アダージオ 【前日の過ごし方】 4
[カホラ]:「さて、今日はそろそろ上がりましょうか?」
[吹雪]:「そうですね」
空の色も大分変わり始めていた。
[吹雪]:「あ、俺が洗うよ、舞羽」
[舞羽]:「え? いいの?」
[吹雪]:「ああ、お前は帰る準備してろよ」
[舞羽]:「ありがとう、吹雪くん」
[吹雪]:「いいってことよ」
俺は三人の湯呑み茶碗を持って準備室へと向かう。
[カホラ]:「ふーぶーき!」
[吹雪]:「おっと、先輩?」
音がしなかったからびっくりした。
[吹雪]:「どうしたんです? 別にすぐ片づけは終わるから」
[カホラ]:「ああ、違う違う、そうじゃなくて」
先輩は一歩俺のほうに近づいてきた。
[吹雪]:「ど、どうしたんですか?」
[カホラ]:「うん、ちょっとね」
先輩の顔はにやにやと笑っているように見える。
[吹雪]:「な、何です?」
[カホラ]:「いいから、ちょっと」
黙ってろってことか?
[カホラ]:「ふふ、――それ!」
[吹雪]:「なっ!?」
突然すぎて、何にもできなかった。
[カホラ]:「ふふ、どう? 吹雪」
[吹雪]:「ど、どうって、ど、ど、どうしたんですか? いきなり」
突然、抱きついてくるなんて思わなかった。
[カホラ]:「ふふ、何って、ご褒美よ、ご褒美」
[吹雪]:「ご褒美?」
[カホラ]:「ほら、吹雪、マジックコロシアム優勝したじゃない。そのご褒美よ」
[吹雪]:「あ、なるほど……いやいや、こんなことしてもらわなくても別に俺は」
賛辞の言葉だけで十分なんだけど。
[カホラ]:「だって、優勝したんだから、これくらいのことはしなくちゃいけないかなって思ってさ。悪くはないでしょう?」
[吹雪]:「そ、それは……」
もちろんなんだが。すぐにさっきの感触が思い出される。
[カホラ]:「優勝おめでとう、吹雪」
[吹雪]:「あ、ありがとうございます」
[カホラ]:「ふふ、顔赤いわよ?」
[吹雪]:「そ、それはそうですよ」
赤くならないわけがないじゃないか。
[カホラ]:「じゃあ、私は部室の外で待ってるわね」
[吹雪]:「は、はい」
先輩はほほえみながら準備室を出ていった。
[吹雪]:「…………」
何というか、普段先輩はあんなことをしないからな。大胆な行動に少々驚いた。先輩にも、あんな一面があったとは……覚えておこう。




