プロローグ なぜか知らない女性を泣かせた罪悪感が消えない件~トップアイドルの僕が夢に囚われ続ける理由~
眩いスポットライトを浴びるたび、僕は少しだけ――許されているような気がする。
「陽葵くん、大好きー!」
「ひまちゃん、いつもありがとー!」
降り注ぐ歓声に、僕はいつも通りの微笑みを返す。求められるまま、優しくて誠実なアイドル。
それがルナステラの雨宮陽葵という、僕の役割だ。
でも楽屋に戻って、ひとりになると。
胸の奥に、あの重さが戻ってくる。
澱みたいに沈んで、どこにも消えない何かが。
夢を見る。
いつも同じ夢だ。
煤けた天井。軋む木の床。
そして――僕の手を握って、声を殺して泣いている、一人の女性。
顔も名前も分からない。
わかるのは、たったひとつだけ。
僕が、この人を泣かせた。
僕のせいで、彼女はあんなにも――絶望に染まった目をしていた。
目が覚めると、指先まで凍えるような喪失感に叩き起こされる。
心当たりなんて何もないのに、僕の魂だけが、僕が犯したはずの「罪」をちゃんと覚えていた。
「……今度は、笑ってほしいんだ」
鏡の中の自分に向かって、小さく呟く。
あの夢の彼女に、いつか笑顔を返せるなら。
その祈りだけが、僕をこのステージに繋ぎ止めていた。
だから僕は良いアイドルでいなければならない。
誰にでも平等に、太陽みたいに光を届け続ける存在で。
そうすればいつか、この重さも溶けていくはずだと――そう信じて。
その日は、あまりにも唐突に来た。
何千、何万というペンライトの海。
その中のたった一人と、視線が重なった瞬間。
――夢の中と、同じ目をしていた。
完璧に演じていたはずの僕が、音もなく崩れ始める。
(笑ってほしい。君にだけは、絶対に泣いてほしくない)
理屈なんて関係なかった。
ただその衝動だけが、僕の胸を激しく揺さぶっていた。




