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 二人は走っていた。


 巨大な回廊のような部屋をいくつも抜けて、まっすぐ走り続ける。


 目的地は分かっている。


 強大すぎる女帝の気配、魔力の波動に向けて走る。


「そこまで」


 突然の声。二人はピタと足が止まった。


 止めるつもりはなかった。それでも止まった。


 魔法の類だ。


 二人は知らないが、薔薇侯爵と同じ、因果の変調だ。


「法典枢機卿」


 シャルロットが声を絞り出した。


 白の法衣をまとった長身の偉丈夫。神経質そうな顔は、眉根を寄せている。


「礼のないネズミだ」


 法典を片手に佇むのは、現アルマニア帝国の法執行を司る、三桂評議会の一席。実質的な最高指揮者である。


「許しのない者は、敷地内の往来ができぬと、”法で定めてある”。ただちに罰を受けよ」


 何ものかに、見えない存在に押しつぶされるように、二人はその場に座り込まされた。重圧によって、抵抗すらできない。


「女王陛下の私有地、並びに評議会の所有する敷地に侵入した者は、死刑である。場合によってはその親族も含めて一両日以内に斬首、もしくは爆砕と定められている」


 身動き一つできない美鈴たちは、何が起きているのかも分からない。因果に引き摺られるまま、何もできない。


「罪状は明らかになった。では、裁判を始めよう」


 法典枢機卿が高らかに宣言する。


 二人の手には枷がいつの間にか嵌められている。


「つまんねぇ、ごっこ遊びだなぁ。一万歳のじいさんがやる事じゃねぇなあ?」


 ごうと風が鳴る。


 まるで操り人形の糸が切れたかのように、二人の体は突然動くようになった。


 さっと立ち上がり、枢機卿との間合いを開ける。


「おじいちゃん!」


 美鈴が振り返ると、そこには宗孝と、大岡たち美鈴の家の者がフル装備でいた。


「これほど、我が陛下と法の威光に背く愚か者いようとは……」


 あからさまな嘆息をして見せて、法典枢機卿は侵入者たちを睨む。


「我は神聖アルマニア帝国、三桂評議会が第一席。ヴィーシン・ズィデン・レヒト・ゴートロゼン=法典枢機卿。過去現在未来の帝国の真正を証明する者である。我れらが法典にいかなる罪も罰せられよう」


「真正? 笑わせるぜ。押し込み強盗風情が」


 宗孝は笑い、十文字槍を肩に担ぎ、左手で印を組む。


「さーて、法律屋。ご自慢の法典で、オレを止められるかね?」


「極辺境の魔術師。いかなる蛮族とて、我が法に膝をつかん」


 法典を開き、術が開いた。


「こいつは俺が相手をしてやる。お前さんたちは先へ行きな」


「……分かった」


「お気を付けて」


 本当は祖父だけにしたくはない。一緒に戦いたい。


 祖父の力を疑っているわけではないが、何事も一人より二人の方が良いに決まっている。


 しかし時間がないのも事実。


 一刻も早く茨の女帝を止めなければ、世界が壊されてしまう。そうなる前に、早く決着を付けなければならない。


 横目で宗孝の後ろを見ると、すでに陣地を構築し、いつでも射撃を開始できるような家の者たちもいる。葉月がひらひらと手を振り返してくる。


 大丈夫だ。全員いるんだ。


 唇をきつく結びなおし、美鈴はシャルロットの手を引いて走り出した。


 その瞬間猛烈な発砲音が空間を押しつぶす勢いで炸裂する。


 悲鳴を上げるシャルロットを無理やり引き連れて、走った。


 茨の女帝の気配はすぐ近くである。


 空間という概念が外と中では大きく違うこの宮殿の中では、どこをどう来たのかはまるで分らない。


 宗孝と別れて三つ目の部屋を抜け、ついにその時が来た。


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