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アゲダマ戦記:ゲームが現実に降臨して世界のルールが急変したお話。  作者: 忍絵 奉公


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第1話 廃課金ゲーマー、魔族を倒す


「……あと三秒」

薄暗い部屋の中で、アキラはモニターを睨みつけていた。

部屋には誰もいない。

机の上には飲みかけのペットボトル。

コンビニの弁当の容器。

そして、何度も使い込んだゲーミングマウス。

アキラは、そのマウスを握ったまま微動だにしない。

画面の中では、巨大な黒い影がゆっくりと立ち上がっていた。

ゲームタイトルは、

『アゲダマ・オンライン』

全世界で一億人以上がプレイしている、超巨大ソーシャルゲーム。

魔物を倒し、魔石を集め、装備を強化する。

レベルを上げ、ダンジョンを攻略し、仲間とパーティを組み、最終的には魔王を倒す。

単純なゲームだ。

ただし、アキラにとっては違った。

「来た……」

画面中央に表示される赤い文字。

《魔族将軍・グラディオス》

ゲーム内で、プレイヤーが遭遇できる魔族の中でも最上位に近い存在だった。

普通なら、十人から二十人程度の高レベルプレイヤーでパーティを組んで戦う。

だが。

「俺はソロでやる」

アキラは笑った。

廃課金。

それが、彼を説明する一番簡単な言葉だった。

月に何万円。

そんなレベルではない。

限定装備が出れば回す。

出なければ出るまで回す。

イベント限定武器も全部持っている。

しかも、ただ金を使っただけではない。

一日に何時間もゲームを続け、魔物の攻撃パターン、出現場所、ドロップ率、特殊行動まで調べ尽くした。

攻略サイトより詳しい。

攻略動画の投稿者から、

「アキラさん、検証データください」

と言われるほどだった。

そして今。

その集大成ともいえる戦いが始まる。

「来い!」

グラディオスが剣を振り下ろした。

アキラのキャラクターが横へ飛ぶ。

一瞬遅れて、地面が爆発した。

ズガァァァン!

「惜しい!」

画面の端で赤い数字が跳ねる。

しかし、アキラは焦らない。

知っている。

この攻撃のあと、グラディオスは必ず右足を一歩引く。

そして三秒間だけ、防御力が下がる。

「そこだ!」

アキラが一気に接近する。

剣。

二撃。

三撃。

さらに課金装備による特殊攻撃。

画面いっぱいにエフェクトが広がった。

グラディオスの体力が、一気に削られる。

「よし!」

だが、グラディオスも黙ってはいない。

雄叫びを上げると、黒い炎を周囲に放った。

「それも知ってる!」

アキラは迷わず後退。

黒炎の範囲外へ逃げる。

そして――。

「終わりだ!」

最後の一撃。

グラディオスの巨大な体が、ゆっくりと崩れ落ちた。

画面中央に、勝利の文字が表示される。

《討伐成功》

「よっしゃあああ!」

アキラは椅子から立ち上がった。

ゲームを始めてから、何年経っただろう。

ついに。

ついに、この魔族をソロで倒した。

そして、ドロップアイテムが表示される。

《魔族の黒角》

《魔石・黒》

《鑑定スキル》

「……え?」

アキラの声が止まった。

鑑定スキル。

ゲーム内でも非常に珍しいスキルだった。

通常は特定のイベント報酬や、極低確率の宝箱からしか手に入らない。

それを。

「ドロップした?」

アキラは画面を二度見した。

《鑑定スキルを獲得しました》

「マジかよ……」

思わず笑ってしまう。

今日だけで、とんでもない収穫だった。

アキラはすぐに鑑定スキルを装備する。

そして、何気なく画面の外を見る。

時計は午前二時十三分。

「寝るか……」

そう呟いて、ゲームを終了しようとした。

その瞬間だった。

画面が突然、真っ黒になった。

「ん?」

通信障害かと思った。

だが、違った。

黒い画面の中央に、見たことのない文字が浮かび上がった。

《SYSTEM ERROR》

《現実世界との同期を開始します》

「……は?」

アキラの顔から笑みが消える。

文字が次々と流れていく。

《プレイヤー情報照合》

《魔物データ同期》

《魔石データ同期》

《スキルデータ同期》

《世界法則書き換え開始》

「おい……なんだこれ?」

画面が激しく点滅する。

アキラはマウスを動かした。

動かない。

キーボードを叩く。

反応しない。

そして。

《GAME WORLD ONLINE》

最後の文字が表示された瞬間――。

部屋の電気が消えた。

「停電?」

アキラが立ち上がる。

窓の外を見る。

街灯も消えている。

東京の夜景が、真っ暗だった。

その時。

遠くから、悲鳴が聞こえた。

「……え?」

一人ではない。

何人もの人間が叫んでいる。

そして、道路の向こう。

暗闇の中で。

何か巨大な影が動いた。

アキラは息を呑んだ。

その姿を、知っている。

ゲーム開始直後に出現する最弱クラスの魔物。

ゴブリン。

「……嘘だろ」

アキラは呟いた。

だが。

その瞬間、アキラの視界にだけ、見慣れた文字が浮かび上がった。

《鑑定スキルが発動しました》

《対象:ゴブリン》

《危険度:E》

アキラは、ゆっくりと笑った。

「……本当に、ゲームになったのか?」

その夜。

一億人が遊んでいたゲームが。

現実世界に現れた。



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