レヴェイエの革命
レヴェイエはとても良い国だった。
周辺国は口を揃えてそう言う。
豊富な資源と壮大な自然、美しい街並みと農村部の活気。賢王と名高いフィリベール国王は何よりも国民を愛し、常に国のことを考え尽力する素晴らしい王だった。
しかしフィリベール国王が子息と共に賊に討たれて国は大きく傾いた。賢さと誠実さを買われて王の右腕である宰相にまで上り詰めた男が、王に代わって国を統治し始めてこの国の地獄は始まったのだ。
貴族の生まれでもない宰相が王位に就くことを、多くの貴族は認めなかった。高貴な血も流れておらず、宰相という肩書き以外に後ろ盾の一つもない。そんな男を担ぎ上げる者は、貴族の中には一人も居なかった。
そうした中で新たな王が貴族達からの支持を得る為にしたことは、後の歴史にも語り継がれる愚策だった。
貴族の治める税を下げ、その分を平民から取り立てる。どれだけ仕事をしても手元に残るのは僅かなお金だけ。国民の生活は当然困窮していった。自分を新たな国王に選び、称えてくれた国民の首を愚かな王はじりじりと絞め上げた。
生活に困った者達はより多くの金を得る為、危険な仕事に従事する者や、身を売る者まで現れた。街では盗みやスリが横行し、治安はみるみる内に悪化していく。
そうして数年後には路上で当然のように、人が売り買いされるようになった。その多くが親に売られた子供や、人攫いに遭って何処からともなく連れて来られた女性、生活に困って犯罪に手を染めた罪人だった。そしてそんな人達を買う者の殆どが、下げられた税により私腹を肥やす貴族達。
地獄のような縮図が終わることはない。国外の情報が入ってこないように貿易を閉じると、当然のようにレヴェイエの文明は周辺諸国に取り残された。豊富だった資源は富裕層の人間達に食い潰され、価値が上がった資源を貧困に喘ぐ者達は更に買えなくなっていく。
夏は暑さに茹だり、冬は寒さに震える。
そんな年を何年も何年も繰り返した。
そして地獄に更なる追い討ちを掛けたのは流行り病だった。止まらない咳に吐血を繰り返し、衰弱し痩せ細り、最後は死に至る。貴族に病魔の手が伸びると漸く王は原因究明を命じたが、その頃には多くの医者が流行り病によって帰らぬ人となっていた。
そんな地獄が20年以上続いた。
かつての王の死から59年、ついにレヴェイエの悪夢は終わりを告げる。革命軍が王城を占拠し、王の実権を奪うことに成功したのだ。革命を指揮した指導者は、東側の隣国フォルティフィエからやって来た女傑アンジェリクだった。
彼女は声高々に宣言する。
「レヴェイエの地獄は今日を以て終わりを迎える!自由と平等、平和と繁栄、それを取り戻す日は遠くない未来に必ずやって来る!苦しむ者を更に踏み付け、私腹を肥やす者達には相応の報いを!この地獄を耐え抜いた者達に敬意と祝福を!」
金糸の髪を靡かせて、威風堂々と佇む彼女を国民は讃えた。それに応えるように彼女は腕を天高く掲げる。
そしてこう続けた。
「地獄の底から這い上がれ!互いに手を取り合い、助け合い、前へ進め!底に辿り着いたなら、後は上しかないのだから!」
国民は天高く腕を掲げて叫んだ。
1891年の、季節は夏の終わり頃。
レヴェイエは新たな道を進み始めた。




