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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-8


明け方、天幕の外が騒がしいことに気が付き、メイシーは目が覚めた。ベッドを見たが、隣にノアは居なかった。



「……ノア?」


ノアがメイシーのその声に気が付き、天幕の外側からベッドのほうにやって来た。その表情がいつになく硬いことが、メイシーの不安を煽った。



「お嬢様。殿下が昨夜神殿へ向かわれ、まだお戻りでないそうです」


ノアの声に、起きたてでぼんやりしたメイシーの頭は、突然冷水を浴びせられたように覚醒した。



「お一人で神殿へ……?お戻りでないって、どういうこと?」


メイシーは、突然の話に、事態がつかめず、動揺した。



「見張りの騎士が、深夜に殿下がお一人で神殿の中へ入られるのを見ていて、それからすでに今は四時間は経過しています。お戻りが遅いため、今から騎士たちが神殿へ入っていくとのことです」


「中で、何があったのかしら……?」


「それが……。実はマージー教授が、先に中に入られ、殿下と会われたそうです。その後マージー教授は先に神殿を出ており、殿下とは別れた、と話されています」


「そう……。そうなの……」


「ただ、マージー教授のお話では……殿下は少し取り乱しておられたようで、もしかしたら、奥のお部屋に、一人で入ったのかもしれない、と……」


メイシーは、ノアの言葉に、何か嫌な予感がした。



(殿下……?)














慌てて支度を済ませて天幕の外に出ると、すでに起床し、何やら騎士たちと話をしていたお父様が近づいてきた。



「メイシー。思念の指輪へ連絡を入れてみたが、殿下からはなにも返ってこない。少なくとも、もう一時間は音沙汰なしだ」


「……騎士たちは、すでに神殿へ?」


「ああ。中で何があるか分からないので、一定時間ごとに連絡を寄越すように伝えている。30分ほど前に神殿の入口から入ったので、そろそろ下に到達してもおかしくない頃だ」


お父様は、非常事態にも冷静に、最も良い指示を出してくれたようだ。


メイシーは、まさか、あの強い殿下に、何か不測の事態があるなど夢にも思わず、今聞かされている話が、まだ夢なのではないかとさえ思えた。



「……殿下は、無事でしょうか?」


メイシーが、強張った表情で、顔を俯けて、弱々しく口を開いた。お父様は、メイシーをそっと抱きしめた。



「こんな時こそ、君が殿下を信じてやらねば」


見上げると、お父様が優しくメイシーに微笑んでくれた。



「……はい。……はい、お父様」


メイシーは、涙の溜まった瞳を、ゴシゴシと乱暴に拭って、お父様の腕から抜け出た。



「私、神殿のそばへ行っても良いでしょうか?殿下が出てこられたら、すぐに光の魔術をかけられるように」


「……そうだな。マージー卿と私も、神殿に向かおう。我々が神殿の前に居れば、騎士たちの連携が取りやすいだろう」


お父様とメイシーは、ハイド先生の所へ向かった。ハイド先生は天幕にはおらず、北の遺跡群に向かったあとのようだった。



「ハイド先生に思念の指輪で連絡を取ることはできますか?」


メイシーは、お父様の思念の指輪から、先生と連絡を取ってみた。





「ハイド先生、神殿の前に集まることはできますか?」


「すでに殿下のことはご存知と思いますが」


「騎士たちを一箇所に集め、連携を取りやすくしたいのです」



メイシーが指輪で話を伝えると、すぐに返事があった。




「少し待ってくれ」


「神殿内に関する情報がないか調べている」


「終わり次第、すぐに向かうと約束する」





メイシーは、お父様にその内容を伝え、ひとまず、天幕には誰も残さず、全員で神殿の前まで行くことになった。






神殿に着く頃には、すでに日は昇り、森は朝の気配に包まれていた。


爽やかな晴れた朝のはずなのに、メイシーの心は不安でいっぱいで、朝日に照らされた神殿の荘厳な様子も、全く目に入らなかった。



「捜索隊は、すでに15分前に神殿の壁画の前に到達した。しかし、いくら探しても殿下の姿が見当たらないらしい」


お父様の言葉に、神殿前に残された騎士たちや、ノアやグレン様、メイシー達全員が息を呑んだ。



「でも、殿下は確かに神殿に入られたのですよね?」


メイシーがお父様に質問した。



「神殿の最下段に居た騎士と、出入口を警備していた騎士が、二人とも殿下の姿を見ている。二人が揃って見間違うことは考えにくいし、神殿はこの通り、出入口は一つしか無い」


