すくいのて。
目が覚めると、六花の膝枕で驚いた。
「起きた?1時間位寝ていたよ?」
サラサラと長い漆黒の髪の毛が、悠人の顔に掛かってくすぐったく火傷の手でゆっくり払う。
「1時間?…もっと寝た気がする。」
「ありがとう、助けに来てくれて。キャロラインさんも、小さくなってたよ?」
外して投げ捨てた包帯は、再び六花が巻いたのだろう綺麗に手のひらに収まっていた。
「六花がいなかったら、業者を呼んでいたかも知れないけど。心配だった…怪我はない?」
「ありがとう、寒かったの実はでも王子様が助けてくれたから。」
起き上がって、見上げる六花を抱き寄せる。
お茶の時間だと食堂に行けば、ワッフルが出て来た。
ダウェル家のワッフルがことのほか好きな六花は、出る都度小さく拍手をするので調理場も覚えていたのだろう。メープルにするか、ジャムにするか?選択肢に、六花はフォーク片手も唸る。
ちなみに、悠人の分は一口サイズにカットされており、簡単に食べれるよう手配されていた。
その後お土産を買いに行こうと、アーネストとレオンに合流しドライブがてら出かけて帰宅したのは21時をとうに過ぎていた。
荷物になる分は、着替え以外を大きな郵便局から貨物で出して、後は部屋にあるキャリーバッグだけ。
ごそごそ何か始めた六花を覗き込めば、唇にラップを貼って目線で何か?と聞いてくる。
片手には、塗ったらしく小さな瓶を握りしめていた。
「はちみつ?」
ペリペリとラップを剥がして、見せてくる唇は成程艶々プルプルしているようにも見える。
「プルプルになるんだって、美味しいし一石二鳥でしょ?」
うふふと笑うに対し、ニヤと笑って唇を重ねる。
「ん…やッ」
塗ったハチミツを舐め取り、いつもより長く深く貪っては甘く噛みついて、必死に上着を引っ張る合図で渋々顔を離す。
「もぉ、ハチミツ無いじゃない!ハチミツ食べたいんだったら、あげるから。」
「ん?違う違う…。」
ゴニョゴニョと耳元で言われ、その言葉に顔を真っ赤にして抱きつかれるまま硬直する六花は、仕方ないなぁという顔で瓶を近くのテーブルに置いて悠人の首に腕を絡ませた。
疲れ果てたような顔して眠る六花の髪を撫で、そっと身を起して引き寄せる。
何事か思案するように、少し遠い目をして手はゆっくり髪を撫でては、止まるを繰り返し。
「そうだな…」
ポツリとこぼす、無意識に出た言葉。
何か決めたのだろうか、手を止めてやがて布団に入って目を閉じる。
夜明けまで、あと2時間と言う時間帯の事。
「蒼太、起きろ」
ギィとベットが軋み、ペチペチと頬を叩かれ深い眠りから無理やり起こされる。
「ん?な…なんだ?悠人ぉ?」
寝ぼけても端正な顔を歪めて、まぶしそうに同じ顔の悠人を見上げる。
「なに?」
「お前、体が開いたら日本に来い。」
「はぁ?」
がばっと身を起して、食い入るように悠人を見つめる。
「多分お前の優柔不断な経営は、社会経験不足なモンだと思う。」
ズバリと確信を突かれ、言いかえしも出来ない。
「だから、和奈城(僕)の経営する会社に、新入社員で入れ。僕の顔は、会社に出していないから身内だとはバレない。縁故入社にしておけばいい」
ポカンとする顔が、ようやく頭で理解出来たのか頷く。
「かぁさんには、お前からも言っておけ?さっき僕から言ったけどな」
「分かった、出来るだけ早く行けるようにする。ありがとう!それから…。」
ん?と、部屋から出て行こうとする悠人が振り返る。
「その手…だよ、その…何も出来なかったし?」
「お安いご用だ、この程度で済むならな。」
ヒラヒラと包帯だらけの手を振る姿を、見送って苦笑する。
―――――格好良すぎだよ、兄貴。
兄貴の背中借ります!ウスって感じで。
悠人さん、その手でお仕事どぅするんですかい?