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黒幕の花嫁〜私は悪女なのでしょう?この婚約、利用させていただきますね〜  作者: 竹藤煤


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13/20

013.私が少し後悔しています

「王太子様とのご婚約、おめでとうございます。心よりお祝い申し上げますわ。身分など関係なく、とってもお似合いのお二人ですね」


 悪意の込められた祝福は、いつかの意趣返しのつもりだろうか。席に着いていた同級生たちも、廊下や扉の近くから見守っているというのに、言うのを我慢できなかったらしい。シルフという仮面が剥がれ、偽物の顔が覗いている。


(悪には悪がお似合いだと……。ではこの婚約、思う存分利用させていただきます。私と殿下を結びつけたこと、後悔しないといいですね)


 呆れながら礼を返していると、頭一つぶん小さなシルフの向こうに、駆けてくる男の姿が映った。


(本当に来てくださるとは)


 シルフも彼の足音に気づいたらしい。婚約者と勘違いしているのか、頬を染めている。わざとらしい緩慢な動きで、彼女は後ろを見た。


「ヴァルクさま!」


 猫撫で声の彼女が見上げたのは、アレクトン王国の王太子。物語において、一度も学園では登場することのない男。


 二度見して硬直するシルフに、ロディナは思わず口元を押えて俯いた。


「おや? 驚かせてしまったようで申し訳ない、ヴィルトガンス嬢。ヴァルク殿なら、もうすぐこちらにいらっしゃるはずだ」

「でん、か? 殿下が、なぜこちらに」


 まさかの王子の登場に、動揺が伝播していく。


「今日からみなと同じく、この学園の生徒になった。学校というものに通ったことがないゆえ、迷惑をかけるとは思うが、色々と教えていただけると有り難い」


 ゲラノス学園の高等部は、十六になる年齢の以上の者なら、試験に受かれば誰でも入学できる。ガカクのように十九の者もいれば、三十近い者も通う学校だ。四年制で、三年次からは生徒個々人の目標に合わせて、授業を選ぶ方式を採用している。


 ロディナは、転生者の使う魔法を封じようとガカクを利用した。


 過去の経験から、転生者は一度だけ大規模な洗脳系の魔法を使うことがわかっている。エイレアが教会裁判所の者たちを全員魔法で操り、自身に都合の良い判決を下させようとしたことが何度もあった。あまりの効果範囲に禁術として記録も残らず、時間が戻ってしまうために対処の仕様がない。


 サナにも魔法のことを訊ねてみたが、物語に描写はなく、彼女自身は使えないらしい。転生者でも使える人間は限られているようだ。


 裁きの精霊の契約者で、自分と同じように洗脳系の魔法が通用しないガカクという存在は、〝いる〟というだけで、抑止力になる。


 もし魔法を使われたとしても、王太子の婚約者であれば訴えは通るはずだが、念には念をと『何かされると怖いから、たまに学校へ顔を出してほしい』とガカクに頼んだ。シルフの反応を見るに、どうやら正解だったらしい。


(生徒になってとは、頼んだ覚えはないのですが)


 彼は「学校という理由があれば、仕事をサボれるかもしれない」と言っていた。国王より忙しいという噂は本当なのかもしれない。


「まぁ、殿下と共に学べるだなんて光栄ですわ。失礼かと存じますが、皆様気になっていらっしゃると思いますので、入学をお決めになった理由を伺っても?」

「父上より賜ったこのゲラノスで、領主としても勉強の日々を過ごしてはいるが、学校での交流も大切なことではないかと考えた。婚約者となったロディナ嬢が心配だったのもある。…こちらのほうが、理由としては大きいかもしれないな」


 彼の柔らかい笑みに、「まぁ!」と周りから声が上がった。おそらく声を上げた者たちは、婚約の経緯を知らないのだろう。


(それ、付け足す必要あります? 嫌がらせ? 教会関係者もいますし、関係の良好さを周知するのに意味がないとは言いませんけど)


「ロディナ様を、心配なさって? 殿下はお優しいのですね」


 『正気か?』とでも付け足されていそうな声で、シルフが言った。


「彼女は誤解されやすいようなんだ。恥ずかしがると、ああやって不機嫌な顔になる。可愛らしいだろう?」


 周りの目が、全てロディナに向く。


(馬鹿王子! おかげさまで私が後悔しそうです! 学校に呼ばなきゃよかったって)


「今の顔は、余計なことを言うなって顔だな」


(そこだけ正解するのですね……わざとですか?)


 間抜けな顔をしたシルフと目が合った。『黒幕となんで仲良くなってんの?』という顔をしている気がする。こればかりは大変遺憾だ。全てが彼女のせいであり、転生者にも理解不能な男と仲良しなわけがない。


 黙っていられなくなって、ロディナは口を開く。周りから向けられる視線に、恥ずかしくなったわけではない。


「殿下。あまり皆様の前で……その」

「これ以上はやめておこう。叱られてしまうな。僕の婚約者だからと、彼女を遠巻きにしないでくれると嬉しい。感情を表に出すのが不得手なだけで、優しい女性なんだ。無論、僕とも対等な立場のクラスメイトとして、仲良くしてもらいたい。構わないだろうか、ヴィルトガンス嬢」

「もっ、もちろんですわ。ね、皆様」


 シルフは動揺が乗った声で、周りに同意を求めた。まばらな拍手と、「よろしくお願いします」という声があちこちから上がる。


(……情報収集がしやすくなったと思うことにしましょう。偽シルフも、動きづらくはなったでしょうし)


 最後の言葉で、彼の狙いも何となくわかった。ただ、王家が婚約を破棄にするつもりなら、不用意な発言だとは思う。


(本当に、何を考えていらっしゃるのだか……。あと、どういう顔で席に着けばいいの? 殿下の隣が空いているのは、そこに座れってことですか?)


 同級生たちが教室へと戻っていくなか、ロディナはシルフと二人で廊下に取り残された。

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