お父様が、眉間にシワを寄せて考え込んだ。

事態は、お父様の想像よりも悪い方向に傾いているようだ。



「それでは、殿下は神殿内におられるのですね?私、魔術で気配を探ってみてもよろしいでしょうか?」


メイシーがお父様に願い出た。お父様は思案し、少し時間をかけてから、口を開いた。



「まず、騎士一人に伝令役を頼む。王都まで、できる限り早く、この事態を知らせるために駆けてほしい。……陛下のお耳にも入れねばならん」


お父様の言葉に、騎士一人がサッと前へ進み出た。お父様は、ノアが出してきた手紙と羽根ペンで、すぐさま手紙をしたため、騎士に渡した。



「この場にいる者は、皆、陛下ならびに殿下の忠実な家臣だ。騎士であるかどうかを問わず、殿下のため、危険に身を投じる覚悟を決めて欲しい」


お父様は、そう言うと、騎士の一人から荷物を受け取り、帯刀し、胸当てをつけた。


メイシーも、少しぶかぶかながら、ノアに革の胸当てを付けてもらった。


お父様は、今はマクレーガン侯爵家当主の顔をしている。メイシーのことを、殿下を守るための駒として使うことに決めたのだ。



メイシー達が支度をしていると、護衛の騎士たちと共に、ハイド先生がやって来た。



「遅れて悪かった。これから皆で神殿に入るのか?」


ハイド先生の問いに、お父様が答えた。



「ああ。あの壁画の前まで騎士たちが探索したが、殿下は見つからなかった。今からメイシーに風の魔術で殿下の気配を探らせるところだ」


「なるほど。ではオレの闇の魔術も使ってくれ」


ハイド先生はそう言うと、さっさと神殿の階段を登り始めた。


連絡係としてグレン様と騎士数名を残して、お父様、ノア、そしてメイシー達は、神殿の階段を登っていった。


入口に入る前に、メイシーは、皆に光の魔術を行使し、持っていたマスクを配った。


階段を降りながら、メイシーは風の魔術で岩の隙間を探し、ハイド先生は、メイシーの感じ取った隙間に闇の魔術を行使した。


しかし、やはり壁画の前まで、何の成果も挙げられずに進んだ。


壁画の前に到着すると、先にやって来ていた騎士たちが、お父様のもとにやって来た。



「殿下の姿はやはりまだ見つかりません。この壁画の先に行かれたのでしょうか?先程から数名で、壁画を壊そうとしたり、何かの仕掛けがあるかと探したりしておりますが、この通り、壁はビクともしません。……どうやら壁は魔術で強化されているようです」


「そうか。分かった」


騎士の報告に、お父様が頷いた。すると、ハイド先生が声を上げた。



「壁の向こうは、闇の魔力が満ちた空間だ。やはり、殿下はこの中にいる。王の墓に、儀式について触れられている箇所があった。それによると、儀式場に入るには、まず魔力を捧げねばならない」


