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格闘遊戯とオレ

「ナカちゃーん!」


 Bダッシュから一気に相手を画面端に追い詰めて、コンボを叩きこむ。こうですね、分かります。

 ってことで、恒例のリムりんからのハグ攻撃……や、攻撃じゃないけど、あれですよ。

 むっちむちの、たふんたふんのEカップの脅威を思い知るが良い! ふはははは! って感じなのですよ。

 何せオレの頭が大抵乳枕にのめり込むから。むぎゅっ。


「リミュリシエル。ナカ吉の顔が青くなってきていますよ」

「何ですって! どこの誰が私の可愛いナカちゃんにそんな真似をしたの! 出て来なさい!」


 はーい、オレその人知ってまーす……って、いや、マジで酸欠でちょっとくらくらしてきた。

 昨日の夜から二度ほど消滅の危機に立たされたオレですが、今が一番のピンチだった気がします。

 ちなみに二番目は女装する羽目になった今朝です。


 あ、リムりんにはちゃんと離して貰って一命を取り留めましたよ?


「もー、何処行ってたのよー、心配したんだからー」


 わーん、と天使のような美少女に抱きつかれるオレ。

 ふっ、うらやましかろう。代わってやらないぞ。

 多少の生命の危機なんざ、美少女という世界の正義の前ではちりアタックも同然なのですよ!


「それを言うならば塵芥ちりあくただ」


 後ろの方の幻聴は無視して、


「えーとね、天壇とか、うにくろーとか?」

「ケガしなかった?」

「えーと……う、うん」


 ケガは……まぁ、ちょっとばかり膝小僧すりむいたりもしましたけど今は治ってるし。

 ちょっとばかりパーンしましたけどあれは怪我じゃないよね?

 セーフですよね?


「きちんと食事は採れたのですか?」

「あ。そりゃあもうばっちり」


 お昼どころか三時になったし、ついでに言うと自分で食事出来ない状態だったけど食べたことは食べたし。


「誰か変な男に絡まれなかった?」

「えーと……」


 ……まぁ、某変態先輩には絡まれ、某チョコレートには羞恥プレイもどきの謝罪をされましたが。

 ついでに双神子にも何か嫌ーな絡まれ方されたけど、あれは男じゃないし。


「まさか脅されて泣かされたりとかしてないでしょうね?」


 デュランに怒られてマジ泣きしましたが何か。

 そう言えば昨日からカウントして計三回も泣いちゃってるよオレ。乳幼児ですか。

 一生分の涙を先払い、こうですね、分かりません。


 てか……やべぇ、言えねぇ。言えねぇよ。

 リムりんとヴィーたんに言ったら世界大戦勃発しちゃうよ。

 その相手がいきなり魔王ラスボスとか、幾らリムりんとヴィーたんが綺麗で可愛くてかっこよくて強くてもムリゲー過ぎる。

 デュランって魔改造も良いところだしなー。


「平気です」

「嘘だわ」

「嘘ですね」

「何でばれたっ?!」

「驚くほど分かり易いな……」

「そうっすね」


 背後からの二重音声はスルーして、


「敬語でしたしね」

「それに作り笑顔だもの」

「一応、私達はうそを見抜くような訓練も受けてますが……貴方の場合分かり易過ぎますね」

「おっかしいなぁ……」


 普段はめったに気付かれないのになー。

 首を捻ってると、またグキッと首をやられた。ぐぇ。


「だから一人で勝手に行動しちゃダメって言ったでしょ。すっごく心配したんだからー」

「ぐぇぇぇ」

「しまってますよ、首」

「あらやだ、ごめんなさいね」

「うぇ……や、平気……うん、多分」


 ちょっとグラグラしながら、オレは「でも一応保護者つきだから」と後ろでぼけーっと突っ立ってる野郎を指す。

 何故か停止するリムりんとヴィーたん。

 何その反応。


「……もしもし?」

「……」

「……」

「ふぅ」

「はぁ」


 何で二人揃って溜息吐いてんの?


「そう言えば居ましたね、あんなのが」

「居たわね、あれが」


 そう呟いてまたしても同時に溜息を吐くリムりんとヴィーたん。

 いや、一応言動あんなだし、ボケボケの五歳児でしかもラスボスだけど、微妙に頼りにならなくもないよ?

 得意分野とやり方が大分一般人とずれてるだけで。


「それで、アレには妙なことされなかったでしょうね?」

「うん」


 妙なことはされてない。

 デュランが妙なのはいつものことだし。

 振り返ってみると、相変わらずデュランは距離を取ったまま何かアドルフと話し合っていた。

 手元でまたライターをカチカチ弄ってる。

 ああ言うところが子供なんだよなぁ……。

 ところでオレ、煙草とか大っきらいですから。オレの前で吸いやがったら貴様の急所も容赦なく蹴り潰しますんでそのつもりで。

 そんなことを考えてたら、何故かアドルフの方がビクっとして周囲を見回していた。

 何を察知したんだろう?

