泉涼祭と問題児 祭り・後編
二日連続投稿です!
ではでは、どうぞ!
泉涼祭・最終日
楓は、久しぶりに会社に来ていた。別に昨日会社の話が出て思い出したわけではない。・・・・・・たぶん。
今日、会社に来た目的は気が乗らないが会議のためだ。
この会社は、楓が一から作ったものでもうできてから十年になる。
社員たちは楓がいないと何もできない、というわけではないが重要な案件は楓が処理しているため、その振り分けをするための会議である。
楓は、今年の夏には異世界に行く予定なのでそのために、社長の座を譲る準備をしているのである。次期社長は決まっているものの、自分が抱えてきた案件すべてを預けるには少し荷が重いので、どんな案件であるか、どこに委任するのかを早急に決めなくてはならないのだ。
「だるい、もう帰ろうかな・・・・・・」
・・・・・・早急に決めなければならないのだ。
ちなみに、他の八人も同じような案件で今日は一日忙しくしている。
会社の中に入り、受付へと向かう。
見たことのない受付だが、大方副社長が勝手に雇ったんだろうと思い、受付に用件を伝える。
「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」
「あぁ。・・・・・・社長室ってどこ?」
「えーと、あの、社長はいま席をはずしていまして・・・・・・」
「うん、知ってる。だから、社長室はどこ?どこにあるのか忘れちゃって・・・・・・」
「ですから、社長は今いらっしゃらないのでご用件がおありでしたら、後ほど連絡を入れてからお越しください」
どうやら、楓が社長だということを知らないようで、全く話が進まない。受付の人も楓の容姿が大人っぽいとはいえ、二十歳も過ぎてない子供の嫌がらせにしか見えてないようだ。
だが、そこに救世主が現れた。
「何やってるの?何かトラブル?」
「あっ、今西先輩この人が社長室に案内してくれって・・・・・・」
「おっ、セリちゃん久しぶり。髪伸びたねぇ~」
彼女の名前は今西芹花。この受付の仕事を三年続けている。もちろん楓とも面識がある。
芹花は楓の顔を見て驚愕する。
「しゃ、社長!?」
「社長ってこの少年がですか!?」
「うん。そういうのはいいから、社長室がどこにあるのか教えてくれない?」
「・・・・・・もしかして、忘れたんですか?」
「いや~、最上階ってことだけはわかってるんだけどね。エレベーターってどこだっけ?」
「そこからですか。一年も会社に来ないからですよ?」
「反省はしていないから早く案内してくれ」
「反省してください!・・・・・・はぁ、全く、こっちです」
なんだかんだいいながら、芹花はエレベーターの場所を案内しだした。その間、最初に楓の対応をしていた受付はしばらくそこで呆けたままだった。
「ふぅ、ようやく着いたか。パッパと入って早く帰ろう」
芹花に社長室まで案内してもらった楓は、自分の机まで進みそこに空間魔法で出した書類をドサドサと置いていく。
その後、何もなかったように部屋を出て、会社を出ていく。
(どうせ、セリちゃんのことだから秘書やほかの幹部連中にも連絡してるだろうし、言わなくてもいいか。つーか、会議なんて面倒くさいこと誰がやるかっつの)
こうして、楓の社長退任はつつがなく(?)終了した。
「時間余ったし、学校にでも行くか!」
「ということでやってきました、屋上に!・・・・・・それはそうとなんでみんないんの?」
楓が屋上にやってくると、なぜかそこにはオカルト研のメンバーが勢ぞろいしていた。しかも、ご丁寧にテーブルや椅子まで持ってきてお茶をしていた。ちなみに、まだ昼前である。
「楓ちゃんも学校に来ると思って屋上で待ってたんだよ。ここなら眺めもいいしね!」
桜の嬉しそうな声に楓はため息をついて続けて苦笑いした。つられて桜も笑う。
「桜にはかなわないな・・・・・・」
「楓の暴走を止められんのは桜しかいないからな」
そういって、蓮も笑う。しばらく、オカルト研のメンバーで話しながら和やかな時間が過ぎていく。
「もうそろそろ、この世界ともお別れだな」
楓がそう切り出した。桜が無言でうなずき、蓮たちが真剣な表情をする。
「そういや、楓。聖羅に護身術進めたんだってな。なんで?」
「いや、実はさ。今まで黙ってたんだけどな。どうやら、正義たちと一緒に異世界に落ちるやつがいるみたいでな」
「・・・・・・それが、聖羅だと?」
「いや、それはまだわからない。予知夢を見たんだけど、聖羅の時もあったし愛歌の時もあった。たぶん、まだ確定した未来じゃないんだろう」
「でも、その二人ってことは・・・・・・」
