たしなみ2-24
オーディン先生に、メイシーの考えるテレビとビデオの魔術具の改良案を求めたところ、じっと考えてこう言った。
「手紙の魔術の化身を土の魔術の結晶に閉じ込めるという案には、お主の理想とする保存性を求める場合には、やはり欠陥があると言わざるを得ん。
実は前に、風の魔術の『形』について考えたことがあってな。目に見えぬ風を掴むにはどうしたらよいかと。その時風の魔術を固形化できぬかと考えた。あれはなかなか楽しい遊びじゃった」
オーディン先生は、そう言って、ほっほっ、と楽しそうに笑った。
「風の魔術の固形化……」
メイシーはイメージが膨らんできて、風の魔術の結晶化の完成形を考え始めた。
(魔術そのものを固めたら、どうなるんだろう?やってみる価値はあるわ!)
メイシーは、良い助言を得て、目を輝かせた。
「オーディンの面白いところは、物事をできるだけ多くの視点から見て、複数の解決案を同時並行して進めるところだな。一見すると無駄の多い印象だが、終わってみると、実は最も効率的に課題解決の答えを得ている。それに、そこまでに得られる経験値も、他の魔術師を圧倒的に凌駕している」
ドメル先生が、オーディン先生の凄さについて語ってくれた。
「ほっほっ!何じゃドメル。褒めても何も出さんぞ」
「さすが年の功だと恐れ入っている」
「全く、お主はその一言が余計じゃわい」
二人が楽しそうに会話をしているところに、ハイド先生が解説をしてくれた。
「風の魔術に関して、帝国ではクルクサス翁の右に出る者はいない。帝国の魔術具で、風の魔術が関わっているものは、大体が彼の発明品が元になっている。
彼は後進の育成にも積極的で、弟子たちも、帝国内の主だった研究所の研究者になっていたり、魔術省の役人になっている者も多い」
「オーディン先生って、すごい先生なのですね…!」
「……有名な話だが?君は全く頓着していないのだな。入学者たちは、どの研究棟の研修生になるか、教授陣の経歴や卒業後の研修生たちの進路を、誰もがギラギラした目で注視しているようだが」
「申し訳ございません。私、研究以外のそのようなお話には、全く付いて行けませんでして……」
「まぁ君は、ドメルの研修生となったのだから、何をどうするわけにもいかないか」
メイシーは、ハイド先生のその言葉に、少し考えて、思いつきを発言してみた。
「それなのですが、私、いっそ先生方全員の研修生にしていただけないかと思いました」
「「「………」」」
「盾のメッキ加工技術では、先生方全員と共同作業を行い、祝勝会でお褒めに預かることもできました。私、先生方全員と、また共同研究を行うことも視野に入れつつ、皆様に教えを請い、もっと知識を吸収して、研究者としてより高みを目指したいのです」
メイシーの発言に、先生方は唖然とした様子で、無言になった。
「……なるほど。いつの間にか学園の風習に縛られていたのは我々だったな。こんな高魔力・多属性の学生は、王族を除き、いまだかつて居なかったということもあるが」
「ほっほっ!確かに、研修生にのみ伝える魔術具や魔術に関する内容も、お主と話していると、秘匿することに価値を感じぬわ」
「クルクサス翁の言う通りだ。オレも、研修生ではないが、すでにメイシー嬢にはオレの持てる知識は、譲りたいと考えている。比べるものでもないが、他の学生とは、研究に対する姿勢が異なっているからな」
先生方は、何やら、メイシーの思いつきに、好意的な反応を示してくれた。
「他の教授陣も、君になら協力を惜しまないだろう。学園長に伝えておこう。メイシー・マクレーガンは、どの研究棟にも属する研修生であると」
ドメル先生は、呆れたような、面白がったような笑顔で、メイシーにそう答えた。
そして、このメイシーのテレビとビデオの魔術具について、これからも定期的に先生方がメイシーの実験室に集まり、案を持ち寄ったり、メイシーの相談に乗ってくれることになった。
翌日。
メイシーの実験室の扉を叩く音がした。
「メイシー・マクレーガン。ユユだよ」
「バーサよ」
メイシーは、聞こえてきた声に驚き、扉を開けて二人を歓迎した。
「ユユメール先生!バーサ先生!まぁ!ようこそいらっしゃいました」
メイシーが入室を促すと、二人は部屋に入るなり、壁に貼られたポスターに目が釘付けになった。
「まぁ!なぁに、これ!?」
「ドメルとハイドとオーディン!メイシー・マクレーガン、これは絵?すごくきれい!」
「ふふ、こちらは写真と言いまして、絵師が描いたものとは異なります。ハイド先生の描き取りの魔術具で写した景色なのです!」
バーサ先生とユユメール先生は、目を輝かせてポスターを見ている。
「ハイド、前に描き取りの魔術具、失敗だと言ってた。……メイシー・マクレーガンが手伝って完成させた?」
ユユメール先生は、もふもふのネコ耳がついた帽子を被り、背が低いメイシーにさえ、上目遣いで質問した。
「はい、先生。ほんの少し、知っていたことをお伝えしたまでですが……。でもありがたいことに、私の方が、この魔術具からヒントを得て、ビデオカメラの製作に挑戦中です」
「ビデオカメラ?」
ユユメール先生も、バーサ先生も、二人共興味津々でメイシーの話に耳を貸している。
「えっと、その前に、先生方は何か御用があっていらしたのでは?」
メイシーの問いかけに、バーサ先生がニコリと微笑み、スッと進み出た。
(うぅ……!バーサ先生のスリット、目のやり場に困る……!)
