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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-54


そして迎えた、復興祭の当日。


王宮、入口すぐの長い廊下では、グレン、ノア、そしてアーチーの3人が、参加者たちがやってくるのを、今か今かと待ち構えていた。


アーチーが、土の魔術でできたビデオカメラを構えてカメラマンをしている。


そのアーチーの前で、グレンが時間を確認し、にこやかに微笑んで口を開いた。



「レディース・エンド・ジェントルマン!やってきました、第1回王宮トマト祭り。実況は私、グレン・オルドリッジと」


「ノアです」


「さて、本日の王宮内の様子は、メイシー・マクレーガン侯爵令嬢謹製の風の魔術具『テレビ』にて、平民街の中央広場と貴族街の中央警ら署前に映し出されております。映像は無事に届いておりますでしょうか?」


グレンがカメラマン役のアーチーに向かって、耳に手を当てる仕草をした。



「はい。そちらの音声はここには届かないようになっておりますので、現地にて、今たくさんの方がお返事をしてくださったものと信じて、王宮内をご案内いたします」


グレンとノアの肩には、それぞれ小鳥が乗っていて、二人の声を拾うようになっている。


グレンは王宮内の赤い絨毯の回廊をゆっくりと進んだ。

ノアとアーチーは、その後を付いていった。



「グレン様。本会場となる大広間の前には、すでに巨大な木箱がいくつも用意されているそうですね」


ノアは歩きながら、あらかじめ用意された台本通りに、スラスラと台詞を読み上げた。



「そうです、ノアさん。木箱の中身はもちろん、ゼメルギアス帝国南部産の、新鮮な美味しいトマトです!さあ、そろそろ本日の出場者が会場前に集まり始めますよ!」


参加者は、王宮入口から長い廊下を進んで大広間へと向かう。


グレンとノアとアーチーは、今廊下の中央に立ち、入口からやってくる参加者たちの様子をテレビに収めるべく、解説をしながら待機していた。


ちなみにアーチーの持つカメラは、メイシーが改良して、その場でどのように映像が映っているのか確認できるように、モニター付きのカメラである。



「えーっと、王宮で行われるため、トマト祭りには貴族のみが参加しますが、平民街では本日同時に復興祭りが催されていますので、屋台を回るもよし、野外演劇や曲芸団の出し物を見るもよし、新しくできた銭湯へ行ってサッパリするのもよし、王都は本日どこででも、誰もが祭りに参加して楽しめます!」


「マクレーガン侯爵家は、昼過ぎから平民街に出店をしますので、皆様足をお運びください。お嬢様の新しい魔術具を売り出します。これがあれば、本日の楽しい思い出をいつでも見返すことができますよ」


ノアはウフフ、と営業用スマイルを浮かべ、しっかりとメイシーの魔術具を宣伝した。


「あ、それってこの前メイシー嬢と作っていたアレですか?撮ったものを殿下に自慢気に見せつけられました。えっ、アレを市民が買えるんですか?私だってまだ持っていないのに…!」