「私にやらせてください」


メイシーは、ハイド先生の言葉に、真っ先に名乗り出た。



「私は剣が使えません。この中では、私が一番戦力にならないので、たとえ魔力をここで消耗しても、問題ないかと」


「お嬢様……」


メイシーの言葉に、ノアがメイシーに心配そうな表情で寄り添った。



「大丈夫よ、ノア。この前ハイド先生の古王国の魔術具も壊した程だから、私、古王国の人たちよりも魔力が高そうなの!」


メイシーは、にっこり微笑んでノアを見た。



「確かに、君の魔力は桁違いだから、魔力を込めても、倒れる程ではないかもしれない」


ハイド先生は、肩をすくめて、そう言った。



「この壁画に魔力をぶつけてみてほしい。来て」


ハイド先生は、メイシーを呼び、壁画の中央、白と黒の模様の中心に手をつくようにと言った。



「と、届きません……!」


「ちょっと失礼」


ハイド先生は、メイシーを後ろから抱き上げて、模様に手が届くようにしてくれた。



「何も考えないで。ただ彼を助けることだけを考えて魔力を打ち込め」


「は、はい……いきます!」


メイシーは、いきなり抱き上げられて動揺したものの、気持ちを落ち着け、そっと壁に手を触れた。



ーーーズッ……


あの、ハイド先生の実験室のピラミッドの時のような、掃除機に魔力が吸い込まれる感覚があった。


メイシーは、スルスルと抜けていく魔力の感覚よりも、もっと大きい魔力の塊を作り、壁画にぶつけるように叩きつけた。



ーーーゴッ!!!


壁は中心からひび割れ、細かな破片がポロポロと崩れた。



(まだ必要なのね)


メイシーは、さらに大きな魔力の塊を体の中から引き出し、壁にぶち込んだ。




「帝国に光を」




メイシーの手元から目が開けられないほどの閃光が放たれ、辺りは白い光に包まれた。


光はしばらく皆の視界を奪い、全ての輪郭が消えたような感覚になった。



「……君は、本当に突拍子もないな」


後ろでハイド先生が驚き、呆れたような雰囲気で口を開いた。


メイシーが、降ろしてもらって、後ろの先生を振り返ると、先生は、フードを少し上げて、ニッと笑った。



「第一関門突破だ。やるな、メイシー・マクレーガン」


「光栄です、先生!」


二人で喜び合っていると、光の魔術が拡散し、徐々に景色が戻ってきた。目の前にあったはずの壁は、全て砂塵(さじん)と化し、今は足元に広がっていた。



「この扉を、欲望を持って開け放てば、闇の神の試練が始まってしまう。君は今、ただ殿下を助けることしか考えずに魔力を放ったな?」


「はい。その場合は試練は始まらないということなのですね?」


「……殿下は一体何を望んだんだ?」



ハイド先生の言葉は、そこで終わった。




壁の奥には闇が広がっており、奥は暗くてよく見えない。


騎士たちが先陣を切るように、闇の中へ身を投じた。



「光よ、闇を照らせ」



メイシーは、騎士たちを援護すべく、闇に向かって光の魔術を行使した。


光は球になり、騎士たちを追いかけて闇に突き進むと、パッと弾けて部屋を照らし出した。



視界が開けると、極彩色の絵がひしめくように描かれた、室内の様子が浮かび上がった。


そして同時に、部屋の一番奥の壁に体の一部が飲み込まれかけている殿下が目に飛び込んできた。



「殿下!」


メイシーは、殿下めがけて走り出そうとしたが、ハイド先生が、メイシーの腕をグッと引き、動きを制止した。



「あれを見ろ」


メイシーは、じっと殿下のほうを見た。すると、殿下の魔力を吸い上げているかのように、壁面がドクンドクンと、脈打って動いているのが見えた。



「な、なんですか、あれは……!?」


メイシーが、その醜悪で化け物じみた壁の様子に(おのの)いた。


ハイド先生は、部屋の皆に聞こえるように声を上げた。



「聞け!殿下はこの神殿の闇の魔術にかかり、錯乱の影響を受けている。一度、背後の壁を攻撃してみる。剣での攻撃も試して欲しい」


ハイド先生はそう言うと、詠唱を始めた。騎士たち数名が壁の方に駆け出した。



「光の神テクシステカトルに告ぐ。悪しきものを光の矢で穿(うが)て」


ハイド先生の光の魔術がまっすぐに放たれ、何本かの鋭い光の矢が、脈打つ壁面に勢いよく突き刺さった。


そして、その後を追って、騎士たちが壁面に斬り掛かった。



壁面は、光の矢の攻撃をすべて受け止め、吸収した。そして騎士たちは、斬りかかると同時に、その数倍ほどの威力で弾き返され、吹き飛ばされた。



「……あの壁には、先程の壁画以上の機構があるようだ」


ハイド先生は、唇を噛んだ。




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