濃いピンクの髪をかきあげて、暗い青のローブに身を包んだバーサ先生は、歩くたびにローブの隙間から、その美しいおみ足を惜しげもなく晒して、真っ黒なハイヒールを鳴らした。
そして、メイシーに近づくと、右手の人差し指で、ツンとメイシーの顎に触れ、顔を傾けさせた。
「可愛いウサギちゃん。貴女、ドメル以外にも、わたくし達全員の研修生になりたいと言ったのですって?」
「……!!」
メイシーは、バーサ先生のあまりのお色気に、倒れ込んでしまいそうだ。
「ユユとバーサ、それ聞いて、嬉しくなって来ちゃった」
「……!!!」
ユユメール先生からは、何とも言えないあどけない可愛さが溢れていて、メイシーは鼻に手を当ててよろめいた。
(なんてコンビなの…!)
「ね〜え?研修生になるということは、わたくし達とも定期的に会う機会を作ってくれるということ?」
「そう。ドメル達だけ、ズルい」
「も、もちろんです……!バーサ先生やユユメール先生の実験、とても興味があります!ぜひ見学させてください!」
「ん、もう。そういうことじゃないの。もっと楽しいコトをしたいのよ」
バーサ先生のその台詞に、メイシーは、とうとう鼻血をたらりと出してしまった。
バーサ先生は、びっくりしてメイシーの両肩に手を添え、近くの椅子にゆっくりと座らせてくれた。
「体調が良くないのかしら?」
「メイシー・マクレーガン、ハンカチどうぞ」
ユユメール先生が、可愛い猫の刺繍のハンカチを差し出してくれた。二人のつよつよコンビに見守られ、メイシーは、ドキドキしながら鼻血を拭った。
「先生方が魅力的すぎて、つい興奮してしまいました……!」
メイシーが鼻にハンカチをあてて正直にそう言うと、バーサ先生とユユメール先生は、目を見合わせて笑った。
「ふふ!わたくしったら、罪な女ね。ウサギちゃんまで誘惑しちゃったわ」
「ユユ、女の子に人気ある。ネコ耳可愛いって」
何とも素敵な二人に言い寄られ(?)、メイシーは言葉尻を変なふうに捉えてしまったようだ。バーサ先生が、メイシーに光の魔術を行使してくれた。
「ありがとうございます……。あの、それで、実験への参加ではないのであれば、何をお考えなのでしょうか……?」
「もちろん、わたくし達の授業に来てもらうのは問題ないわ。でも貴女とは、魔術の可能性を広げる試みをしてみたいのよ」
「バーサは水の魔術が一番得意。ユユは、火と風、併せた魔術が好き。ユユ達、好きな属性の魔術の、もっと発展させた形に興味ある。メイシー・マクレーガンは魔力が高いから、どの属性も、多分人と違う魔術になるはず。ユユ達、それが知りたい」
(なるほど……。私を実験対象にするということね?)
「お話は理解いたしました。確かに、先生方の言うように、私も、自分の魔術がどこまで使えるのか、相対的なイメージを知れたら有り難いです!ぜひよろしくお願いします!」
メイシーは、バーサ先生とユユメール先生の要請に、快諾した。先生達とも、週に一度、定期的にお会いする時間を設けることにした。
「それで、ビデオカメラというのは、どういう魔術具なのかしら?」
バーサ先生がメイシーに尋ねた。メイシーは、作りかけのビデオカメラを手に取り、説明した。
「ハイド先生の描き取りの機構から着想を得て、ピンホールで映像をクリアにしました。カメラ本体をこのように土の魔術の結晶で作ってしまって、まずは外側の丈夫さを担保します。
カメラの中にはガラス板を挟み、手紙の魔術の化身……小鳥を煙状にした魔力を満たしておきます。これで煙はカメラ内に留められ、景色を撮影して一定貯めておけるはずです」
「ふうん?こんな小さい魔術具で、景色が見られるの?」
ユユメール先生が、角砂糖2つ分くらいのビデオカメラを手に取り、しげしげと小さな穴を見つめている。
「見るためにはこちらのガラス板を使います。カメラの中の魔力を解放してガラス板に流し込むと……」
パッと、今撮ったばかりの、カメラを覗き込むユユメール先生が写った。
「ユユだ!?」
「わお!」
二人は驚きつつも興味深そうにテレビを眺めている。
「そして、こちらの結晶の中に魔力を集めて閉じ込めると、また好きな時に、先程の景色を見ることができます」
そう言ってメイシーが角砂糖のような土の魔術の結晶の箱の中に、煙状の魔術を集めて閉じ込めた。
「すごいわね!面白いわぁ!」
「こんなに小さい魔術具に、こんな仕掛けがあるなんて、誰もわからない!」
バーサ先生とユユメール先生は、興奮した様子で、メイシーのテレビとビデオを褒めてくれた。
「ねぇメイシー・マクレーガン。この魔術具、どのくらいの時間の景色を閉じ込められる?」
ユユメール先生が、メイシーに興味深そうに聞いた。
「現状では、数時間くらいでしょうか。」
「長いね!そっかぁ……!それならさ、コレ、ユユのにゃんこ達に付けてみてもいい?」
「猫にカメラを?」
「そう!ユユ、仲良しのにゃんこが何処で遊んでるか、知りたいの!」
「ふふ!楽しい使い方ですね!いいですよ、それでは、カメラをたくさん作って、ユユメール先生に差し上げますね」
メイシーは、ユユメール先生とバーサ先生と、映像が少し鮮明になったビデオカメラで、試し撮りで遊んだり、改良できる点がないか、先生達の意見を聞いたりして、楽しく時間を過ごした。




