夢現
あれから少しの時間が経った。カウンター席に座ったまま、ゆるりと訪れた眠気に抗えず、サラの瞳がゆっくり閉じていく。
「サラ、起きろ。寝るなら上に戻れ」
「はい……」
レーヴの言葉にサラは小さく返事をすると、カウンター席から降りた。意識はまだ微睡みの中に居て、暗い部屋を歩かせるには不安が残る。仕方がないかと、レーヴは側に置いていたアルコールランプを手に持って、
「部屋まで連れて行く」
と、カウンター奥から出てきた。ランプを持った状態で人一人抱えて階段を上るのは非常に危険であること、相手が年頃の女性であること、それらを配慮してレーヴはサラの手を引いていくことにした。
掴んだ腕は冷たくて、レーヴは改めてサラの格好を見る。秋も終わりに近いこの時期のこの時間、薄手のナイトドレスだけでは身体は冷え切って当然だ。それに気付けなかったことに、レーヴは一人溜息を吐いた。
「……取り敢えず、ベッドに戻るぞ」
レーヴはサラの手を引いて歩き出す。サラもレーヴの後に続いた。階段下まで来ると、レーヴは振り返ってサラに注意するように促す。
「足元気を付けろよ」
サラは頷くと、レーヴに手を引かれたまま階段を上っていく。その光景が、その感覚が、サラの朧気な記憶を曖昧にだが呼び覚ました。
アルコールランプの明かりと、自身の手を引いて歩く後ろ姿。階段を一段一段上がる感覚。あのとき、頭を撫でたぎこち無い手の動きも全て。全て覚えがあった。
「レーヴさん、やっぱり……あの日、」
暗く冷たい地下室に、ある日突然現れた。アルコールランプの温かな炎の揺らめきと、ぶっきらぼうな物言いだけど優しい声。頭を撫でる手は慣れていないのか少しぎこち無い。
「あの日…私を彼処から連れ出してくれたのは、貴方なの……?」
夢現なまま問うた質問の答えは、朝になるとすっかり忘れてしまっていた。




