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微塵も自分の敗北を疑っていない態度に、改めてシャルロットは愕然とした。帝国の軍勢は、生半可ではない。千数百の世界を武力で制圧してきたその軍勢を前に、薫は嗤っている。
無知だからではない。なぜならその軍勢の長であるアッガレッシオンとすでに一戦交えているのだ。それでも薫は嗤う。どれほどの自信か、まったく怖気づかない。
「どれだけ略奪し、武力で攻め立てられようと、私はそれを砕き折って見せるわ。万といわず、私を殺したいのなら億万兆勢を尽くして、無尽蔵の兵站を持ってきてもらいたいわね。まあ、そんな程度じゃ、美鈴とゆかっという戦力を持った私を殺せないでしょうけれど」
薫は余裕を漂わせた上品な笑みを浮かべ、薄目を開けた。
「だから、あなたは安心して私に従いなさい。従順に従っていれば、私達が帝国を滅ぼしてあげるわ」
薫はだいぶ軽くなった腕を伸ばしてシャルロットの手に触れ、誇りと信念が詰まって輝く瞳をまっすぐ向けた。
その揺るぎの無さに、取り込まれていくようにシャルロットは頷いていた。
「おー、お熱いですなぁ」
突然の声に、ばっと横を向いた二人は、美鈴を抱きながらにやにやと笑うゆかを見た。
「う、うるさいわね!」
先ほどとは違う意味で顔を赤くした薫が、ついと視線を逸らした。シャルロットまでつられて顔が赤くなり、照れ笑いを浮かべて視線をはずした。
「ふひひ、薫ちゃんったら、照れちゃってかーわうぃいー!」
冷やかすように、半分以上素でゆかが叫ぶと、ぎろりと薫が殺意を込めてにらみつけた。思わず首をすくめてそそくさ退散した。
「そういえば、ユカの意義名は、どうして?」
一度勢いがついたから、シャルロットは躊躇いなくゆかに尋ねた。
「え、いやぁ……」
美鈴の首元に顔をうずめていたゆかは、そのまま顔を上げずに言いよどんだ。聞いてはいけなかったのかと思ったシャルロットが、謝ろうとして、ゆかが顔を上げた。
「まあ、隠すことじゃ、ないしね……」
開き直ったような声で無表情なゆかは、上半身を起こして美鈴を抱きなおす。
一瞬間をおいたゆかは、美鈴の背中を撫でた。
「アタシ、一人っ子なんだけどね。薫は知ってるか」
ちらりと横目で見ると、さすがに体を起こすことは出来ないが、薫はまっすぐにゆかを見つめていた。雰囲気からして真面目な話だとわかったようだ。
「うちさ、跡取りで、男の子が欲しかったみたいでさ……」
つぶやくように、淡々と語る。
「アタシを産んだせいで、お母さんもう赤ちゃん産めないらしくて、それでおじいちゃんとかお父さんにすごい責められて、病気になっちゃって、今病院にいるんだ」
語られた事実に、薫は眉根を寄せて目を伏せた。シャルロットはこの世界のことを分かっていないので、いまいち話の内容を理解していないようだ。
「それでアタシ、バカで勉強できないからさ、ずっと走ってたんだ。走ってる時は何も気にしなくていいし、風も、気持ちいいからさ」
どこも見ていない視線を落として、ゆかは首元からネックレスをひとつ引き出した。どこにでも売っているような、安物の十字のペンダント。それを軽く握りしめる。
「でも、やっぱりお父さんも、おじいちゃんも、アタシのことなんか見てくれないし……」
事実だけを語るゆかの姿があまりにも痛々しくて、薫はなんて言葉をかければ良いのか迷った。そして何もいえない自分が嫌になり顔をしかめてしまう。




