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大岡に手渡されたその鈴を、美鈴は一瞬考えてからぬいぐるみの首に巻いてつけた。よく分からない生物のぬいぐるみだが、そうすると不思議と猫に見えなくもない。
「それじゃ、そろそろ行くね」
美鈴が軽く呆れながら言うと、柔和な笑みを浮かべて手を二、三回振った。曰く無事に帰ってくるおまじないらしい。
そうして三人を見送るため、若い衆全員が外に出て並び、道を作る。そして全員が腰を九十度に折り声をそろえる。
「どうか御気をつけて、行ってらっしゃいませお嬢様がた」
圧巻するその中、美鈴はなれた様子で道を歩く。二人は気後れしつつも後に続く。
ふと何かを感じた薫が後ろを振り向く。柔和な笑みを浮かべたままの老人が、気さくに手を振っていたので、小さくお辞儀した。
「どうかしたの?」
ゆかが小声で尋ねると、薫は前を向いた。
「なんでもない……」
どうにも、鋭い視線を感じたのだ。慣れない見送りに動揺しているのだろうと自分を納得させて、ひょうたんの形をした池の横を通り、城門のようなゲートをくぐった。
完全に見送りが見えなくなり、美鈴の後ろの二人が肩を落として緊張したと漏らしている。
『ミレイ。君のおじいさん、何者なの?』
先ほどからちょくちょくと送られてくるヴィエダーの念波。美鈴はうつむいてぬいぐるみを見た。
『普通のおじいちゃんだと思うよ? どうかしたの?』
考えただけで伝わるという念波に慣れない美鈴は、そうしないとうまく念波を遅れない。
美鈴答えを聞いて、ヴィエダーは一瞬戸惑い、そしてまだ疑念が拭えないという口ぶりで言う。
『たぶん、私のことに気づいてる。それによくわからないけど、もしかしたら……』
それで驚いたのは美鈴だ。
もしも今美鈴がしてきた事を祖父が知ったらと思うと、背筋が冷たくなった。あの老人は我を通し周囲に迷惑をかけるという行為が一番嫌いなのだ。
もし今の美鈴を知ったら、人を助けるために人を殺した美鈴を知ったら、どう思うだろうか。怒られるのは、当たり前だろう。
嫌われてしまう。そうなれば、あの屋敷から追い出されてしまうのだろうか。嫌われるのは、嫌だ。
「みーちゃん? どうしたの!?」
美鈴が振るえ上がり顔を蒼くしているのに、真っ先に気がついたのはゆかだ。肩を抱き顔を覗きこむ。先頭を歩いていた薫も驚いて振り向く。
「だいじょうぶ、だよ。ちょっと、おなかすいちゃっただけ、だから」
何とかそれっぽくごまかせる言葉が出てきたことに、美鈴は自分でも驚いた。
救急車でも呼び出しかねほどの顔をしたゆかは、それで納得したようだ。ほっと息を吐いて、にっこり微笑む。その横で薫もほっと胸をなでおろすのが見えた。
「なんだ。心配させないでよ。ここからだと、どこが一番近いかな?」
そういいながらジャケットのポケットから携帯電話を取り出して、速やかに近くの飲食店を探し出す。
「みーちゃん食べれないのあったっけ?」
美鈴はこの近くに食べ物屋は殆どなかったように記憶しているが、ゆかはすでにめぼしい店を軒か押さえたようだ。そこからさらに美鈴が食べれないものがある店を省くのだろう。
「ないよ」
短くいうと、すでに決め居ていた候補の中で一番近い店に決めたようだ。
「じゃ、ここにしよう。イタリアンだ!」
美鈴の手を引いて歩き出した。配列は変わり、最後尾で薫が美鈴を気にするように歩いた。
その飲食店は、本当にすぐ近くにあった。一見すると二階建ての普通の民家だが、一階を改装して店にしているようだ。
「ここです!」
そういって中に入る。店内は席数が少なく、三席ついた丸テーブルが四つだけある簡素なものだった。しかし雰囲気のいいしゃれた店だ。




