エピローグ・玉座巨人と現王陛下
三章エピローグ、短いです。
◆アイゼルフ王都。シルバートライデント中央搭。玉座の間。
二種類の声が静謐な玉座の間で響いている。
一つは不自然に陽気な中性的な子供の声。もう一つは深い憂いを帯びた歳経た男性の声。
「ギガルスくん、君の凡庸で悲しい息子はビースウォードに向かったよ」
少年とも少女とも思える声は、天から降りかかるように男性に届く。
「そうか……少し早かったが予定通りだな」
早く動き出したのも、オブシディウスの破壊と言葉は濁したが王子の排除を依頼したゲシュタルトに先制攻撃したのも誤差の範囲である。
全ては予定通り。だというのにギガルスは憂鬱な溜め息を吐いた。
どこまでも身の丈を知らない息子であった。努力は美徳。己の限界を定めない向上心は称賛される。しかし時には素直に収まるのも器の大きさだとギガルスは思う。大人しく文官にでも収まってくれれば問題も面倒がなかったのにと彼の胸中は複雑だ。
せめてもの救いは中央集落ドランオスカや、友好国のドルイソワーフに行かなかったことか。
世界の法則すら歪む神秘の集落ドランオスカは手中に納める所か攻めるのも難しく、鉱人の王族が治める金属と技巧の地下王国ドルイソワーフの守りは堅牢だ。
選ぶなら戦争でアイゼルフ王国軍とゲシュタルト精鋭によって大打撃食らったばかりのビースウォードしかないだろう。
「実際に見たオブシディウスはどうだレガリア、予想よりも遥かに大きいがおまえであれは破壊出来るか?」
ギガルスが座す豪奢な玉座の後方。部屋の壁や床と完全に一体化している巨大な椅子座す、玉座と似た意匠を持つ金属の巨人に問い掛ける。似ているのは当然で玉座の意匠はこの巨人をモデルにして決められたからだ。
レガクロスレガリア。
意思を持つ選定する王権にして、アイゼルフの王が座する人の形をした真の玉座。
レガクロスロードやゲシュタルトの幹部専用レガクロスが束になっても敵わない性能を、十メートルという標準的なレガクロスの機体に秘めている。
今も国土を守るために膨大なMPを産みつづける永久機関は静謐な玉座の間を乱す事のなく、静かに力強く動いている。
アイゼルフ王族の高祖が造り上げ、建国よりこの国を守り続ける守護神は幼さ感じる口調の合成音声で「簡単だよー」と答えた。
しかし「でもね」と更に言葉が続いた。
「最良に事を運んでも、国土の半分が焦土になるね。改めて見たけどやっぱり相性がよくないよ。
今はワタシの部下も全員揃っていないし、力任せにやるしかないからやることは簡単だけど、被害が大きくなる。最悪ワタシとギガルスしか残らないかもね。
予定通りゲシュタルトに任せてワタシも軍も通常業務なのが一番被害が無いよ」
「ディセニアンは不死身だしねー」と呑気な口調で告げるレガリア。
「情報では先に襲われてしまったようだが?」
口ではそう言ったが、ギガルスはあまり心配も問題もあるとは思っていない。ゲシュタルトのトップ四人は国に所属するディセニアン達の中でも飛び抜けてレベルが高い。下の物達も頭のおかしい奴らが多いが優秀なのは間違いない。
グナローク第三王子は噴火寸前だったゲシュタルトという火山を、魔法で爆破したような物だ。やる気に怒りも混ざって、普通に噴火していたよりも激しい噴煙を撒き散らすだろう。
レガリアの答えも似たような物だ。
「問題無いよ。あの子達は馬鹿ばかりだから被害は出るだろうけど、すぐに蹴散らして君の息子を追いかけ始めるよ。
特にあそこの顔の気性は苛烈だ。脳は止めるどころか顔の望み通そうとするし、腕は優れた武器を貰えればどうでもいい、心臓は勝手に他の部位のために働く。」