「ああ。可能性は高いと思う。だから、聖羅に護身術を進めたんだ。愛歌にも言おうとしたんだけど、タイミングがつかめなくてな」
「ちょっと待って、楓」
楓と桜が真剣な表情で話しあっていると、薫が話に入ってきた。
「楓の夢に出て来たのはその二人だけなの?他には誰も出てこなかった?」
「ああ。二人だけだ」
「それがどうかしたのか?薫」
椿も話に加わり薫に問いかける。話に参加していなかった四人も不思議に思いながら薫の答えを待った。
「つまり、二人とも私たちの知ってる人。私たちとかかわりの深い人よね?」
「そういえば、そうだね。って、もしかして!?」
「そう。正義くんたちも私たちと関係がある人達よ。ということは、正義くんたちが、そして、聖羅か愛歌ちゃんが異世界に行くのは私たちの所為ってことになるわね」
薫の言葉を聞いた桜たちは複雑そうな顔をした。自分たちの所為で異世界に行くことになる。本当なら行くことない人が。
それでも自分たちは、異世界に行くことをやめることができない。どうしようもなく個人的な理由だが、長年夢見てきた隠し事をせずに生きられる世界に行くことを断念することはできない。でも、そのために関係ない人が巻き込まれる、という事実が桜たちの心の中に渦巻いていた。
だが、桜たちの複雑な気持ちを楓はさらっと吹き飛ばした。
「そんなこと先刻承知だけど?」
『・・・・・・はい?』
思わず、全員で聞き返す。
「いや、だから、そんなのは先刻承知の上だって。ただ、薫の言ってることには、少し間違いがある。確かに聖羅か愛歌が異世界に行くことになるのは俺たちの所為だけど、俺たちが異世界に行かなくても正義たちは異世界に行くことになるぞ?まぁ、その場合は、異世界に勇者として召喚されるって言う筋書きみたいだけどな。
そして、それに巻き込まれる人間がいるのも変わらない。それが、俺たちが異世界に行くことにより、正義たちは俺達が行くことになる世界に落ちることになり、それに巻き込まれる人物が聖羅か愛歌に絞られたってだけだ」
「つまり、私たちが異世界に行くことの影響は、正義くんたちが異世界に落ちることと、巻き込まれる人間が二人に絞られただけってこと?」
「そうだ。加えて言えば、その世界には俺たちが既に存在していて異世界におっこちる前に準備ができるってわけだな。まぁ、聖羅や愛歌には悪いけど何も知らずに知り合いもいない場所に落とされるよりいくらかマシだろ」
桜の問いかけに楓は頷き、少し補足する。それを聞いて、桜たちの心も少し楽になったようだ。
「そういえば、楓兄さん。異世界に行ったら何するんですか?」
茜は思いついたことを楓に問いかけた。それがうまいことに話題転換になりみんなもそれに乗っかる。
「そうだなー。とりあえず、情報収集かな?いきなり街には入りたくないな。ファンタジー小説なんかだと街に入るのにも身分証明とか金がかかるのもあるし」
「それは大事かもねー。あとは、常識とかも知っといた方がいいかもね」
「冒険者にもなってみたいよな」
「おっ、椿、ナイスアイデア!俺も冒険者になろうかな」
「う~ん、俺も冒険者にはなりたいけど、基本的には生産に回りたいかな?」
「へぇ、てっきり楓も冒険者になって最強になる!とか言いだしそうなのに何で?」
「おい、葵。お前の俺に対する見方を少し改めさせる必要性を俺は考えてるんだが・・・・・・。まぁ、それは置いておくとして。冒険者でも目立ちすぎると国に目を付けられるだろうしな。そうなると、戦争に駆り出されたりしてつまらなそうだからな。それに刀づくりとか好きだし」
「なるほどな。あまり、やりすぎるのも考え物ってわけか」
「そゆこと。まぁ、どの程度かは行ってから調べるとして。あとは、喫茶店とかやってみたいな」
「あっ、それ、私もやりたい!」
「・・・・・・私も」
「それなら私もやりたいわ」
楓の発言に桜、雫、薫が反応する。
「異世界で喫茶店かよ。普通酒屋とかだろ」
「嫌だよ。酔っ払いに絡まれたり、喧嘩の仲介したりすんの。それに、たぶん、農場とかも作ったりするし、蓮たちが依頼で狩ってきたものを料理するにもちょうどいいしな」
「あと聞いてないのは葵と凪と茜だね。三人は何やりたい?」
「うーん、私は冒険者になって椿の手伝いかな?たぶん、情報収集したりするんだろうし。あとは、たまに喫茶店で働きたいかな?」
「私は楓の手伝いとか冒険者になって依頼受けたりとか、とりあえず、何でもやってみたいかな」
「私は冒険者になりたいですね。楓兄さんに得物を獲ってきます!」
「茜、よろしく頼む」
「はい!任せてください!」
