に歯噛みする…このまま外縁を囲う焔が、その魔力燃え尽きるまで発火し続けるなら…たかが一生命に過ぎない私の魔力量では到底耐えきれる物ではない。


(全員魔力残量が僅か…このまま全員を守り切ったとして、ヘファイストスを確実に仕留めるには心許ない…!)


ならば…私が取るべき選択は――。


「皆ッ〝撤退〟だ!…緊急離脱(テレポート)を使え!」

「ックレイヴは!?」

「このまま奴を仕留める!」


私は皆にそう指示を出すと、絶え間なく生成する〝鋼〟を操り…皆を〝保護〟する。


「――心配は要らない、〝勝機〟は有る…私の魔力が尽きる前に離脱してくれ」


私が駄目押しする様にそう言うと、皆は不安げながらも納得し…次々に離脱を始める…。


「――良し、コレで魔力のリソースに空きが出来た…後は――」


ソレを尻目に…私は最後の〝決着〟を着ける為に、絞り出した魔力を自身を包む〝鋼〟に注ぎ入れ…〝切り札〟の製造を開始した。




「――応、フレア」

「?――どうしたの、イガタ」

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