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女帝の魔力のヴェールを引き裂いて、無数の鬼火をまき散らせ、斬撃がひらめき、女王の仮面を斜めに切り裂いた。
視界に突然飛び込んだそれは、見覚えのある姿によく似ていた。
「おじいちゃん……?」
「おそくなっちまったなぁ」
飄々と笑う鎧武者、宗孝は数え切れない傷を負って、それでも二本の足で力強く立つ。
彼は、今足元にいる神にその一振りの槍と刀で立ち向かい、ここまで上ってきたのだろう。考えただけで壮絶な戦いを繰り広げてきた彼こそ、まさに魔法使いだ。不条理に挑んだ美鈴の祖父だ。
「ふふ、さすがですわ」
からんと音を立てて落ちた仮面には目もくれず、現れた女王の顔に宗孝は目をわずかに見開いた。
「ご機嫌いかがですか、ムネタカお祖父様!」
どこまでも優雅に、美玲と瓜二つの顔をした少女が微笑み、豪奢なスカートの裾をつまんでお辞儀した。
声も、顔も似ているが、致命的に二人は似ていない。
暗く澱み、歪んだ女王と、どこまでも静かに清んだ美鈴とでは、違いを埋めることはできない。正悪で真反対にある存在だった。
その言葉に宗孝はすべてを悟ったように顔をしかめた。
「そうか、そうか。おまえさんが……」
辺境最強と謳われる鎧武者の目に、たしかな悲しみの色がにじむ。
「この歳で、失う事に恐れを抱くとあなぁ。世の中、それこそ神さんてぇのは、あいも変わらず、なかなか趣味の悪いもんだぜ……」
「そう仰らないでくださいな。もうじき、この世界も含めて、すべてがわたくしのものになりますもの。そうすればムネタカお祖父様が悲しまなくて済む時代が来ますわ」
諭すように説く女王に、しかし決然とした宗孝は言い返す。
「それは傲慢ってもんだぜ、愛子よ。この世界にはよ、取り分があるんだ。天秤みたいによ。手前ぇにこんだけ、そいつにこんだけつって、均衡を保つのさ」
「気に食いませんわ、お祖父様。この世界すべてがわたくしのものになれば、天秤なんて必要ないではありませんか」
暗い澱みの底から、女王は声を上げた。どれ程の怨嗟、憎悪、嫌悪、負の感情をどれ程詰め込んでも、彼女の深いよどみには遠く及ばない。
彼女こそ、帝国の黄金の一万年を支えた”茨の女帝”である。彼女が見て来た人の負の側面や、理不尽な世界は、理論や道徳で正せるモノではない。
「それじゃあ、お前さんは最後の時まで、世界の采配をひとりでやり続けるってのかい?」
「わたくしは、それでもかまいませんわ。わたくしは一万年そうあってきた。のこり何万年でも、これを続けますわ」
歪みきった笑いを浮かべる女王。彼女の願いもまた、絶望を踏み越えるものだった。
「それにお祖父様。忘れてしまいましたの? わたくしたち魔法使いは、神の摂理が気に食わなくて、反逆の旗を揚げた者たちではありませんか! その末裔たるわたくしが、神を使役し、世界を蹂躙して、いったいなにか不都合がおありでしょうか?」
笑う女王に、宗孝は顔に深いしわを刻んだ。
「お、おじいちゃん、どういうことなの?」
二人の会話を聞いていた美鈴が尋ねると、目を背けずに宗孝は自分の中で解いた謎を美鈴に教えた。
「愛子、茨の女帝はお前さんの、妹だ」
さすがに、美鈴も目を見開いて、自分とよく似た女王の顔を見た。




