エピローグ
村人を殺した勇者は、村人の妻を連れて村から姿を消した。
彼らの姿が最後に目撃されたのはフードを目深にかぶった勇者が殺した村人を家に運んでいる時だった。
殺された村人の家には至る所に油が撒かれ、何か所にも火を付けられていた為に村人たちの消火活動は難航して、彼らが姿を消すところを咎める暇もなかった。咎めたところで、彼らは止まらなかっただろうが。
黒く燃え残った残骸に雨が降る。
勇者を勇者として選んだ女神の悲しみの涙が。
勇者は女神に愛されていた。
勇者もまた女神を愛した。
女神は勇者が生まれ変わる時に恩恵を与えていた。
それ故に只者ではない彼を周りは持ち上げ、性格が驕り、歪むこととなった。
恩恵があるからこそ、勇者は勇者に選ばれた。
勇者はマイケルとジリアンのような犠牲者を各地で作り出した。
女神は嘆いた。女神の寵愛も、女神への寵愛も忘れ果てた勇者のおこないも。
そんな女神のもとに犠牲者の一人の怨嗟の声が届いた。
どうして、あの男を勇者に選んだのだ、と。
あの男のどこが平和を齎す者なのだ、と。
女神は考えた。
自分が与えた恩寵は勇者が死ぬまで取り上げることはできない。身体と魂の縁が切れ、魂だけの状態にしなければ取り出せないものだった。
誰かが勇者を止めなければいけなかった。
嘆く犠牲者の訴えに耳を傾けた女神は、彼の時が戻るようにした。
彼こそ、勇者を止めるにふさわしい、と。
彼は何十回、何百回も時間を巻き戻し、ようやく勇者を討つことに成功した。
勇者を倒したマイケルは妻と共に生まれ故郷を後にし、冒険者となった。彼は飛んでいる鳥を見ただけで射落とすことができたので、弓聖と呼ばれた。
魔王は次に勇者に選ばれた者が倒した。
村人を殺して駆け落ちした勇者の消息がわからなくなっていることなど、人々は誰も気にしなかった。
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