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黒幕の花嫁〜私は悪女なのでしょう?この婚約、利用させていただきますね〜  作者: 竹藤煤


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14/20

014.クラスメイト

 階段教室の窓際の一番後ろの席。四人ほど座れる木製の長机に突っ伏して、婚約者様は眠っている。


(殿下、仲良くしてほしいんじゃなかったのですか?)


 自己紹介を終えてから、彼はずっと静かな寝息を立てていた。


「王子、ずっと寝てるなぁ」

「疲れているんじゃないですか? ほら、公務とかで」

「精霊様が魔力使ってるからじゃないの? 魔力探知したらわかるじゃん」

「ほんとだ! マジで減ってる!」

「精霊裁判で減るんですよね? つまり今――」

「悪いやつがやっつけられてる! 魔力が毎日勝手に削られるなんて、僕だったら死んじゃうぞ」

「そんなやつを精霊様が選ばなくね?」

「選ばれる前提で言ったわけじゃないでしょ…」


 ガカクのクラスに馴染むための策は成功したらしく、代わる代わる話しかけられる。正直、名前を覚えきれない。楽しそうに騒いでいる彼らは平民の出で、中等部から一緒の四人組。


「ロディナさんは殿下を起こしてから食堂に行くの? 場所わかる?」

「はい。大丈夫です。誘ってくださってありがとうございます」

「また一緒に食べましょうね」


 四人を手を振って見送ると、気づけば教室は閑散としていた。


「殿下、昼食の時間ですよ」


 肩を軽く揺すってみるも、起きる気配はない。


(何度声を掛けても、起きないんですよね。放っておくわけにもいきませんし)


「大変そうね」


 銀髪の女生徒が唐突にふらりとやって来て、前の席に座る。


「私はレイン。ロバーツ子爵家の娘」

「ロディナ・ニフテリーザと申します」

「知ってる。自己紹介で聞いたし、有名人だから。厄介事に巻き込まれて災難ね」


 返す言葉が見つからず、ロディナは曖昧に笑った。淡々とした口調の彼女は、どうやら婚約の経緯を知っているらしい。


「でも、王子様が気にかけてるのは驚いた。大抵の婚約を、決まる前に潰す人だから」

「潰す? では今までも婚約のお話が」

「うん。陛下がそれで困ってるって、父様が言ってた。今回だって、やろうと思えばできたはずなのに……とっても不思議」


 レインは身動ぎしているガカクをじっと見つめている。


(そんな方法があったなら、今回こそ婚約を回避するために動くはずでは?)


 当人は、教会相手には動きづらいと言っていた。訴えがないと裁くことが難しいとも。


「詳しく教えていただいても構いませんか?」

「いいよ。例えば、シルフ様の父親。臣民公爵という申し分ない身分で、教会嫌い。王家はしがらみが多いから、彼に裏で金が動いてるとか訴えてもらうの」

「証拠もないのに、適当な理由で?」 

「うん。教会も、公爵相手に訴えを受理できないとは言えないでしょ? 証拠は見つからないから、確実に精霊裁判になる。真実を暴いてもらえば、婚約は解消」

「えっと…冤罪のリスクを考えると、公爵様は動いてくれないのでは? 真実を映す水鏡に何も映らなければ、公爵様が罰を受けることになりますし」


 裁きの精霊は、訴えに応じた真実しか見せてくれない。だからといって多くの罪で訴えても、訴えた者が割を食うようになっている。


「そう、かもね。でも、お金が動いてないと思う? ニフテリーザ家が教会からお金を貰ったとか、ありそうだけど」


(……。こう思う方も、いらっしゃるでしょうね。言わないだけで。養子ってだけで、色々言われますし)


 義父母も、敬虔な女神教の信徒。だからこそ、司教から話を聞いてロディナを養子として受け入れてくれたし、我が子のように育ててくれた。エイレアの変化に気づかない親であっても、お金で動く人ではないと知っている。 


「それはないと断言します」

「だといいね。でもやっぱり不思議」

「…殿下の行動が、ですか」

「うん。お姫様に刺されたことあるって聞いたし、婚約を潰すのはそれがトラウマだからだって」

「さされ……た?」


 ロディナは、気持ち良さそうに眠っている婚約者を一瞥した。


「あ、言っちゃいけないこと言ったかも。忘れてね」


(無理では?)


「とにかくさ、王子様はシルフ様をわざわざ選んで声を掛けた。貴方とシルフ様が話していたからじゃなくて」

「そのようですね」


 身分は、どう足掻いても付きまとう。公爵令嬢である彼女の言葉で、ロディナを受け入れるしかなくなった者は、確実にいるはずだ。


(中身はアレなのに……。殿下は本当に心配して? やはり自分のため? はぁ。何を信じればいいのやら)


 考えるのも嫌になっているロディナに、レインは淡々と続ける。


「チャンスをもらったんだから、友だち、できるといいね。ちなみに私は無理。もう二度と話しかけないで」

「え、あのっ、ありがとうござ……い」


 レインは最後まで聞くことなく、出て行ってしまった。

 

(話しかけてきたのはあちらなのに? ……もしかして、彼女は殿下を――)


「おはよーございます! 呼び出しで遅れました! アダラ・ドーニスです」

「誰もいないって!」

「いるだろ? 二人。白頭……あ、ガカクじゃん! 久しぶりだなっ! 契約者のナントカ会議以来だな!」


(アダラって、勇者様の名前。殿下と知り合いなのですか?)


 褐色肌の少年の後ろを、赤髪の少女が追ってくる。彼女にも見覚えがあった。いつか聖女と名乗っていた女の子と同じ髪色している。


「寝てるのか。お前は? ガカクの従者?」

「婚約者だって! ごめんなさいロディナ様。あたしはペルレと申します」

「婚約者? この国だと……おめでとうで合ってる? 俺の国だとさ、うん。ダメなのかよ」


 言葉の途中で、ペルレがアダラの頭を小突いた。


「初めまして。アダラ様、ペルレ様。ロディナ・ニフテリーザと申します」

「ロディナだな。おめでとうって言ってごめん。アダラでいいぞ」

「あたしもペルレでいいですよ。皆さんはどちらに?」

「昼食で食堂に」

「あー、ガカクが起きなくて待ってんのか。よし、俺が起こしてやろう」


 アダラは人差し指の先に炎の玉を出した。


「え、アダラさん?」

 

 ロディナは立ち上がって、彼を止めようと動く。


「ちょ、アダラ! 魔法はダメ! 教室で炎魔法はだめだって! 相手は王「当てないって。倍の大きさならどうだ! 熱くて起きるだろ」

「それ、ロディナ様もあたしも暑いから!」


 水魔法で消火しているところを教師に見つかり、ロディナたちは初日から叱られる羽目になった。

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