ALL DAY Maintenance工業株式会社
思いついた時に更新します。
かなり不定期です。
20XX年。
俺の名前は飯田裕翔。年齢は23歳。
4年制大学をストレートで卒業する俺は、今年の4月から新卒社会人となる。
俺は地元でも全国でも有名な、あの東証クライムに上場するオールデイマイン……なんちゃら工業株式会社に新卒で合格した。
あのMaintenanceのceはどう発音すればいいのだろうか。
まあ、それは大した問題じゃないからいい。
名前なんてのは所詮、誰かが勝手に決めたものに過ぎないのだから。
それよりも会社の待遇や詳細はこうだ。
——オールデイなんとか工業株式会社待遇——
離職率6%
——たぶん低い!
年間休日123日
——多い!
平均年収かなり高い。
——高い!
平均残業時間45時間。
——多いかもだけど社会人なら普通!
全国転勤あり。
——まあ受かってから考えよう!
おまけにこう書いてあった。
——アットホームで和気あいあいとした職場でやりがいが最もある職場です!
——対して俺の経歴——
私立Fラン経済補助金成立大学卒。
卒論は最高の読書感想文に引けを取らないクオリティ。
間違いなく、地頭は絶対に悪くない。
なぜなら、俺は勉強してこなかっただけだから。
酒は飲めない。タバコは吸えない。
友人なし。特技なし。
強いて挙げるならば、小賢しいこととずる賢いことには自信がある。
だが改めて見ても、俺の経歴はお世辞にもいい方じゃない。
やはり、面接で俺の地頭の良さが露呈してしまったのだろう。
改めて、俺の面接記憶を遡ってみようか。
***
それはたぶん重厚な雰囲気の面接室。
貫禄のある面接官が何人かいた。
そのうちの白髪だったような黒髪だったような男か女だった偉そうな人がそう尋ねた。
「なぜ、うちを志望したの?」
「え、あっ……はいっ!私が御社に志望した理由といたしましてはアレですっ……!そのっ」
俺はここぞとばかりに調べに調べ尽くした情報を面接官にぶつけようとした。
あれだけ何時間も練習したのに、頭が真っ白になったから、やたらでかい声を出してごまかした。
「それじゃあ、あなた自身を誰か有名人に例え——」
遂に来たっ!
もう何十回と聞いた履修済みの質問だ!
「私は潤滑油のような人間ですっ!」
面接官の声を遮り、即答した。
「そ、そっか。ありがとう」
***
俺の頭じゃこれ以上詳細には思い出せない。
が、声がでかかったから受かったのだろう。
そうに違いない。
あれから月日は流れ。
桜が散って足元に毛虫がはびこる季節。
遂に今日から、俺はあの、オールデイなんとか工業株式会社の正社員となる。
入社式は、田舎にある本社で行われる。
俺は都内で前泊し、朝一番の便に乗り、電車を乗り継ぎ、遠路はるばる田舎にある本社へ辿り着く。
「あれ、君も新卒?」
急に話しかけられた。
シワのないスーツ姿の若い男に。
何かの勧誘?
「……え、ああ。はい……そう、です」
俺は急な質問には弱い。
しどろもどろになりながら答える。
「何歳?」
突然年齢を聞かれてしまった。
ど、どうすれば。
こんな時は脳内の俺たちに会話させるしかない。
——今何歳?
——23じゃなかったっけ?
——いや今年24じゃない?
——誕生日から逆算しよう。
——誕生日いつだっけ?
——昨日って何日だっけ?
——昨日のハンバーグ美味しかったなあ。
——そう言えば最近、外出してなかったなあ。
だめだ。
思考がまとまらない。
待て。
何て質問をされていたっけ。
「だ、大丈夫?」
覗き込むスーツの男を見ていると、我に返った。
そうだ。年齢について聞かれていた。
急いで答えなくては。
「はいっ!24歳です!」
何も考えずに答えた。
まあ、近い年齢なら何でも構わないさ。
「24歳……?まあいいか。俺の二個歳上ってことだね。ちなみに、どこ勤め?」
この男には、コミュニケーションに詰まるということはないのだろうか。
「えっと……あっと、オール……オールダイニング」
「ああ。ごめんごめん。俺、今日からオールデイメンテナンス工業株式会社に勤める万象出喜流!」
俺の勤める会社はオールデイメンテナンス工業株式会社って名前だったのか!
「あ……俺、ぼくも同じ会社」
そう答えるとこの男は目を輝かせた。
「よかったあ!こんな田舎に俺と同じようなスーツってことは同じ会社に勤める人かなって思ったんだよね!」
ま、眩しい。
まるで太陽のようだ。
だが、裕翔。
ここで喰らいつけないと社会人なんてできないぞ。
——俺も、太陽になるんだ!
「は、はいっ……そうです!」
俺も、負けじと自身を内定へと導いたでかい声を出して応戦する。
「いい声してるね!君、名前は?」
「俺……ぼく、は、飯田裕翔です」
解けかけた靴紐を見ながら答えた。
「よっしゃあっ!裕翔な!これからは『ゆう』って呼んでいい?」
「あっ……はい」
「ありがとう!ユウ、じゃあさ、一緒に本社まで行こうぜ!俺のことは『できる』って呼んで!」
そうだった。
出喜流だった。