「数量に限りがありますので、お早めにお求めください」


ノアは営業スマイルを崩さず、カメラに向かって終始にこやかに呼びかけた。


ここでカメラが王宮入口に向くと、グレンは小声でノアに話しかけた。



「……私の分はとっておいてくださいよ?」


「お前が今日一日、馬車馬(ばしゃうま)のように働けば、無いこともない」


ノアがツンとそう言うと、グレンは顔をパアッと輝かせてノアに抱きついた。



「そう言って、実はちゃんととってくれているんでしょう?可愛いなぁ、もう」


「や、やめなさい!」


二人がケンカ(?)し始めたところで、参加者たちがわいわいと入口から入ってくるのが見えてきた。



「アーちゃん!」


緑の髪のセオが、カメラマンのアーチーに気がついて走ってきた。

ノアに「仕事をしろ」と凄まれたグレンは、サッと切り替えてカメラの前に立ち、参加者を紹介し始めた。


「騎士団の皆様ですね。先般の功労者となられたセオさん、マドックスさん、ジャックロンさん、そしてスタンリー署長がやって来ました!」


アーチーは、皆にカメラを向けて4人の姿を収めた。



「今日は殿下から、絶対に参加するようにと仰せつかっている。何としても祭りを盛り上げるぞ」


スタンリー署長のその声に、他の3人は「おー!」と楽しげに拳をあげて返事をし、大広間に向かって歩いていった。



「あっ、次も騎士の皆様ですね」


グレンが入口のほうから堂々と歩いてくるタイラー総団長やアドルフ副総団長ほか、騎士たちの姿を捉えた。



「タイラー総団長もご参加くださるのですね!これは白熱した戦いになりそうです」


グレンのその言葉に、タイラー総団長がカメラの前に立ち止まって口を開いた。


「殿下から手を抜くなと言われておる。お前たち……怯んではならぬぞ!!」


「「「は!!」」」


騎士たちはタイラー総団長の後ろで、ドンと胸に手を当てて気合の入った返事をし、まるで戦地にでも赴くかのように、真剣な表情で去って行った。



「すごい気合い!これは楽しみですね!」


「殿下は一体どんな指示を騎士団に出したんでしょうか…」


グレンがにこにこと話す隣で、ノアは微妙な顔になった。



次にやってきたのは、学園の関係者たちだった。



「ほっほっ!ま〜た娘っ子が妙なことを思いついたな」


「ト・マ・ト! ト・マ・ト!」


「やぁね。わたくし、こんなお祭りだなんて知らなかったわ。王宮でやるって言うから、着飾ってきたのに」


オーディン翁、ユユメール教授、バーサ教授が歩いてきた。


その後ろを、別の3人が歩いてくるのが見えた。



「お前たちが本気でやり合えば、広間が粉々になると思うんだが……」


「トマト祭りなんて初めて〜!アタシは真面目に人間しか狙わないから、城は壊さないよ☆」


「いやいやいや……。お前、いの一番に広間を壊すつもりだろ?」


眉間にシワを寄せたドメル教授と、青い顔をしたヒューバート教授、その隣でケラケラ笑うミッティ教授も入ってきた。


さらに、どんよりした雰囲気の2人がその後ろに続いた。



「私も呼ばれたけれど、四方八方からトマトが飛んでくるなんて、()けられる気がしないわ…」


「おれなど、この体だ。もはや(まと)にしかならん」


不安げに表情を曇らせる盲目のフルルーナ教授と、すでに諦めた様子の大男のモーリシャス教授もやって来た。



「えー…魔術学園の教授陣は、コメントをもらうにしても長くなりそうなので割愛いたしました!見るからに個性的な面々が続々と会場入りしています」


グレンが笑顔でカメラに向かって説明した。


すると、さらに、白いマントを靡かせて入ってくる集団が見えてきた。



「こんにちは、オルドリッジ公爵令息。それから貴女はマクレーガン侯爵令嬢の侍女殿でしたね」


先頭の、白銀の長い髪をしたパルナスが、にこやかにグレンとノアに気づいてやって来た。


「パルナス近衛騎士団長は、この美貌もあって、女性人気抜群です。さ、カメラを通して、テレビの前の市民に一言お願いします!」


「ふふ。今日は殿下に本気を出して挑むようにと仰せつかりました。何でも、勝者には素敵な褒美があるのだとか。我々近衛騎士団が、勝利を手にしてみせましょう」