 とりあえずご期待に応えて、アドルフを見てニタァっと笑ってやった。

 あ、マジで退いてる。

 それで良いのかDDD。


「ナカちゃん?」

「あ、うん、ごめん。何?」

「もう、しっかりして」


 美少女は怒っても可愛いだけです。

 でも怒らせたいわけじゃあないし、オレは素直に「そうします」と頷いておく。


「もー……」

「リミュリシエル……その辺に。もう日が暮れます。冷える前にホテルに戻りましょう」

「……そうね。ナカちゃん、晩ご飯何食べたい?」

「え? うーん」


 ……そこ、さっき腹膨れるぐらい食ったばっかりだろとか言わないように。

 くどいようだけどオレ燃費悪いですから。

 それにご飯は大事です。ご飯は人生の楽しみです。


「ご飯系が食べられるのが良いな……昼間はパンだったし」

「じゃあ、キージャ料理はどうかしら?」

「うーん、食べたこと無い」

「じゃあ行かなくっちゃ。何でもチャレンジよ」

「私はあまり辛いのは遠慮したいのですが」

「辛くないのも多いから大丈夫よ? ナカちゃん鶏肉好きだったよね?」

「うん、大好き!」


 思わず全力で頷いたら、リムりんがフリーズした。

 あ。


「……ヴィーたんヘルプ」

「そんな目で私を見ないで下さい。無理です」

「や、うん……オレが悪いんだけど……」

「大丈夫です。しばらくしたら戻りますよ。最悪喉元にナイフでも突きつければ正気に出来るでしょう」

「偶にヴィーたんって発想が怖いよね」

「合理的だと思いますが」

「うーん……」


 戦闘訓練を当たり前のように受けて、当たり前のようにそういう考えがある彼女たちとオレみたいな非戦闘員の考えっていうか、考えの方向性が違うことは割とよくあるんだけど……。

 そう言えばあっちのアドルフも当然戦闘民族だし、デュランに至ってはラスボスだもんな。

 なのになんで一番するっと考えが馴染むのが魔王なんだろ。

 オレ何かチョイス間違えてね?

 まぁ、あそこまで魔族の癖に人間臭い魔王の方がどっかチョイスが可笑しいって可能性の方が高いけど。

 オレがじーっとデュランを睨んでたら、ヴィーたんが少し困ったように笑った。


「気になりますか?」

「え?」

「あの男が」

「気になる……うーん、まぁ、そういう言い方もできるけど……」

「親近感を覚えた、と言う感じですか。私から見ても、少し似てますからね……」


 癪ですけれど、と呟くヴィーたんに俺は首を捻る。

 え、全然似てないよ?

 奴はチートのハイエンドで、余裕ぶってて、意地が悪くて、子供っぽくて、しかもあの見た目だし。

 オレとは全然違うし。

 そう考えてたのがバレたのか、ヴィーたんはちょっと苦笑してオレみたいにデュランの方を見る。


「考え方が似ているのではありませんか?」

「えー、オレあんな突拍子もないことしねぇよ?」

「……。そうですか」


 何か今色々と諦められた気がするのは気のせいでしょうか?


「でも、良く似て居ますよ。自分で解決すれば、周囲にも迷惑も心配もかけないベストだと信じている辺りがそっくりです」

「や、別にオレはそうは思ってないし……」


 相談した方が良いと思えば相談しますよ?


「あいつはそう思ってるかもしんないけど、実際奴の場合は多分奴一人でやるのが一番効率良いからなー」


 デュランくらいスペックが他より飛び抜けて、つーか突き抜けちゃえば他に誰かいたって助けどころかむしろ邪魔だろ。

 足手まといにしかならない。


「そうかもしれませんね……」


 ヴィーたんがデュランを見て呟く。


「本当に必要ないのでしょうか」

「何が?」

「いえ……貴方は、ちゃんと呼んで下さいね? 今日みたいに一人で動きまわってはいけませんよ」

「あ、はい」


 いや、だから一応デュラン付だったからね? 途中ではぐれたけど。

 そんなにあいつって信用ないのかなぁ。

 色々こまごまと注意してくれるヴィーたんの言葉に神妙っぽく頷きながら、オレはちらっと横目でデュランを見た。

 デュランはまだライターを弄りながら、話し合ってるみたいだった。


「おーい、デュラーン」


 バタバタ手を振ったら、デュランが顔をあげてこっちを見て首をかしげる。

 いや、「え?」じゃなくて。


「置いてくぞー」

「構わん。ホテルに戻って居ろ」

「何故に命令口調……あっそ、じゃあ置いてくからなー。またねー」

「ああ、じゃあな」


 何だよ。本当に置いてくからな。

 んべっと舌を出して、オレは両手でヴィーたんとリムりんの腕をグイッと抱きこむ。


「先行こ」



 空にはそろそろ、星が見え始めていた。



 

【作者後記】

初めての格ゲーはスト2でした。たしか。

とにかくストリートファイタ○だったことは間違いない。

説明書も抜きで、当然のようにコンボも知らず、ルールも分からず、取り敢えず全部のボタンをめちゃくちゃに押してました。

当然のようにボロ負けしました。

ちなみに対戦相手は従兄弟です。


そんな子供の頃のささやかな思い出を語りつつ今晩は、尋でございます。

初めての方いらっしゃいませ。取り敢えずこの話に格ゲーは関係ございません。

そうでない方ようこそ。ゲームの内容が古すぎてごめんなさい。

Bダッシュ懐かしいという方、ウェルカム。握手しましょう。


さて、中央二日目の夕方、ナカバは友人たちと合流しました。

穏やかな時間が何時まで続くのでしょうね。

次回は今話題の迷惑メールについてのお話です。

縁があればまたお会いしましょう。


作者拝

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