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顔面を汚しながらもすぐさま立ち上がった大岡は、腰を九十度に折った
「す、すみません。しかし、頭」
しかし彼とてそう簡単には引き下がらない。
「お嬢がお出かけとなりゃ、最近物騒じゃございませんか。ましてやこんな可愛いらしいお友達もご一緒じゃ、悪い虫の一匹や二匹……」
そういう大岡は考えただけでもぞっとしたのだろう、震え上がった。それは若い衆も一緒だったらしく、連れて行ってくだせえと叫ぶ声が上がった。
「そりゃぁ、そうだがな……」
「それに昨日の今日じゃございやせんか、頭。お嬢に手出ししやがった下郎もいやがったじゃねぇですかい」
「見つけたらぜってぇ連れ帰って、落とし前ぇ、つけさせてやらねぇと」
集まった若い衆が、あの遊太ですら顔を怒らせている。
妙に納得した宗孝が顎をさすり、しかし譲らない。
「でもな、おめぇらみたいな石くれで作った土偶が周りにいたらよ、楽しめるもンも楽しめやしねえだろうが」
その致命的な言葉を、さらりと言ってのけた。そこに居た大岡を含めた若い衆全員が胸に手を当てて呻くと、膝から崩れ落ちた。おそらく彼らは今日ほど自分の顔を呪ったことはないだろう。
「な、ならせめて。遊太、あれもってこい!」
「はい!」
恐るべき速度で走って行き、戻ってきた遊太の手には皮紐に通された少し大きな鈴があった。それを大岡は受け取り、美鈴に見せる。
「これをもっていってください! でないと俺達はもう……」
まるで自分が殺されるかのような顔で、美鈴たちの身を案じていた。
「これなに?」
尋ねた美鈴に、大岡は跪いて掲げた。
「GPS発信機ってやつです。でもこいつはちと特殊で、この鈴を引っ張らない限りは電源が入らないようになってます」
ためしに引いてみると、皮ひもに繋がれた部分が少し伸びてカチンと鳴った。それと同時に大岡の胸元で激しくアラームが鳴る。
「それでアッシの電話にこの鈴とお嬢の携帯電話の位置が分かるって寸法です」
アラームの音源である携帯電話を取り出して見せると、その画面にはこの屋敷に赤い点打たれた地図が映っていた。
「あつかましいとは思いますが、どうかこれだけでももって行ってください」
土下座までしそうな勢いで、その場にいた全員が頭を下げた。ちなみにゆかと薫は呆然としていた。
「まあ、そうだな。こいつらも、お前さんが心配みたいだしよ。美鈴、もって行ってくれやしねぇか?」
申し訳なさそうに、眼帯をしていない方の目を細めて美鈴に言った。そしてその後ろの二人にも。
「少し窮屈だ……、と思うんだけど、すまないね。お嬢さん達にも何かあるといけないだろう?」
どうやら宗孝は自分の口調が変わっていることに、今さら気がついたようだ。一回言葉を区切って口調を元に戻して頼んだ。
「アタシはいいですよ! みーちゃん可愛いから誘拐されそうでこわいですもん」
ゆかが言うと、若い衆は全員でそうですよね、やっぱりそう思いますよねと賛同して、美鈴にその鈴を進める。
「わ、わたしは、いいよ」
美鈴が承諾すると、全員が安心したように肩を落として息を吐いた。
しかし、調子に乗り出した彼らは、あれもこれももって行けと言い、挙句の果てには自分の懐から一般社会では決して見ることのない、見てはいけないステンレスの輝きを放ったものを取り出してきた。
今度こそゆかと薫は心臓が止まったと思った。
「ンなモン持ってたら、美鈴がとっ捕まっちまうじゃねぇか!」
その物騒なものを差し出してきたひとりを宗孝が思いっきり、文字通りぶっ飛ばした。