パルナス近衛騎士団長は、そう言ってにっこりと微笑むと、後ろの近衛美形集団を引き連れて、大広間へと入って行った。


アーチーは近衛の様子をカメラに収めると、次の参加者を撮るべく、入口の方へと歩き出した。



「とても美しい騎士たちでしたね。さすが近衛騎士団です」


ノアがそう言って何やら納得すると、グレンは眼鏡の奥の眼を光らせてノアに質問した。



「ああいうのがお好みですか?」


「そういうわけでは」


グレンは自分の肩とノアの肩に乗った小鳥をそっと手で覆うと、いたずらっぽく囁いた。



「カメラの前では言えませんが、近衛は度々風紀の乱れが指摘されているんです。……色男だからと、ついて行っては駄目ですよ?」


グレンはそう言ってノアにウインクした。


「な、なにを…!」


「ノアさんには、貴女を一途に想って(ひざまづ)く男でなければ。……例えば、私のような」


「……!!!」


ノアは、かあっと赤面して怒った表情になると、プイッと顔を背けてグレンから離れた。



「つれないなぁ。……でも、最近少し私を意識してるのが、また可愛い」


「う、うるさい!」


グレンが嬉しそうに微笑むと、ノアは耳まで真っ赤にして抗議した。


するとアーチーが、入口のほうからグレンとノアに手を振り、こちらに来るようにという仕草をした。


ノアがアーチーの方に駆けていくと、入口にはノアの敬愛してやまない主人、メイシーの姿があった。



「お嬢様!」



メイシーは、殿下にエスコートされて入ってきたところで、ノアと目が合い、笑顔になった。



「ノア!司会お疲れ様。グレン様もアーチー様も、ありがとうございます。録画しているので、後から皆でビデオで見ましょうね」


「お嬢様、お気をつけくださいませ。騎士たちは皆本気で参加するとのことです。お怪我などされないか、心配です」


すると、メイシーの隣の殿下が不敵に笑って口を開いた。



「案ずるな。メイシーのことは私が守るに決まっている。私たちは同じ組だからな」


「まぁ。いつの間に組分けを?ただトマトを投げつけ合うだけかと思っておりましたが、違うのですか?」


「トマトは5種類用意している。それぞれに赤、黒、青、緑、黄に色を変えたトマトを、各組で持つ。自分の組の色のトマトを投げて、どれだけ人に当てたか、どれだけ床をその色に染めたかで勝敗を決める」


殿下の説明に、メイシーはハッとした表情でつぶやいた。


「それはまさか……!スプラ()()トゥーン……!」


「スプラ?何だ?」


「分かりました殿下。勝ちましょう。私こう見えても、あのゲームは多少たしなみがございます。武器は使用可能ですか?もちろん会場に土は用意されておりますね?」


メイシーはメラリと瞳に闘志を宿して、やる気になった。


殿下もグレンも、メイシーの様子に顔を見合わせた。



「それにしても、スプラトマトゥーンをするのでしたら、こんなに綺麗なドレスは、やはりちょっと……。汚すのが忍びないわ」


メイシーは本当はズボンで参加する予定だったが、ノアが頼み込んだため、桃色と白のグラデーションの、ヒラヒラしたドレスを着ている。

髪だけは、メイシーの要望で、後ろで複雑に編み込まれ、一本の三つ編みが背中に下りてバラけないように結ばれている。


ノアとしては、大勢の市民に映像が見られるため、美しいメイシーを見せることが最優先だと思ったのだ。


殿下はメイシーに微笑みかけた。



「今日の其方もとても美しい。いつか王宮で噂になった『花の妖精』の再来だな。安心してくれ。其方の服を汚すことなく、私達が勝利すると誓おう。其方は私に全て任せれば良い……私の女神」


「ま、まぁ…。殿下は私を褒め過ぎだと思います。妖精も女神も、私には務まりません。

それに私、守られてばかりではなく、トマトをぶつけたいのです」


殿下とメイシーの間には、何やらふわふわと甘い空気が漂っている。


グレンはそんな二人を画面から追い出すように、カメラの前に立った。



「えー、殿下から祭りのルールの説明がありましたね。殿下とマクレーガン侯爵令嬢の息のあった連携が見られるのでしょうか。テレビの前でご覧の皆様には、その辺りもご注目いただきたいですね」



