アダージオ 【前日の過ごし方】 2
[愛海]:「あ、大久保くん、今、今度はこいつかーって思ったでしょう?」
[吹雪]:「え? そんなこと思ってないぞ? 断じて」
[愛海]:「嘘、顔に書いてるわよ? あー、日野かよー、折角舞羽と楽しくしゃべってたのによーって」
[舞羽]:「え!?」
[吹雪]:「おい、勝手に俺の心の内を予想すんな。思ってないぞ、別にそんなことは」
[愛海]:「えー? 嘘ばっかり」
[吹雪]:「本人が違うと言ってるんだから、お前は否定できないだろ」
[愛海]:「舞羽がかわいそうー」
[吹雪]:「別にそういう意味で言ったんじゃないぞ? 分かってるよな? 舞羽」
[舞羽]:「う、うん。もちろん」
[愛海]:「んー、つまんないわね、その反応。そこはもっと媚びるべきよ? 舞羽」
[舞羽]:「こ、媚びる?」
[愛海]:「私は、二人でモーニングトークを楽しみたかったなーとか、もっと側にいたい、とか。何かあるでしょ? 大久保くんが気になるような言葉」
[舞羽]:「ええ? む、無理だよ、私にはそんな……」
[吹雪]:「俺がすぐ横にいること、分かってるよな?」
[愛海]:「……横に大久保くんなんていなかった」
[吹雪]:「勝手に俺の存在を消すな!」
[愛海]:「そう、こういう突っ込みを私は待ってたのよ。大久保くんグッジョブ!」」
[吹雪]:「お前、結局何の話がしたいんだよ」
[愛海]:「ああ、そうだった。すっかり話が逸れちゃったわ。もー、舞羽ったらー」
[舞羽]:「ええ? 私のせいなの?」
[愛海]:「冗談よー、本気にされると私が困っちゃうわー」
舞羽も大変だな……。
[愛海]:「で? 何の話だったっけ?」
[祐喜]:「ピアニストの話じゃなかったかな?」
[愛海]:「ああ、そうそう。誰になるのかしらねー? ピアニスト&ハーモニクサー」
[吹雪]:「さあな、俺たちが決めることじゃないから分からないだろ」
[愛海]:「そんな返答、私は求めてないわよ大久保くん」
指差されても困るんだが……。
[愛海]:「誰でもいいから、とりあえず答えは言ってみるものでしょ? じゃなきゃ一生答えは導き出せないわ」
[吹雪]:「俺たちが導き出す必要性は特にないはず」
[愛海]:「いいのいいの、こういうのも楽しいじゃない。はい、シィンキングターイム!」
仕方ないな……。俺たちは言われるままに考える。
[愛海]:「はい、じゃあヨッシー、どうぞ」
[祐喜]:「ん、僕は聖奈美かなって思うな」
[愛海]:「聖奈美っていうと、杠さんだね」
[祐喜]:「そう、生徒会長だし、少し融通聞かないけど、悪い人じゃないからね」
[愛海]:「伊達に一緒に仕事してないわねーヨッシーは」
[祐喜]:「まあね」
[舞羽]:「オッケー、じゃあ次は舞羽、どうぞ」
[舞羽]:「私は……、カホラ先輩、かな?」
[愛海]:「おー、なるほど。して理由は?」
[舞羽]:「え? 理由って聞かれると、とにかく、やってくれそうな気がするから。カホラ先輩はすっごく頼れる人だし」
[愛海]:「確かにねー、先輩は何でもできるもんねー、選ばれるかもしれないわねー。うん、オッケィ。じゃあ最後大久保くん、どうぞ」
[吹雪]:「ん?」
[愛海]:「ちなみに言っておくと、今出た二人以外はダメだよ? 被るのはNGって方向でよろしくー」
……だとしたら、もう横にいる奴以外選択肢はないな。
[吹雪]:「ん」
[舞羽]:「……ん?」
[愛海]:「あ、舞羽ってこと?」
[舞羽]:「ええ!? だ、だから吹雪くん!」
[愛海]:「理由は?」
[吹雪]:「こいつはピアノを幼い頃からやってるし、性格もしっかりしてる。選ばれても何もおかしくはないはずだから」
[愛海]:「ふーん、なるほど。んふふふ」
[舞羽]:「――っ」
何故か舞羽の顔は赤くなっていた。
[愛海]:「頑張れー、舞羽」
[舞羽]:「ま、まだ決まったわけじゃあ」
[愛海]:「準備しておくに越したことはないでしょ? ファイト」
[舞羽]:「んー、吹雪くんと同じこと言うんだね」
舞羽はそんなことを言ってるけど俺は本当に選ばれそうな感じがするんだよな、舞羽は。
[繭子]:「よーし、授業するよー」
俺たちは席に戻った。