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「な、に……いッ!?」
結界の維持に魔力を投入した彼が見たのは、繊細な彫刻が彫られた長大な突撃槍。それを持つのは、ゆかだ。
脚部のブースターを唸らせた彼女が手に持った突撃槍で、アッガレッシオンを突いていた。
左手をかざしてさらに魔力を結界に流し込むが、すでに七層目の結界にも無数の亀裂が走っている。それが破られるのも時間の問題だ。
「おぉおお!」
アッガレッシオンが右手ひとつで剣を振るった瞬間、ゆかの補助ブースターが逆噴射され、その姿がまた消えた。そしてまた薫の隣に現れる。
「消えて、現れた……? まさか刹那の移動か?」
そのあまりの移動の早さから、アッガレッシオンはひとつの仮説をつぶやく。しかし刹那の間で移動する魔法をアッガレッシオンは何度も試し、失敗して来た。
その移動速度に瞠目しながらも、自分の中に作った戦闘用補助脳が結界の修復を始める。先ほど美鈴によって結界とそれを創る鎧が破壊されたせいで修復が遅い。じっと身構え、三人の動きをうかがう。
『ずいぶんと早いわね』
念波を使い薫がゆかに語りかけた。
『ってか、あんた、なんでもう使いこなしてんのさ』
まだぎこちないゆかがやはり念波で返事をする。
『才能の差よ。音速くらい出てるの?』
『ん? さあ? でも、光くらいなら、超えて見せる』
『さすがね。じゃあ、私もそろそろ、動こうかしら』
薫が悠然と笑むと、彼女が座る高射砲が六つの脚が立ち身を起こした。そしてその背面から四十八機の烏形の無人偵察機兼魔力かく乱装置が射出された。
咄嗟にアッガレッシオンは身構えたが、それは一向に攻撃をしてくる気配がない。怪訝に思ったが、すぐに異変に気がついた。
魔法使いが戦う時、まず魔力の発生源を逆探知して相手を探すのがセオリーだ。
魔法使いは自分の魔力を周囲の空間に流し込み魔法を行使する特性上、どうしても尻尾取りになる。それをいかに隠すか、いかに相手より早く見つけ出すかが勝負を決める。
高位になれば魔力の発生のしかたから、相手の攻撃パターンを読み避けるという技まである。そして今回アッガレッシオンは自らが生み出したそのセオリーに従い、新たに現れた二人の魔法使いの動きを魔力から読もうとしたのだが、読めない。まるで靄がかかったように、その魔力を探す視界がぼやけているのだ。
「何が起きている」
つぶやくと、だいぶ離れている薫が笑っているのが見えた。
「時代遅れの将軍閣下に、新しい戦争のやり方を教えて差し上げますわ」
傲慢な態度に、さすがの大将軍とて若干の怒りを覚えたが、その言い草になにか引っかかりを感じた。
『なにしたの?』
ゆかもそれに気づいたのか、面防の下で顔をしかめた。
『ふふ。目潰し、かく乱、陽動は戦争の基本よ。そして、私からは彼は裸も同然。ゆか、将軍の右脇を刺せる?』
薫はどこから取り出したのか、紙束を手もちながら尋ねてきた。
『もちろん』
自信たっぷりに心の中で頷いて見せると、薫はくすりと微笑んだ。
『将軍ったら、脇が甘いわ。じゃあ、突き刺して差し上げて』
『うん』