顔、脳、腕、心臓と表現されるゲシュタルトのギルドマスターと三人のサブマスター。適材適所。その言葉をギガルスが羨む程、自然体で体言している。何者になれずアイゼルフ王族という立場すら捨てるグナロークにとって悪夢と思える程正反対だ。存在する事自体が許せない。
「アレの企みが成功するのは面倒増えるので問題だが、出来ればあの暴国が、降伏とまでは行かないまでも戦意がへし折れる位には踏み荒らしてから退場してほしいものだ。」
アイゼルフ王国は、オブシディウスもブラックワンも徹底的に隠してきた。
ディセニアンにも国土精霊と誓約させて、アニメートアドベンチャーの中では知らない者に前では喋ることが出来ず、外でもその記憶をシャットアウトされて話すことが出来ないようにしている。
レガリアの国土防衛のリソースを削ってまで隠してきたオブシディウスの存在には何者も辿り付けはしない。
オブシディウスが飛び立ったブラックワン跡地の隠蔽準備も何もなかった事にする準備も済んでいる。
オブシディウスがアイゼルフからやって来てビースウォートを蹂躙しても何も問題ない。
機械の姿をしているので余計な勘繰りがあるだろうが、間者にわざと流しているゲシュタルトに流れる資金。ホームを破壊されて怒れるゲシュタルトが持ち出す、巨大なゲシュタル・ゲル・ボロスで幾らでも言い訳が立つ。
誰もが認めるだろう。信じられなくても歯を食いしばって認めなくてはならないだろう……あれほどの巨体と性能のオブシディウスを造れる程の金は動いていないと。
オブシディウスと第三王子の成果はどれもこれも認める事など出来なかったが、コストがかからないというその一点だけは、ギガルスもレガリアも素直に認め、褒めることが出来た。
「お金が殆どかからない黒曜製の武器、素晴らしいよねギガルスくん」
「その点は面倒がなくて本当に助かる」
可能性は少ないが、ついでにオブシディウスに対抗出来るようなビースウォートの隠し玉でもあぶり出して貰える大変助かるとレガリアとギガルスは思う。
もっとも、城を破壊し軍を大幅に弱体化させた、ゲルドアルドのサンダーフォーリナー。最も多くの撃破スコアを稼いだ、ブラウリヒトのパンツァーブルーダー。両者に対して録に対抗策を出せなかったので、そこはあまり期待はしていない。
「あ」
「どうしたレガリア?」
突然意味の無い間の抜けた音を発したレガリアが明後日の方向を見て固まった。ギガルスは釣られて同じ方向を見るが堅牢で豪華な玉座の間には窓等は無い。そこには壁があるだけだ。しかし、人間を越える高度な知覚システムを備えるレガリアにはある光景が見えている。
何も見えていないギガルスだったが、僅かに伝わってくる衝撃、そして振動に気付いた。
「あージャベリンが……」
「まさか、攻撃してきたのか!?
己の血統に誰よりも誇りを持つアレが、高祖が創りしお前に匹敵する至宝であるシルバートライデントを!」
レガリアは僅かな音可動部から発生しない首を振り、ギガルスの言葉を否定する。
「違うよ、君の悲しい息子にそんなことはできないよ。彼が攻撃したのは……」
言葉の途中、レガリアが見ている方向にグナロークが攻撃を仕掛けそうな建物と人がいることにギガルスは思い至る。彼の顔が盛大にひきつった。
「ゴルドアサイラムだよ」
ギガルスは片手で顔を覆い、玉座で天を仰いだ。
「わーすっごい怒ってるよ、君の三番目の奥さん」
次回更新は未定。
数日以内に第三章の登場人物紹介か、今まで人物紹介を消して人物や擁護集を執筆するかも知れませんが、四章本編はまた一ヶ月ほどお待ちください。
三章までお読みいただきありがとうございました。
評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいでず。




