041 最悪が災厄を招く
―――海へ向かうまでの間に、騒動が起きるのか。
それは誰にも分からなかったが、一つだけ言えることはあった。
「正直言って、この面子だと安心安全な旅路だよなぁ…」
【そうですよね。盗賊さんたちもなぎ倒せますし、魔物も従魔の力と聖女様の力でぶっ飛ばせますし…あれ、本当に脅威が無いですね】
過剰戦力なのかもしれないが、旅路でここまで心強過ぎるのは良いことだと思いたい。
道中が安心安全で過ごせるほうが、この世界にとって非常にありがたいのだ。
【他にも従魔はいるし、護衛もいるし、万全過ぎて、むしろ襲撃をかけようとする方々の方が哀れになりますわね】
「リリスの言う通りなのがなぁ」
まぁ、そもそもの話として、こんながちがちの面子に喧嘩を売ろうとする輩がいるのかどうか。
人であればまだ多少は理性があるから大丈夫だとして、生きとし生けるものを狙ってくる魔物たちであれば…これはこれで、本能的に逃げる方を選択するかもしれない。
襲われる側のはずだと思うのに、襲う側の方がはるかにリスクが高いとはこれいかに。
【なんにせよ、これはこれで平和で良いですよ、主様。聖女様も、馬車の中でおとなしくしているようですしね】
うふふふと笑うハクロだが、ちょっとだけ言葉に棘があるように思えるのは気のせいだろうか。
(気のせいではないですわね)
(他人事ではないのは分かるけどな)
ぼそぼそっとリリスとギランがつぶやいているが、聞かなかったことにしよう。
こういうことに下手に探りや深入りをすると、ろくでもない目に遭うのはなんとなく予感できるのだ。
かつて賢者も、「藪をつついて蛇を出す、噂に首突っ込んで嫁にベアハッグされる」と言う言葉もあるからこそ…何されたんだろうか、当時の賢者。
気になることはさておき、道中平和に時間が過ぎていく。
元々二日程度の旅路のはずで、護衛のための馬車の移動速度に合わせたとはいえ、気が付けば夕暮れ時になっていた。
「それで、明日の昼前には俺たちの林間合宿の場所につくけど、その1時間ほど手前で聖女様の目的地でもあるわけか…」
【ええ、そのようですね。一応、その場所に付けばさらなる護衛騎士たちもいるようで、到着時点でしっかりとした防衛ができるので、私たちとも別れますよ】
ほんのわずかな縁だったとはいえ、それでもこの道中で安全を得ることができたのであれば、彼女にとっても良かったのかもしれない。
「とりあえず、それでも夜中に魔物の襲撃がある可能性も否定できないし…油断せずに、警戒を続けておこうか」
「むぅ…明日でもう、終わりなのが悲しいですね」
「そんなことをおっしゃらずとも、道中無事に過ごせてよかったではないですか、聖女様」
…ルドラたちがゆっくりと話しているその頃、馬車の中では聖女やその護衛達も話していた。
「それにしても、あの蟻の大群を相手にして生き残って以降は、本当に平和に過ごせていいですな」
「ですが、馬車に仕掛けられていたものを考えると…最後まで気を抜けないですね」
聖女の命を狙うような、悪辣な仕掛け。
ほぼ全員が、その仕掛けてきた相手に心当たりしかないが、それゆえに最後まで油断できないこともまた理解しているのだ。
「一応、既に聖公国へマジックアイテムで伝達を行いました。すぐにでも粛清騎士団が動き出しそうですが、妨害工作をして動きが遅くなれば…」
「最後の機会、到着までのほんのわずかな間に仕掛けてくる可能性か……考えられるのはなんだ?」
「従魔たちと道中を共にしつつ、魔物をおびき寄せる危険な薬もあったことを考えると、『凶煙』あたりが考えられそうか」
「確実に、首が飛ぶものですね」
『凶煙』、それは『魔吸引香』よりさらに厳しく処罰される、最悪の道具。
世界各国の、どのような異世界から来た従魔であっても関係なく、その垣根を超えて暴走させることができるものなのだ。
魔物から身を守るために召喚したのに、その道具によって自分たちが滅亡しかけるのもあって…敵味方を問わずに最悪の結果しか生まない代物ゆえに、所持するだけでも最悪即座に死刑が言い渡されるほどである。
「絶対に、あの大司教ならば仕掛けて来ておかしくない」
「ならば早めに、王国の者たちとは別れておいたほうが…」
「いえ、恐らく駄目ですね。…もしも使用された場合、離れても不味いのがいますよ」
「…彼女たちか」
誰を示すのか、言わずとも分かるだろう。
道中過ごしつつ、あの戦いの中で見た隔絶した高みにある従魔たちの姿を。
万が一にでも、大暴走すれば…想像したくないほどの、大惨事になる可能性がある。
「その時に止められる可能性があるのが、聖女様の聖光ですしね」
魔物たち相手に有効な、聖女の力。
それは魔の付く存在にこそ効果があり…従「魔」たちも例外ではないのだ。
「でも、出来るだけ最悪なことにならないように、今は祈るしかないです」
もしも、本当に最悪の事態になってしまった時に、止めることができるのか。
厄災が起きることが無いように、心の底から祈るしかできないのであった…
あってほしくない事態
しかし、それは一刻一刻と迫りつつ…次回に続く
…さぁ、どうなるのやら




