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不審着信とオレ

 晩ご飯はリムりん推薦のキージャ料理のお店で食べた。

 いやー、うん、旨かった。

 辛いのとか、匂いに癖があるのとかは実はあんまり好きって訳じゃないんだけど、これは美味しゅうございました。

 お米が食べたいっつーオレのリクエストに応えて、サラダも出して貰いました。

 鮭、タコ、イカ、海老、胡瓜、それから松の実、黒いオリーブ、ぷちトマト、パプリカ、セロリ、カッテージチーズ、パセリ、オレガノにバジル少々。さらっとバルサミコ酢で和えて、岩塩と荒挽き胡椒で味を調えたサラダは結構食べ応えがあって美味しかった。うまし。

 これに、たっぷりソースに付け込んでから焼き上げた鳥胸肉のローストが加わると、いやぁ、もう、あれですよ。口の中が幸せだって話デスヨ。

 ヨーグルトとカレー粉、それからえーと……何だっけ、にんにくは入ってた気がする。とにかく色んなスパイスで作ったたれにじっくり二晩浸けこんだ鶏肉柔らかくて、大変ジューシーでした。

 格子状に程良く焦げ目がついた皮の部分はフォークでつつくだけでも分かるくらいにパリッと焼きあがってて、その下にあるお肉は臭みは当然無くてナイフが要らないぐらい柔らかい。そんで、ちっともパサパサして無くて、むしろ噛むとじゅわーっととろけるような脂が口の中に広がって、それからふわーっとスパイスの良い香りが鼻に抜けて、呑みこんでからも舌にいつまでも旨みがじんわり残ってる。そんなお肉でした。

 もう次のを食べるのが勿体ない、っつーね。

 いや、食べたけどさ。

 だって、揚げものとかアツアツの内が美味しいんじゃないか!

 じゅわじゅわとまだ泡立ってるくらいのを「さあ召し上がれ」って目の前に香ばしい香りと一緒に出されたらそりゃあ食べるしかないじゃないか!

 赤い、トウガラシの利いた辛いソースにちょんちょんと付けて、ハフハフしながら齧った白身魚のフリッターとか、ほんのりピンクがきれいな明太子のフリッター。歯ごたえと香りが楽しい三種類のキノコの混ぜフリッター。厚めに切った濃い緑のズッキーニと鮮やかな赤パプリカとかのフリッターを交互に串に刺して衣を付けた奴も勿論とても美味しゅうございました。ちょっと舌火傷したけど。

 マヨネーズベースのソースに付けても美味しかったなぁ。隠し味の味噌がまたソースを濃厚にしてて、でもマヨネーズだからまろやかね。唐辛子ソースとは違うタイプの旨さなんだ。あと、さっぱりしたすりおろし大根と柚子皮を入れた淡い琥珀色のつゆソースも良かったよ。

 ちなみに、辛い物が駄目なヴィーたんはハーブ入りの塩とレモンで食べてた。

 それからね……あ、オレの夕食なんか興味無いですか。そうですか。ですよねー。


 とりあえず、その後は昨日と同じくリムりん達はエステに、オレは部屋のシャワーへって感じで別れました。

 昨日勝手にオレが部屋を抜け出して外に遊びに行ったんで、今日は絶対に同じことするなよーとぶっとい杭をブスブスっと刺されました。いや、比喩だけどね。

 そんなもん刺さったら「あ、痛」じゃすまねぇし。

 とりあえず片手でまだ濡れてる髪をタオルでワシャワシャしながら、オレは携帯の電源を入れる。


 ギャギャギャギャギャ。


「ひぎゃっ?!」


 うおおお、驚いたー……バイブ機能、心臓に悪すぎだろ。死んだらどうしてくれる。

 てか、何?

 常にマナーモードにしてるせいで、そろそろ着信音が何だったのか忘れそうになってる携帯の画面を操作して、オレは今の震えの原因を確認する。


「何だ、新着メールか……」


 音声メール一件、の表示にオレは「びっくりさせんな」と八つ当たり気味に呟く。

 しかし誰だろう?

 オレのメアドはリムりんとヴィーたん、それから家族にしか教えてないんだけど。

 ヴィーたん達は今はエステ中だから、携帯は外してると思うんだけどな。

 差し出し人はえっと……これはロア、かな?

 ……マジで誰だお前。


「間違いメールかなぁ……」 


 スパムや詐欺メール、ウィルスメールの可能性もあるんだけど……件名も読めないし。

 迂闊に開けないな。

 とりあえず着信拒否登録をして、オレは携帯の画面を一端落す。

 携帯の意味がないとか言うな。

 オレの携帯は古いんで、充電が必要なんですよ。

 電気を大切にね! ゴールデンウィークの節電にご協力下さい! 使わない時はこまめにスイッチを切りましょう!

