1話 魔王と勇者が戦うようです
俺は……自他ともに認める最強の魔王だった。
魔術の全てを極め、魔界と人間界の頂点に君臨する魔王として全ての人々から恐れられ……負けることなんてないと、そう思っていた。
だが、俺は負けてしまった。人間界の英雄……勇者の手によって……
「来訪者か……何人もの人間、魔物を葬ってきたが……お前は少し違うな」
「俺は勇者!魔王!お前を倒し……世界を救う人間だ!」
勇者と名乗る男は剣を抜き、先を魔王に向けたまま口にする。
「どうしてこんなことをする!人間だけでなく魔界の人間も殺し……お前は何がしたい!」
「何がしたい……か。愚もんだな。俺は全ての生物の頂点だ。その責務を全うしているだけ」
「それでお前は……幸せなのか?」
「は?」
「お前を庇う奴も……仲間もいないじゃないか」
勇者は真摯な顔でそう言うので魔王は目をぱちくりとさせながら数秒の沈黙が続き、気づけば声を上げて笑っていた。
「ハッハッハ……勇者ともあろうものがそんなことを気にするのだな」
魔王はそう言いながら立ち上がり、自身の周りに無数の魔方陣を展開して言った。
「そんなものは全てどうでもいい。俺は俺がいると証明するためだけに生まれ、生きてきた。お前はそんな俺を止めるために生まれてきた!」
「違う!」
勇者はそう声を上げ、瞬間……両者走り出す。
ギィィィイイイイン—————————
魔方陣と剣が衝突し、勇者の猛攻は続く。
展開している魔方陣が破壊され、魔王は魔術を発動させる暇なく押されてしまう。
(この俺が押されているだと!?やはり……こいつははったりなんかじゃない……本物の勇者だ)
俺はダンジョンの最奥に居座っている魔王で、ここの階に到達している人間はちょくちょくいた。
そしてそいつらは全員口をそろえてこう言っていた。『俺は勇者』だと。
だがしかし、軒並みそいつらの強さは平凡……退屈な戦いばかりだった。
「こんなに面白い戦いがあったとはなぁ!勇者!」
「面白い!?これがか!?」
「あぁそうだ!」
魔王は魔力を最大限解き放ち、先程の倍以上の魔方陣を展開し魔術を発動しようとしていた。
(さっきよりも早さがあがってる!?)
魔王はこの時、魔術の術式を変換させ……一瞬で炎魔術の最高火力を放っていた。
勇者は剣で一刀両断させその炎魔術が消えるのだが……魔王は笑みを浮かべ勇者は察してしまう。
「……罠か!?」
「今気づいてもおせぇ!」
勇者の足元が光り、魔方陣が出現する……そして魔王は容赦なく魔術を使用し勇者は飛ばされてしまった。
「うまく受け身を取って大事には至らなかったか」
「……うぐっ」
爆発をもろにくらってしまった勇者は自分の肩を抑えながら立ち上がる。
魔王はゆっくりと近づきながら、口を開く。
「お前も、ここで終わってしまうのか……」
「何でそんなに戦いにこだわる」
「俺が魔王だからだ」
「……本当にそれだけか?」
「何が言いたい」
勇者は剣を抜き……それを魔王に向けながら言うのだが、魔王は困惑した様子もなくなんなら小首をかしげていた。
「……俺も気持ちは分かる……方だと思ったけど、どうやら違ったようだ」
「俺とお前が同じ?何を言っている……勇者と魔王……正反対の生き物がどう分かり合えるっていうんだ?」
「……さぁな。俺はこの一撃に全てをかける。お前も全力で来い」
「何が言いたいのかはわからなかったがいいだろう……俺の全力をもってお前を葬ってやる」
互いは構えを取り、魔王は詠唱をはじめ勇者は剣に何かを込め光を帯びていた。
「『全ての炎よ……我に力を捧げ神炎に変えたまえ』」
炎の色が赤色から様々な色に変わり……青色になったタイミングで放たれる。
それと同時に勇者が走り出し……神々しく光った剣げ青い炎に迫る。
光線のように放たれた青い炎は勇者の剣によって一刀両断され……その剣が魔王の体に届き貫通した。
「……ッ!?」
「……」
体は魔力を最大限込め守っていた。それなのにハサミで布を切る時のように……綺麗に、けれど大胆に……静かに切られてしまう。
魔王は膝から崩れ落ち、吐血する。
勇者は剣を鞘にしまい……崩れ落ちた魔王に近づく。
「……どうして、何が……あった」
魔王は何があったのかわからない様子でゆっくりと近づいてくる勇者を見ていた。
(何があった……俺は確かに魔力で体を守り、最高火力を放ったはずだ。それなのに……なんで……)
いともたやすく魔術を一刀両断するどころか……そのまま体を貫通させられる。魔王が困惑するのも無理はないだろう。
「俺は色々な人に助けられてここに来た。家族や仲間……これは俺だけの力じゃない。」
「……わからんな」
「だろうな。でも……お前の言っていた面白い戦い。少しだけわかった気がするよ」
「そうだろう?誰かを殺すという快感は面白く、気持ちいものなんだ」
魔王は吐血しながらそういうと、勇者は顔を左右に振りながら答える。
「違う。互いの本気をぶつけあうことに対してだ。」
「……わか……らん……な」
勇者の答えを聞くのと同時に魔王は意識が段々と弱っていた。
魔王が見た最後の勇者の表情は笑みでも……興奮した様子でもなく、少し悲しそうな表情をしていた。
なんだよ。勝ったんだから堂々としろよ。なんでそんなに哀しそうな顔をする。
お前は最後まで何が言いたかったのか全然わからなかった。
俺は、俺の生きたいように生きて、お前という勇者に殺してもらった。それでよかったのに。
すごくもやもやする殺され方をして……やるせない気持ちが広がっていた。
(それでも……最後の技はすごかったなぁ……人間界……勇者……本当に存在するんだな)
魔王は……そこから二度と目を覚ますことはなかった。
「……クソがっ!」
勇者はそう嘆き、その場を後にする。
そして彼は世界の英雄として崇められ……何百年と語られる存在になった。
しかし困ったことに、今まで魔王がいたからと大人しくしていた魔物や他の者たちが暴れるようになってしまう。
英雄と言われた勇者は魔王討伐後、姿を現すことはなかった。
どうしてなのか……その答えを知るものはいない。
ただ……彼は最後にこう言葉を残していたそうだ。
『もう、俺は二度と剣を持たない』
そう言葉を残し……どこかへと姿を消してしまった。
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