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明かされた理由


「で?お願いしたいことって何だい?」


 ロゼッタはカミーユを連れて店の奥へ行くと、早速本題を切り出した。店はまだ開店中だ。急かしたい訳では無いが、悠長にお喋りという訳にもいかない。


「ロゼッタさんには、サラちゃんのことを気に掛けてあげてほしくて……」


「気に掛ける?」


「男女の二人暮らしだし、サラちゃんもその内レーヴに言い辛いことが出てくると思うんだ。そういうときに、ロゼッタさんに助けてもらえたら有難いなって……」


 ロゼッタはカミーユの衝撃的な発言に言葉を失い、続く言葉を制するように手を前に突き出した。


「ちょ、ちょっと待ちな。今アンタ何て言ったんだい?男女の二人暮らし?レーヴとあの子が?」


 ははは、と乾いた笑みを溢して、


「……やっぱりそこ気になる?」


 カミーユは気不味そうに眉を下げる。


「それはそうだろう!若い男女が、しかも恋人ですらない相手と、いきなり一つ屋根の下で二人暮らしなんて……」


 レーヴは恋人でもない相手に手を出すような男じゃない、という信頼はある。しかしそれでも、とロゼッタは湧き上がる思いに言葉を詰まらせた。


「でもほら、住み込みで働くなんてよくあることだし。レーヴの家はニ階の部屋が二つも余ってて、態々別に住む場所を探す必要はないかなって」


「二人は了承してるのかい!?アンタ、また無理言って押し通したんじゃないだろうね?」


「そ、それは……ないとは、言えないけど」


 ロゼッタは盛大な溜め息を吐く。


「それ見たことか!まったくアンタは……」


 そして、ううん……と眉間に皺を寄せて、暫く悩んだ後に一つの解決策を導き出した。


「なら、あの子はうちで預かるよ。レーヴのとこはうちと近いし、仕事で通うにしても時間は掛からない。部屋はうちも余ってるしね」


 しかしそれは直ぐに跳ね除けられる。


「それは……!駄目、かな……?」


「はぁ?駄目って何だい、駄目って」


「レーヴにはちゃんと了承は貰ってるよ!勿論サラちゃんにも、此処に来る前に住み込みで働くことは伝えてるし。それにロゼッタさんも忙しいだろ?サラちゃんのことまで頼む訳には……」


「あの子のことを気に掛けてくれって頼んできたのはカミーユ、アンタだろ!」


「でも、それは……」


 ロゼッタの言うことは正しい。理にも適っている。有難い申し出だ。本来なら断る理由なんてない。そう、本来なら。


「……アンタ、私に何か隠し事してるね?」


 ギクリ、と思わず口の端が引き攣る。


「あの子、元奴隷だろう?雰囲気で分かる。アンタがそういう子達に親身なのも知ってる。うちに若い子を職人として雇ってくれって連れて来たのもアンタだったからね。うちは人手も足りなかったし、有難い申し出だったから受けたけど、レーヴは……あの子は一人で上手くやってるだろ?何で態々、サラを連れて来たりなんか……」


 もう隠し通せないと、カミーユも観念した。


「……レーヴなら、何かあってもサラちゃんを、守れると思ったから……」


「守るって、何から?」


「サラちゃんを、奴隷として囲ってた貴族の男だよ。屋敷から連れ出すときも騒ぎになったけど、その後もサラちゃんの周りを彷徨いているみたいで……」


「そんなの……嫌な話だが珍しいことでもないだろう?」


 奴隷に対して特別な感情を持つ。ロゼッタの言う通り、そんなのは特段珍しくない。異性間であれば尚更だ。奴隷解放後、そうやって自分が囲っていた元奴隷に付き纏い、関係を迫って処罰された者は多い。その殆どが奴隷を商品として扱ってきた商人ではなく貴族だったのも、概ねそういうことなのだろう。


「それに、それなら国軍で保護なり、雇うなりすれば良いじゃないか。アンタのところが一番安全だろう?」


「……それじゃあ駄目なんだ」


 カミーユの表情が曇る。


「その男が周りを彷徨いていると分かる度に、サラちゃんは仕事も住む場所も変えてる。勿論極秘裏にね。けどその度にアイツはサラちゃんを見つけ出す。それを知って閣下は、国軍の中に彼女の情報を流している人間がいるんじゃないかって……。丁度一年ぐらい前に、奴隷解放を迅速に進める為に人員を一気に増やしたから……」


 流行り病の収束。それはレヴェイエが共和制に移行して何よりも優先してやらなければならない事だった。人命に勝るものはない。結果、奴隷解放は先延ばしになり、本格的な活動が始まったのは約一年後。より早く、より多くの奴隷を救う為、国軍は人員を増やさざるを得なかった。


「相手の協力者が内部に居る可能性が高い今、国軍の中で彼女を匿うのは寧ろ危険過ぎる。それなら信頼出来るレーヴのところに預けるのが、一番良いと思ったんだ」


「……成程ね。アンタの言い分は分かったよ」


 目頭を押さえて、今度は短く息を吐く。今聞いたことをロゼッタなりに咀嚼し飲み込んだ。


「言い訳みたいになるのは分かってるけど、これはロゼッタさんのことを信頼してないとか、そういうことじゃなくて……」


 分かってる、とロゼッタはカミーユの肩をポンと優しく叩いた。先程とは違う優しく穏やかな声音は、まるで子供を諭しているようにも聞こえる。


「皆まで言いなさんな。女の私じゃ、いざってときにあの子を守れる保証はない。若い頃は喧嘩してる漁師連中を、この拳で黙らせたもんだけどねぇ」


 拳を握って笑う彼女の姿を見て、カミーユに笑みが戻った。その底抜けない明るさに、町の人もカミーユも救われている。


「でも勿論それだけじゃないよ。もしかしたら何かトラブルに巻き込まれるかもしれない。ロゼッタさんに、怪我してほしくないんだ」


「それも、ちゃんと分かってる。すまなかったね。言い辛いことを無理矢理聞き出したりして」


 カミーユは首を横に振った。


「……いや、寧ろロゼッタさんには、サラちゃんのことを気に掛けてくれって頼んだ時点で話しておかなくちゃいけなかったんだ。ごめん……」


「良いんだよ。アンタの気持ちは、ちゃあんと分かってる。だから良いんだ」


 そんなやり取りをしていると、店の方からカランカランとドアベルの音が聞こえてきた。ロゼッタは先程とは違う強い力で、カミーユの肩を思いっきり叩く。軍に所属し、武闘派ではないにしろ日々鍛錬しているカミーユが蹌踉めく程の強さだ。


「ほら、そうこうしてたらお客様のご来店だよ!アンタもパンを買って、レーヴのところにサラを連れて帰りな!」


「……漁師を鎮めた拳は、十分健在だと思うよ?」


 じんじんと痛む肩を押さえて、カミーユはロゼッタの後に続く。大きな背中は今もなお、力強く逞しく立っている。肩への一発は、それを分からせる為の愛の鞭なのかもしれない。


 だから恐らく、これを言うのが正しい。ごめん、ではなく。


「ロゼッタさん、ありがとう」


 ロゼッタは何も返さなかった。振り返ることもない。でも笑っているのだろうと思った。


「サラちゃん、お待たせー……」


 二人が店に戻ると、そこにはサラと、一人の男が立っていた。


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