「それならとりあえず、最初は情報収集して、街にはすぐには入らない。それとこれは俺からの意見なんだけど、みんな冒険者になってみればいいんじゃないか?減るものでもないんだし」
椿がこれまでの話を一つにまとめて楓たちに一つの提案をした。
「それもそうだな」
「そうだね。いざとなったらみんなの手伝いとかできるしね」
楓と桜が賛成し、みんなも意見はないようなのでこうして異世界に行った後での行動が決まった。
「おっ、いつの間にか暗くなってきてんな。そろそろ後夜祭も始まんじゃね?」
蓮の言葉でみんなが辺りを見渡す。すでに空は暗くなっていて、どうやら、かなり話し込んでしまったらしい。
そう思って、そろそろお開きにしようと楓が立ち上がると同時に屋上のドアが開いた。
「おっ、やっぱりここにいた」
「ん?正義たちか。なんでここに?」
屋上にきたのは正義たちだった。聖羅や愛歌もいる。
「なんでってなぁ、もう閉会式も終わったんだぞ?それで、部活ごとの最優秀賞も決まったんだよ」
「そうか、もうそんな時間だったか。それで、最優秀賞はどこだったんだ?」
その言葉を聞いて正義たちは溜息を吐き、聖羅が前に出てきた。手には何か紙を持っている。
「こほん、『部活動部門最優秀賞、オカルト研究部様 あなた方の部活は泉涼祭の期間中最大の集客数を誇り、さらにお客様を最大限に楽しませたとしてここに賞します。 泉涼高校生徒会長 泉導院聖羅』おめでとう、楓さん」
『・・・・・・な、なにぃいいいいいい!?』
楓たちは珍しくとても驚いていた。
「良かった。楓たちも驚くことがあるんだな。特に楓」
「そうね。普段滅多に驚かないしね。特に楓」
「基本的に人を食ったような性格だしな。特に楓」
「逆になんでここまで驚くのか知りたいわね。特に楓」
「なんか俺が理不尽にディスられてるだと!?」
正義たちの発言にまたもや声を荒げる。これもとても珍しいことだ。
「そういや、そっちはどうだったんだよ?」
「全然だめだったよ。バスケ部は七位だった」
「柔道部は九位ね」
「弓道部は十二位よ」
ちなみに、部活は全部で五十を超える。
「つーか、どうやったら無人のお化け屋敷で一位になれるのよ?」
「逆に聞くけど、どーやったら無人のお化け屋敷に負けるんだよ」
「というか、それを言うんだったら映画鑑賞とか休憩所でなんでそんなに順位が高いの?」
「「「う゛っ・・・・・・」」」
里香の言葉に楓と桜が言い返し、そのあまりにも真っ当な質問に言葉が出ない里香以外の三人だった。
「まぁまぁ、楓も桜もそのくらいにしてあげなさい。それで楓、そろそろ時間じゃないの?」
「おっ、そうだったな。正義たちや愛歌と聖羅も一緒に見るか?」
「へ?えーと、何を?」
「あぁ、なるほど。愛歌さん、泉涼祭は後夜祭の後に花火を打ち上げて終了するんですよ」
「そういうことだ。で、ここは結構穴場なんだよ。というか、後夜祭はグラウンドでやるから校内にいる人自体が少ないんだけどな」
「へぇ~、よくこんなところ知ってたな」
正義が感心したように呟く。それを聞いて楓が見つけた理由を話し始める。
「一昨年の泉涼祭の時、屋上でバーベキューやろうって話になってな。それで、どうせなら夜にって話になって遅くまで残れる後夜祭の時にやることにしたんだ。そのときに、偶然知ってなー」
「屋上でバーベキューなんてすんなよ!」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。こうやっていい場所で観れるんですから」
「うっ、まぁ、会長がそういうんなら・・・・・・」
そんなことを話していると、遂に花火が打ち上がり始めた。
「うわぁ・・・・・・」
「これは、すごいわね・・・・・・」
「だろ?」
しばらく、花火を見つめていた一行はひときわ大きな花火が最後に打ち上がってから、まるで呼吸を忘れていたかのようにゆっくり息を吐いた。
正義たちがいまだ祭りの余韻に浸っていると、楓が水を差すように愛歌に語りかけた。
「そういや、愛歌」
「ん?なぁに、楓さん」
「再来週、期末テストだけど大丈夫なのか?」
「・・・・・・て、テスト?・・・・・・再来週?」
愛歌のそんな顔を見て楓たちと正義たちは優しげな笑顔を浮かべて愛歌に言葉を放った。
『頑張れよ!』
「いやぁああああああ!!」
まだ祭りの空気が残っていた空に合愛歌の声が響いた。
そして、こうして楓たちの高校最後の学校祭が終わった。
評価、感想・アドバイスなどがありましたら、
よろしくお願いします。
これから、というときに体調を崩しました。
でも、頑張りますよ!?




