テヌート 【ハーモニクサーの鍛錬】 4
[舞羽]:「――ふう」
俺は拍手を送った。
[舞羽]:「あ、ありがとう」
[吹雪]:「今ので全部か?」
[舞羽]:「ううん、これで、半分くらいかな」
[吹雪]:「結構今のでも弾いたよな? でも半分か?」
[舞羽]:「うん、半分」
[吹雪]:「うーん、まだまだ先は長いか」
[舞羽]:「そうだね、でも、私はまだ恵まれてるほうだよ。一応経験してるからね」
[吹雪]:「今日は? 全部通すのか?」
[舞羽]:「そうだね、通せるのならそうしたいな。でも、思った以上に難しくて、まだ半分までしか弾けてないんだ」
[吹雪]:「そうなのか。ちょっと見てみたいな、その楽譜」
[舞羽]:「見たい? これがそうだよ」
[吹雪]:「お、サンキュー」
俺はそれを受け取って少し眺めてみた。
……………………。
…………。
……。
[舞羽]:「吹雪くん?」
[吹雪]:「舞羽、お前こんなの弾いてたのか?」
[舞羽]:「え? う、うん」
[吹雪]:「すごいな……」
楽譜に目を通すのは初めてじゃあない。小さい頃、よく舞羽の弾いてたピアノの楽譜を見たことがあったからな。だが、その頃見たものとは、明らかに格が違っていた。
[吹雪]:「何だよコレ。メチャクチャ難しいじゃないかよ。記号たっくさんあるし、五線紙の中音符ばっかりじゃん」
[舞羽]:「うん、そうだね」
[吹雪]:「……恐れ入ったよ、舞羽さん」
[舞羽]:「え? え?」
これならピアノも人を選ぶのが分かる。
[吹雪]:「舐めてた、俺、どれだけ年越しの行事が大事なのかを」
テキトーにやってたら、間違いなく島が崩壊しているな、きっと。
[吹雪]:「なるほど、だからハーモニクサーか」
[舞羽]:「え?」
[吹雪]:「ああ、俺学園長とさっきまでトレーニングしてたんだ。走り込みの」
[舞羽]:「そうなんだ」
[吹雪]:「「うん、死ぬかと思った」
[舞羽]:「何周くらい?」
[吹雪]:「うーんと、30周くらい走ったかな」
[舞羽]:「ろ、30周!? もうランナーじゃない」
[吹雪]:「ああ、ヘロヘロになった」
[舞羽]:「よく、走りきれたね」
[吹雪]:「後ろから学園長が追いかけてたからな、ほうきに乗って」
[舞羽]:「あ、それはやめられないね」
[吹雪]:「ああ、頑張ったと思うよ、我ながら」
[舞羽]:「お疲れさま」
[吹雪]:「うん。で、その後に学園長が言ってたんだ。ハーモニクサーはこれ以上ないくらい大事な役割を担っているって」
[舞羽]:「うんうん」
[吹雪]:「ハーモニクサーをこれ以上ないくらいに万全な状態に仕上げれば、成功への近道になるって言ってたんだ。その意見が正しいことに、今身を持って感じた。こんな難しい曲を弾かなきゃいけないから、ハーモニクサーが全力でカバーしなくちゃいけないんだって」
[舞羽]:「そうかもしれないね、私から見ても、この曲は難しいもの」
[吹雪]:「やっぱそうだよな? これを簡単だって言ったら、正直気持ちが悪い」
中にはいるのかもしれないけど……。
[吹雪]:「全力でやらないと、四季のピアノに怒られちまうぜ」
[舞羽]:「そうだね、お互いに頑張ろう? 吹雪くん」
[吹雪]:「ああ、そうだな」
[舞羽]:「じゃあ、早速弾かなくちゃ。新しいところにチャレンジだよ」
[吹雪]:「うん、やるか」
俺は舞羽の奏でるメロディーを熱心に聞いていた。




