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「ごめん。説明は、後にしてもらえるかな……」


 微かに声を震わせ、ゆかも三人は彼女の目線の先を見た。


 刹那、空気が震えた。衝撃が四人の体を打った。


「な、なに!?」


 咄嗟に腕で顔を覆ったゆかは、目を細く開けると、何かに塞がれていた。


「え?」


 右手をまっすぐにかざした美鈴。その手の先には、巨大な壁。両肩で息をした美鈴とその壁を交互に見た二人と、状況を把握できたヴィエダーは血相を変えて立ち上がった。


「まさか、なんで!?」


 かすれた声でつぶやくヴィエダー。美鈴が壁を消すと、それがあった。


 遠目にでも分かる巨大な体。要塞と見まごうほどの存在感を伴ったその騎士は、全身を鋼の甲冑で覆い、金と銀の糸で豪奢な刺繍が施された緋色のマントを羽織っていた。身丈は、およそ3メートル前後。それほど巨大な騎士が振る剣もまた巨大で、異形さをたたえている。なぜなら、刀身が隙間を空けて五つも重ねられている己の身丈よりも長大な剣なのだ。


「我が初撃を防ぐとは、見事」


 地響きのような声と威厳に、美鈴以外の三人は思わず竦みあがり冷や汗を流す。


 その中で美鈴だけが静かに、真夜中の海のように黙して、周囲をゆっくり見回す。


「……あなたも、悪い人なんだね」


 美鈴が見た光景は、地獄なんて生易しいものではなかった。


 そこには、何十人という人間をミキサーにぶち込んだような惨状。


 濃密な血臭がこもり、まだ暖かい肉片から湯気が昇っている。


 それを見た二人は、認知能力のキャパシティーを超えて固まるしかない。ヴィエダーは顔をしかめて視線を逸らした。小刻みに震えながら、小さな手の色が変わるほど強く握っていた。


「むう? 何を言っているのだ?」


 美鈴の言葉の意味が分からないといった様子の巨人に、美鈴は静か過ぎる目を向けた。わずかに巨人の目の色が変わった。


「ふ、ふは! よい目だ! 名乗り遅れた。我は神聖アルマニア帝国奪還軍軍長、アッガレッシオン・ウンド・エロベルング・ヘッレシャフト・ドゥーチ・ダス・シュヴェード=剣元帥。三桂評議会が第三席。女法王陛下の命により、汝が首の奪還に参った」


 巨人、アッガレッシオンは五つの刀身を重ねた剣を掲げて敬礼して見せた。


「いざ、尋常に勝負! 極辺境の魔女よ!」


 巨躯が跳んだ。100メートル以上も離れていたはずのアッガレッシオンが、一瞬で目の前に居た。


 視線を動かしすらしなかった美鈴。巨大な剣を大きく振り上げたアッガレッシオンの影が、四人を飲み込んでいた。


「あなたの目的は、それだけなの?」


 ガラスのベルのような声で、むしろ小さな声なのに、アッガレッシオンの耳にその声は確かに届いた。


「ぬっ!」


 衝撃。


 惨状を作ったアッガレッシオンの初撃を遥かに凌駕したそれが、彼の体を噴水まで吹き飛ばしそれを完全に破壊した。


 目を剥いた三人と、ゆるぎない自信をもっていた大軍団の長。誰もが現実を理解できていなかった。


 ただひとり美鈴だけは、表情ひとつかえずそこに立っていた。


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