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   ([中]編-55)

 俺の背後では、シャロンちゃんと、今はこの国の公女様という事になっているマリアちゃんとの会話が、続いている。

 マリアちゃんの発言の中には、所々、シャロンちゃんにとっては意味不明な為にスルーされているが俺には理解できる単語が混じっていた。そう、現代日本での俺の記憶の中にあった単語、が。


 どうやら、マリアちゃんの名前は漢字で真莉愛と書くようだ、とか。

 ある日、気が付いたら彼女は一人で街道から少し外れた広場の木の下にいたのだ、とか。

 何故だか、声を掛けてきたイケメンさんを見詰めたら物凄く親切にしてくれるようになった、とか。

 いつの間にか、セバスチャンが付き人として色々と世話を焼いてくれるようになっていた、とか。

 あれよあれよという間に、公女様だという話になってセバスチャンに訳の分からないことを沢山させられるようになった、とか。

 最初は、夢の中で乙女ゲームのヒロインにでもなったのかと思っていた、とか。

 最近は何だか、チヤホヤされても贅沢していても虚しくてどうでも良くなってきていた、とか。


 まあ、詰まるところは、セバスチャンに良い様に踊らされて何が何だか分からない内に色々とやらかしてしまった、という事のようだった。

 勿論、世間でイケメン狩りと言われている事案については、自覚があり、よくよく考えてみると拙かったのではないか、と今更ながらも後ろめたく感じ始めているようなので、マリアちゃんの我儘による問題行動も多々あったのであろうとは思われる。

 けど、まあ、十四歳の女の子が、親切面して保護者的な立ち位置に収まった悪意ある大人や太鼓持ちな周囲の人間たちにチヤホヤされて好きに振る舞うよう唆されてしまえば、そうなるのも致し方ないだろう。


 という事で。

 この国の現在の首脳部と公女様を引き離して、この国の正常化を図る。というプランは、実行する価値がありそう、という判断が成り立った。

 ただし、国政から排除されてしまっている大公家の他の人間や重責を担っていた元高官たちが、復帰できるかどうかは未知数。なので、正確には、この国の正常化に向けて舵を切る、といった意味合いが強い。

 そして。公女様と祭り上げられているマリアちゃん本人の説得も、シャロンちゃんにお任せした結果、ほぼほぼ成功しているようだった。

 残るは、物理的なマリアちゃんの退避と、目の前で悠然としつつも強大なプレッシャーを更に積み増し中の得体の知れない宰相代理殿をどう捌くか、なんだが...。


「さて。そろそろ、茶番は終わりに致しましょうか」

「...」


 う~ん。やっぱり、隙がないし、圧が只者じゃない、気がする。

 力任せであれば遣り様はあるかも、と思わなくもないが、少なくとも背後に二人の女の子を庇って相手をするには強敵過ぎる、ような気がする。

 まあ、俺は、対人戦闘のプロではないので、対魔物戦闘での経験を基にした動物的勘というか感覚的なものだが、たぶん、大きくは外れていないと思う。


 困った。


「素直に投降するのであれば、苦しまないようにはして差し上げましょう」

「...」

「さあ、公女殿下をこちらにお渡しなさい」


 このまま自力のみでの脱出を図るプランAを諦めて、プランBを発動するか?

 いやいや、少しくらいは、粘ってみようか。

 けど、シャロンちゃんとマリアちゃんに怪我させる訳にもいかないしなぁ。


「セバスチャン、って偽名ですよね?」

「何ですか、藪から棒に」

「いや、ね。マリアちゃんの素性は何となく分かったんだけど、宰相代理殿が何者なのか、詳しい情報が全く出て来なかったもので」

「ふん。見ての通り、マリア公女様の補佐役であり、ベッドフォード公国では宰相代理という役職を賜っている者ですよ」

「ははははは。それは仮の姿、でしょ」

「...」

「海の向こうというか大陸から来た、商人のフリをしている、どこぞの大国の高級軍人さん、じゃないかな?」

「面白いことを、言いますね」

「お褒めに預かり光栄、です」

「ふむ。大陸の存在を知っていて、黒目黒髪に、見た目よりも年を食っている」

「...」

「成る程。あなたも、ニッポンジン、とかいう素性を持つ者の一人ですか」

「...」

「面白い」


 いや、あまり面白くないんだが...。

 しかも、会話で気を逸らそうとしてみたのだが、全く隙が生まれていない。

 その上、俺の方は、全神経を張り詰めて警戒しながら、展開する空気の壁を慎重に制御し維持しているのに、欠片も安心できない状況なのだ。


 駄目だ、これは。


 威圧や位置取りなど物理の技巧と小出力の魔法による絶妙な干渉で、俺の展開する魔法が成立する条件を微妙に崩して霧散させようとする。

 そんな高度なスキルを涼しげな表情で片手間に駆使するセバスチャン氏の能力に、俺は、戦慄していた。

 冗談抜きで、このまま我慢比べを続けていたら、盛大に押し込まれる。

 しかも。魔法を封印された物理での攻防となると、あの身のこなしとその片鱗を披露中の技巧と先程の扉による不意打ちへの対処から推定される技量を考えると、勝てる気が全くしない。

 まだ、広い場所で距離を取り周囲に保護対象がいない状況であれば、魔法の物量攻撃を連打して押し切ることで多少は勝ち目も出てくる、と思うのだが...。


 流石に、明らかに怪しげなセバスチャン氏とそれ以外の傀儡ぽく見えるとはいえこの国の重鎮たちを、一緒に吹っ飛ばす訳にも行かない。ので、魔法による火力や腕力で圧倒する戦法をどちらかと言えば得意とする俺には、選べる選択肢が少なかった。

 うん。やっぱり、素直に諦めよう。

 そう。下手にお試しで攻撃して、セバスチャン氏が多少でも本気で攻略する気になってしまったら、拙い。


 諦めが肝心、というか、無駄に足掻かず素早い切り替え、が俺の身上だ。


 プランBに切り替え、と決断。

 その為に、まずは、左手で圧縮空気の盾を制御しつつ、右手で魔力を練って火球を生成。

 更にどんどん魔力をつぎ込み、火球の威力とサイズを大きくしていく。


 セバスチャン氏の反応を見ながら、つぎ込む魔力を更に増やす。と見せかけて...一気の最大加速で、放出。

 運動会の大玉転がしの赤玉に見えなくもない外観の火球を、セバスチャン氏に向けて真っ直ぐに突撃させる。

 と思わせて、途中で唐突に進路を反らせ急カーブを描いて上昇、部屋の天井へと外壁側に向いた角度で激突させた。


 どっかぁ~ん。

 バラバラバラ...。


 といった轟音と瓦礫が崩れ落ちる騒音と共に、謁見の間の天井に大穴が開いて、綺麗な青空が見えた。

 呆れた顔して小馬鹿にするような視線を向けてくるセバスチャン氏は、スルー。

 俺は、間髪入れずに、大声で助っ人を呼ぶ。


「ダリウス、かもぉ~ん!」


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