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移動手段とオレ

 まぁ、気が緩んだら……うん、生理的反応ってやつですよ。

 すっきりしたーとすがすがしい気分で手を洗って、ついでに顔もばっしゃばっしゃと洗う。

 うん、リムりん達が施してくれた化粧は涙ででろっでろになってました。

 うーん、しかし微妙に一部落ちない。

 どうするかなぁ。

 だだ泣きしたせいで目も微妙に腫れちゃったし。

 というか昨日に引き続き今日も魔王様に泣かされちゃいましたよ、オレ。

 涙なんて流したの何時振りだろう?

 ここ数年、少なくともあの日以来は泣いてないはずだからなぁ……その今まで溜めてきた分を一気に使いきっちゃった気分だ。

 何かすっきりした。無茶苦茶怖かったけどね。


 妙にはればれとした気持ちで外に出ると、デュランが腕組みして暇そうに待っていた。


「おまたー」

「せ」


 うむ、ちゃんと補完してるあたり機嫌は直ったらしい。

 そんなこと考えてたら、デュランはしみじみとした目でオレを爪先から頭のてっぺんまで眺め、


「酷いな」

「うっせぇよ」


 声のトーンが低くなったのはデュランが悪いと主張します。

 それでも足を出さなかったのは……内心同感だったからで。

 さっき鏡見た時にオレもちょっと思ったんだ。

 こりゃひでぇ、って。

 折角リムりんが選んで買ってくれたワンピ(リムりんにしてはフリフリとかが控え目で、オレへの気遣いが溢れてる)がすっかり草と泥で汚れてしまったのだ。

 整えて貰った髪もばっさばさで、ピンもどっかに無くしたし。

 まぁ、髪がオレ硬いんでほっとけばこうなるのはしょうがねぇんだけどさ。

 鏡に映った俺はデロデロの化粧も手伝って、まるで人間の服を着せられたサルだった。

 思わず見た瞬間爆笑したんで、外にいたデュランとかファリドさんはさぞかしビビっただろう。

 ……いや、デュランはビビらないか。残念。


 まあ、その辺はともかく酷いのは確かだ。

 それとやっぱりこの足のすかすかした感じは落ちつかない。

 正直、まだ今のオレにはこういう格好はきつい。

 髪を切ったて、どんな格好をしたって、中身はオレから変わってないんだもん。しょうがねぇよなぁ。


 そんなことをぐちゃぐちゃ考えてたら、デュランが組んでいた腕を解いてオレの方にあるいてきた。

 そして、オレの頭に触れる。


「何?」

「落ちていた」


 んー?

 デュランがすっと離れたんで、オレは手を伸ばして触られたところを探ってみる。

 さっき無くしたピンが留ってた。


「うわ、良く見つけたな」

「探したからな」


 こともなげに言うデュラン。


「お前すげぇな。こんなちっこいもん探してもなかなか見つからないぞ」

「まぁ、確かになかなか見つからなかったな……小さすぎてな」

「だよなぁ。オレなら絶対無理」


 無くすのは得意ですけど何か。

 何故か微妙に呆れた目で眺められてるけど、オレが素直に尊敬するのはそんなに変ですかこの野郎。

 しかし、何でオレがピンを無くしたことを離れてたデュランが知ってたんだろう?

 うーん、魔王には謎がいっぱいです。


「化粧も落そうとしたのか」

「落したんです」

「残っている」


 はいそうですね。

 むすっとすると、デュランは苦笑して「まぁお前に化粧はまだ必要ないとは思うがな」とか言ってきた。


「何で?」

「何故化粧をする」

「うーん……」


 何故でしょう。

 オレは普段しないので分かりません。


「まぁ、必要な時に適切に行うことだ」

「それが出来れば誰も苦労しねぇよ」


 オレが冷静に指摘するとデュランはきょとんとして、「それもそうだな」とそれから苦笑した。

 当たり前の事ですからね。


「てかこのワンピさー、お前の魔法で一瞬でさくっと綺麗にしたりとか出来ねぇの?」

「一応出来るがな……」


 何その生返事。


「魔力のストックにも限度があるからな」

「うーん……どっかでまた補給すれば良いんじゃねぇの? ほら、あそこの隅っこで何かトラウマっぽいもの抱えてブルブルしてるファリドさんとかからほいほいっと」

「ここからでは無理だ。触れて居れば出来るが……」

「触れるですか」

「まぁ、一度食った相手ならば相手の体が俺を覚えているから、二度目以降は簡単にやれるのだが……ファリドはまだ経験がない上に中央十騎士だからな。無理矢理抑え込んで頂いてしまうというのはあまり気が進まんな……」


 ……。

 ……えーっと、はい?

