11 ボクはビシッとざまぁを決める!
最終話です。大団円。
ボクはぶるっと震えた。武者震いだ!
やるぞ、やってやるぞ、やってやるんだ!
隣を歩くテレーズが、ボクを励ますように、手をそっと握ってくれる。
ふたりのためにやるんだ! やってやるんだ!
卒業パーティ会場に入ると、あいつを探す。
どこだ!? 悪の道に墜ちた弟は!? どこに隠れている!?
兄がこれから成敗してやるからな!
弟はイケメンボイスだから暗闇でも判るぞ!
いた!
この時が来た! 悪が滅びるこの時が!
ボクは突進する。ビシッと言って引導を渡してやるぜ!
「ゲルドリング伯の娘マリアンヌよ!」
ボクはポーズを決め、ズビシリッ、とマリアンヌを指さした!
「ここにっ! お前との婚約破棄をっ!」
ちらっと弟を見る。
邪悪な取り巻きどもを従えた弟は、邪悪な笑みを浮かべてますねー。
ボクでも事前に知ってればわかる!
顔に『オレ、これからざまあするんだ』ってぶっとい文字で書いてあるぜ!
安い! 安すぎるぞ弟よ!
しかもマリアンヌの率いる正義の軍団に囲まれてるし!
お前はすでに死んでいるのだ!
ボクは、くるり、と向きを変え、弟を指さした。
ズビシっとな!
これぞ王者の宣告のポーズっ!
「宣言すると思ったかローゼンクランツ!
お前がボクを陥れようと、いろいろやっていたのは判っているのだ!
文字通りすみからすみまでな!」
ぶちかましてやったぞ!
「ななななっなにをいっているのかおおオレにはさっぱりわっわからない」
明らかにうろたえる弟。
小物めっ。だからお前は悪なんだよ!
ボクの『ざまぁ』が今はじまるのだっ!
まずボクのターン!
ギルデンスターンのでっちあげをあばいたぜ!
「ギルデンスターンよ。余はマリアンヌ伯爵令嬢が学園に通っていない事を知っていたのだ。
それでいて、あえて知らないふりをしていたのだ! 余のことを見誤ったな!」
「そ、そんな! 嘘だ! お前は救いようのないバカ王子のはずだぁぁぁ!」
ギルデンスターン撃沈。
「罪に対する罰は追って下す! 連れてけ!」
さらば偽りの友よ!
またボクのターン!
お次は弟ローゼンクランツの陰謀をあばいたぜ!
「弟よ!ギルデンスターンとお前がつながっていたのは明白!」
ギルデンスターンとローゼンクランツの繋がりをぶちかまし!
「余の側近でありながら裏切っていた者たちと、密談を重ねていた事もな!」
そしてボクの側近どももグルでつるんでたことも大公開!
「謀議の内容はこれだ!」
離宮での密談内容も暴露暴露暴露!
「その上、取り巻きの一人を使って娼館を経営させ、
裏では経営に関わり、多額の収入を得ていたのみならず、
女達を過酷に弄び、何人かは死に至らしめていたことも判っているのだっ!」
いかがわしい娼館での変態加虐趣味までな!
ボクはぜーんぶお見通しだったのさ!
「しかも! 余の婚約者であるゲルドリング伯爵令嬢マリアンヌに横恋慕し、
今回明らかになった謀略の果てに、その身を得ようとしていたこともな! 証拠も多数あるのだ!」
ついでに横恋慕していた証拠を多量に叩きつけてやったぜ!
ビシバシビシッドカンとねっ!
こんなに証拠がいっぱいあるなんて、告発しているボクもびっくりだ!
「な、なんでだぁぁぁぁ!? 兄上は救いようのない愚か者のはずなのにぃぃぃぃ!」
ローゼゼンクランツ轟沈。
「罪に対する罰はおって下す! 地下牢へ連行しろ!」
さらば弟よ!
なにかわめいていたが、警備兵達に連行されてった。愉快愉快。
ボクはやさしいから北の鉱山で永久就職かなぁ。
そしてまたボクのターン!
ローゼンクランツを王太子にしようとする陰謀に加わっていた貴族どもをつるしあげだぜ!
「余を廃嫡させ、ローゼンクランツを担ぎ上げようと画策していたこと全て判っている!」
証拠証拠証拠の山!
ボクは王者のポーズを決めっ。そして重々しい声で。
「国のゴクツブシどもの陰謀は全て余の知るところであったのだ!」
って宣言してやったぜ! 我ながらイカス!
みなぎる! みなぎっちゃう!