 メール自体は後で帰ってから愚弟に確認して貰おう。あいつこの手のこと詳しいし。

 さてと、どうするかなー。先に寝ちゃってるってのもアレだしなー。


 ギャギャギャギャギャ。


「のわっ?! 何故にっ?!」


 今度は何ですか? ってまたメール来てるよ。


「ってまたお前かよ!」


 差出人のロアの名前に思わず突っ込みを入れて……オレは首を捻る。

 あれ? さっき着信拒否の設定しなかったっけ?

 ……設定ミスかな。それともアドレスが違う?

 先に届いたメールと比べてみたけど、やっぱりアドレスは同じだった。差出人の名前も同じ。

 何でこうなった。

 そこは続けざまに三件目。

 もう驚きませんよ。心の準備はしてましたから。


「二度あることは三度あるって言うしなー……」


 ロア、の名前にオレは溜息を吐く。

 てか本当にアンタ誰ですか? やっぱりスパムか? ……でもそう決めつけるのは早いかもしれない。

 オレは三つ並んだメールの件名を見比べる。


 『IchBestAutIGe, ObSieSHiKISiNd』

 『WerSiNDSie?』

 『IchBiTTeSie, MEiNenFreUNdZuReTTen』


 うーん、さっぱりわからん。

 文字化けの可能性もあるけど、それにしちゃあ出ている文字がきれい過ぎるんだよな。

 もうちょっと変な記号とかの混交なら分かるんだけど、普段オレ達が使ってる文字の変形版みたいな形をしてる奴なんだよ。知ってる文字も混ざってるし。

 ぱっと見た感じ訳分からん文字がざくざく並んでるだけなんだけど、よーく見ると似たような「単語」が混ざってる。

 文章冒頭の『IchB』とか、他にも『SiND』とか、『Sie』とか。

 『TTe』っていう並びも特徴的だ。


「文字化けじゃないとすると……意味のある文章、ってことか?」


 暗号、かな。

 でもガ○パゴスなオレの携帯にわざわざ暗号で題名作って送って来るか? このロアって名前が鍵とか?

 ううん……それだけじゃなくて、他にも違和感が残ってる。

 何か、これ、どっかで見たような感じなんだけど……。


「あぁ、そっか」


 本の題名だ。

 今時珍しい、紙媒体だったからボヤーっと覚えてる。確かこんな感じの文字が混ざってた。

 そうなったら話は早い。

 間違いメールなのか、ただのいたずらか、それとも悪意あるウィルスメールなのか、その辺を判断する前にちょっとぐらい試しても問題ないだろう。


 メール本体には手を着けず、オレは件名だけをコピーして翻訳ソフトにぶち込む。

 オートで……んー、文字に特徴があるから、この文字で絞り込みかけるか。

 カチカチッと操作して、オレは溜息を吐く。


 何と言うか、嫌な予感しかしないなぁ。

 なんだか分からないけど、この手の嫌な予感って当たるんだよな。

 実はものすごーく、あはーんでうふーんな件名だとか? うわーい、それは止めてください。エロスはほどほどに!

 もしくは、死ね系とか?

 ……や、まぁ別にそれは慣れてるから良いけどさ。頑張って解読した結果がそれって何か空しくて嫌だな。

 まぁ、言語として成立してるんじゃないかってのもオレの勘だから、やってみました、ダメでしたーっていうことも充分あり得るんだけどさ。

 でもなんかがひっかかってる。

 うっかり飲むのに失敗したカプセルみたいに、喉の所に貼りついてるような。


 ピロンと音がした。


 あ、ヒットした。


「……古典ゲルト語ぉ? またマイナーな……」


 えーと、でもなんか一部内容が可笑しいな。

 最初のメールは、「わたしは質問しますあなたは」 ん? えーと、これは「SHikIですか」かな?

 これは訳せないな。シキ、ってそのまま読めばいいのか? てか、シキって何?

 とりあえずオレはシキとやらじゃございません。違います。

 次はえーと「あなたがだれですかわたしは」。

 ……何と無く分かるな。

 で、三つめ。

 「わたしは依頼しますあなたに。そしてあなたとわたしの友人を助けることを」


 その時、四つ目の新着メールが届いた。

 翻訳ソフトが変換した内容がオレの前に表示される。


 「友人は来ていた、あなたと私の時計の塔」



 間違いメールじゃ、ない。



 

【作者後記】

不審なメールは気軽に開かないようにしましょう。

アドレスが友人の者であっても、件名がおかしいのは見ないようにしましょう。

悪質なスパムなどは通報受付機関もありますので、そこにチクるのも手ですよ。


今晩は、スパムと聞くとランチョンミートを思い出す尋でございます。

初めての方もそうでない方もようこそいらっしゃいました。

ナカバの元に奇妙なメールが届きましたが、内容はどうやらきな臭いものようです。

『ロア』を名乗る相手から届いたメールにナカバはどう対処するのか。

最後までどうぞお付き合い下さい。


作者拝




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