テヌート 【ハーモニクサーの鍛錬】 3
[場所:第一音楽室]
さて、誰がいるんだろう。誰がどの場所にいるかまでは把握してないからな。まあ誰がいても普通に接するだけだけど。
[吹雪]:「入るか」
俺はドアを開けた。
[吹雪]:「失礼します」
[舞羽]:「あ、吹雪くん」
お、ここは舞羽の練習場所だったのか。
[舞羽]:「どうしたの? あ、ひょっとして」
[吹雪]:「そう、ハーモニクサーのお仕事だ」
[舞羽]:「わー、私なんだ。何か少し緊張しちゃうな」
[吹雪]:「何でだよ? 緊張する要素なんてないじゃないか」
[舞羽]:「あるよー、だって、練習風景を観察されるんでしょう? 吹雪くんのポジションはピアノの先生と同じだよ」
[吹雪]:「そ、そうなのか?」
[舞羽]:「そうです」
[吹雪]:「お前が思うほど厳しくなんてしないよ。安心しろって」
[舞羽]:「本当に?」
[吹雪]:「当たり前だろ? 今まで俺、舞羽に厳しくしたことあるか?」
[舞羽]:「…………」
[吹雪]:「お、おい、どうして黙る?」
[舞羽]:「だって、吹雪くん時々怖いんだもん。見てて」
[吹雪]:「例えば?」
[舞羽]:「繭さんを怒る時とか、怒る時とか、怒る時とか」
[吹雪]:「マユ姉のあれはしつけだ。舞羽には絶対にしないって」
[舞羽]:「……本当に?」
[吹雪]:「本当だ、破ったらマーブルチョコ奢ってやる」
[舞羽]:「わあ、百円で4つ買えるよ」
[吹雪]:「ん? 何か言ったか?」
[舞羽]:「いえ、何でもありません」
[吹雪]:「うん、それでよし。にしても、先生はいないのか? ずっと一人で練習?」
[舞羽]:「ううん、さっきまではいたよ。でも、ここからは一人でって言って出てっちゃった」
多分、俺が来ることも予定の内に組み込まれてるんだろうな。
[舞羽]:「だから一人だったんだ」
[吹雪]:「なるほど」
[舞羽]:「よろしくお願いします、吹雪先生」
[吹雪]:「はい、よろしくお願いします。……何だ? このやりとり」
[舞羽]:「あははは」
[吹雪]:「ま、さっきやってたように練習してくれ。とりあえず横で見てるから」
[舞羽]:「うん、分かった」
舞羽はイスに座ってピアノに向かい合わせになる。
[吹雪]:「じゃあ、弾きます」
[舞羽]:「うん」
舞羽は一回深呼吸して、ゆっくりと鍵盤に指を走らせた。昨日聞いたものよりもスローテンポだ。だがそれは仕方がない、いきなりそんな早く弾けるわけなどないからな。それに素人でも分かる難解なメロディーだ、むしろゆっくりでもペースを乱すことなく弾けていることに尊敬の念を抱く。俺はしばらく聞き入っていた。
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