殿下とメイシーは、グレンに促されてカメラの前を通り過ぎ、会場へと向かった。


会場に入る手前で、メイシーは桃色のドレスを翻して振り返り、ノアに笑顔で手を振った。


ノアはポッと頬を染めて、うっとりした表情で手を振り返した。



「お嬢様は世界一だ…」


「貴女もそうなるんですか。全くもう、殿下といい、ノアさんといい、二人とも」


グレンが呆れたようにそう言った。


カメラを携えるアーチーも、途中からカメラそっちのけでメイシーを見ていたようで、カメラを落としそうになって、ハッとして素早い動きで拾い上げた。



「君もか」


グレンはやれやれと肩をすくめて苦笑いした。


殿下とメイシーの姿を見送ると、次に陛下や閣僚達がやって来た。


グレン、ノア、アーチーの3人は、現れた陛下の姿に、お辞儀をして待機した。



「よいよい。今日は無礼講だ。其の方らも堅苦しいのはよせ」


陛下はそう言って3人の前で立ち止まると、アーチーのカメラを見つめた。



「メイシー嬢の魔術具か。私達の姿が、ガラス板に映っているのだな?」


「はい。平民街の中央広場と、貴族街の中央警ら署の前に、特製の大型テレビを設置して、皆様の様子を映しております」


グレンが陛下に説明した。


すると後ろからレナルドがにっこりと説明を加えた。



「我が娘がこの素晴らしい魔術具を製作しました。豊かな発想力と、繊細な魔力の制御能力、そして何より、慈愛に満ちた溢れんばかりの優しさ…。

うちのメイシーの素晴らしさは世界どころか宇宙まで突き抜ける勢いですが、今日の祭りでも、メイシーの可憐な姿は皆の心を虜にすることでしょう!テレビの前の皆さん。メイシーのおかげでテレビが見られることに感謝しましょう」


「マクレーガン侯。その話は長くなるかな?」


レナルドが意気揚々と語る横から、ワナンがずいっとテレビの前に割り込んできた。



「グレン。魔術学園の生徒たちは、まぁ良いとして、王宮の外に、貴族たち数百名が参加しに来ているぞ。大広間に入りきるのか?」


ワナンが心配そうにグレンに質問した。



「大丈夫ですよ、父上。殿下には会場を広げてもらうようにお願いしておりますから」


グレンが胸を張って、ワナンの不安は杞憂だと説明した。



「ああ。空間魔術か。それなら納得だ」


ワナンはホッとした表情になった。


しかし、チラリと後ろの陛下を見ると、表情を引き締めて、声を潜めてグレンに話しかけた。



「陛下は開会の言葉を終えたら、さっさと退室するつもりでいる。そんなことはさせないぞ。殿下にも足止めを頼まれているしな」


その言葉に、グレンもまた神妙な面持ちで頷き、一言聞き返した。



「陛下、怒ったりしませんよね?」


「……。それはそれで面白そうだからいいんじゃないか?」


「面白いって…。父上、陛下のこと、ちゃんと止めてくださいよ?」


「ジョイスが何とかしてくれるだろ」


「そんな適当な…」


二人のひそひそ話を聞いて、ノアがコソッと呟いた。



「陛下と殿下の本気の魔術がぶつかったら、巻き込まれて怪我人が出る可能性は?」


ノアの言葉に、オルドリッジ親子は雷に打たれたような表情になり、絶句した。



「その場合は旦那様とお嬢様には、すぐに逃げていただくよう、思念の指輪でお伝えします」


「……最悪、皆でアレクに魔術を行使すれば、取り押さえられるのではないか?」


ワナンの言葉に、グレンは我慢できずに吹き出した。



「ぶは!皇帝陛下を取り押さえても良いのですか?父上、貴方はそれでも魔術長官ですか!」


「今日は無礼講だ」


くすくすと笑いながら肩を震わせるオルドリッジ親子に、陛下が少し離れた場所から不思議そうな顔で話しかけた。



「祭りがそろそろ始まる時間だろう?行こうではないか」


陛下とワナン、レナルド、そして以下数名の長官達は、大広間に向かって歩き出した。


その後、ワナンの言った通り、祭りの噂を聞きつけた貴族たちがズラズラと入場し、さらに魔術学園の生徒たちも、黒いローブを身にまとって入場して行った。


服が汚れるので参加をためらうからか、どちらの集団にも女性は一人も居なかった。




お祭り会場に皆が入場するだけで、こんなにも尺を使いました。どういうこと?

スプラトマトゥーン本戦は白熱の予感。

陛下の運命や、いかに…

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