これが王者の覇気ってヤツなのかね?
さっき報告に来た若い人や、その前に出てきた初老の人が、次々と証拠を出してくれるんで楽ちん。
ボクは、びしっとポーズを決めっ。
「余は全て知っていたのだっ!」って何度も言ってやったのさ!
王太子を廃嫡する陰謀ってのは、王家への反逆だよねー。
反逆罪で火あぶりか車裂き。
それより少し軽ければ平民落としに、財産没収、!
「罪に対する罰は追ってくだす! 連行しろ!」
悪いヤツらをドカドカドカンと撃沈!
悪が栄えたためしなし!
それでもまだボクのターン!
ボクは追放してしまったグスタフを抱きしめて、
「偽りとはいえお前を追放したのは身を切る思いだったのだ!
お前こそ本当の忠義の士! 信頼出来る人間だ!
臣下ではなく、ボクの友になってくれ! 友と呼ばせてくれ!」とか言っちゃったよ!
グスタフ男泣き。
「殿下! 殿下! 殿下に一生ついていきます!」
「グスタフぅぅぅぅぅぅ!」
「殿下ぁぁぁぁ!」
グスタフのハートもいただきっ!
こうして善は栄えるのだ!
※ ※ ※ ※
すっかり興奮して、なんだか自分がすごい王太子みたいな気がしてきたし。
陰謀全部知っていたような気までしてきちゃったからさ。
いかんいかん。
こんなことじゃいつか『ざまぁ』されるほうになっちゃうぞ。
ボクは舞踏会場のベランダに出た。
卒業と共に冬は終わり春になるけれど、まだ寒い。
でも頭が冷えてちょうどいいや。
うん。思い出してきた。
マリアンヌがボクに叩きつけた『ざまあ』を。
ボクってどっちかと言えばダメな王太子かもしれないってことを。
わかってる。わかってるとも。
「殿下、ここにいたのですか」
「殿下は主賓なのですから、中にいていただかなければ困ります」
振り返ると、テレーズとマリアンヌがいた。
「いや、なんかさー。あそこにいると、自分がすごい王太子みたいな気がしてきちゃって。
なんかそれ、まずいだろ」
うん。ボクも成長したよね。
はじめて人生のほろ苦さを知ったからな。
人間の渋みってやつ?
「殿下は素晴らしい王太子です」
顔がにやけてしまうじゃないですか。
「えへへー。テレーズぅ。だめだよぉ。そんなこと言ったら。
今度こそ『ざまぁ』されるほうになっちゃうよ」
マリアンヌがメガネを光らせ。
「その辺は、私がうまく手を打ちますから安心してください」
「安心より、怖さのほうが上なんだマリアンヌは」
テレーズが楽しそうに笑った。
「そう感じていらっしゃる限り、殿下は大丈夫ですよ」
「テレーズがそう言ってくれるなら、だいじょーぶかも」
「それにしても、殿下にあのような芸があるとは……驚きました」
「芸? ああっ! ボクの決めポーズのことかっ。
生まれて初めて練習っていうのをしたからなっ」
「違います。あれはもう少し洗練しないと恥ずかしいだけです」
「ええっ!? 鏡の前で一生懸命練習したんだけど……」
「殿下! 今度わたしと一緒に練習しましょう!
わたしは実家の仕事を手伝っていた関係で、
モデルさんの立ち方とか色々コツがあるって知ってますから」
「流石はテレーズ! 色々教えてくれるとうれしいな! でも、あれじゃないとすると芸って?」
「グスタフ殿に『臣下でなく、ボクの友になってくれ、友と呼ばせてくれ』と言ったではないですか。
予定になかったあの演技には驚きました。
かなりの人が感動し、殿下は素晴らしい方だとささやいておりましたよ。
よく思いついたモノですね」
ボクは目をぱちくり。
「そ、そうか台詞になかったのかっ。すまん!」
テレーズとマリアンヌは、顔を見合わせた。
「マリアンヌ様。わたしが言った通りでしたね」
「なるほど……素ですか。流石テレーズ嬢はよくお判りでいらっしゃる」
なぜかマリアンヌはひどく感心したようで、
「殿下。貴方は名君になれるかもしれませんね」
とまで言ってくれた。
「まさかー。本気にさせてから落とすとかしないでくれよ」
この時のボクは知らなかった。
この予言とも言えない予言は成就して、
ボク、オットー3世が名君と呼ばれるようになるなんてさ!
これにてジ・エンド。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますが最後までお読み頂けてうれしいです。
ありがとうございました。
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