 あ、そうか。魔力は魔族にとっては食事だったんだった。

 つまり、あの列車でデュランはアドルフを美味しくいただいてたわけである。

 新事実発覚。

 しかもアドルフ、二度も食われてた。

 衝撃の新事実発覚。

 魔王様、意外と手が早いんですね。


「てか、無理やりじゃなきゃ良いわけ?」

「合意の上なら構わんだろう。痛みもないし、別段存在が保てなくなる程の量を食っている訳でもないしな」


 最低限しか食って無い、と主張する魔王様。

 しかし、魔王の最低限って言われてもなぁ。

 それに、合意じゃなくても何とかなりそうな口ぶりだったんですけど。


「本当に最低限だぞ」


 オレの疑いの眼差しにデュランが苦笑する。


「何故俺がわざわざ列車やバスを使っていると思っている」

「観光したいから」

「……」


 あ、目逸らしやがった。図星だからって逃げんなコラ。


「まぁ、それだけでは無い」

「じゃあ、何だよ」

「移動魔法が殆ど使えないからだ」

「移動魔法って……空を飛ぶとか、瞬間移動とか?」

「まさしくそれだな」

「空飛ぶぐらいはやっぱ魔王として出来なくちゃ拙くねぇの?」

「本体ならば……いや、あれもまずいか」


 飛べない魔王はただのへたれだと思います。


「まぁ、瞬間移動……のようなものなら一回のみ、マーカーのある場所へと条件を限れば出来る。その程度の余力しかこの体には残していない」

「え? 空飛ぶ方が難しいんじゃねぇの? 何? 高所恐怖症?」

「違う。魔王おれが高所恐怖症などイメージダウンだろう」


 移動手段が無くてバスを使って、なおかつドーナツ屋さんの飲み放題コーヒーにつられて、ついでに鼻眼鏡かけた時点で魔王のイメージは地に落ちて土まみれだと思います。


「まぁ、聞け。瞬間移動……のようなものは正式には移動では無い」

「てか、その「の、ようなもの」って何」

「お前にはこの言葉を使った方が分かり易いから瞬間移動と言っているが、原理から見ればこの名称は正しくないからだ」

「デュラン」

「何だ」

「その語尾うっとうしいから禁止。普通に瞬間移動って言え」

「……。テレポートは」


 往生際の悪い奴め。


「あれは移動では無い」

「移動してるじゃん」

「正確には、座標を変更しているだけだ。よって消費する魔力は少なくて済む。空を飛ぶのは移動であって、移動中の区間でも魔力を消費するからな……テレポートの方が効率が良い」

「ほむ。点の置き換えと、目的地と出発地を結ぶ線の差ってことか」

「のみこみが早くて助かる」

「じゃ、マーカーって何?」

「文字通りマーク……だな。テレポート先を特定する為の目印と言っても良い」

「そこめがけてジャーンプ! って感じ?」

「まぁな」

「それってマーカーずらすとか可能?」

「可能だが……基本的にずらせないようなものに文字を入れているからな。まず無理だろう。とは言え、妨害されれば失敗することもある」

「へー。お前が失敗ねぇ……」

「まぁ、最近も一度失敗したしな……何だ、ニヤニヤして」

「いやー? 別にー?」


 ザマアミロとか思ってませんよ? ププッ。


「懲りないなお前は」

「誉め言葉と思っておきます」

「本当に懲りないな……さて、話の続きに戻ろうか」

「ん? 飛べないお前はただのゴミだって話?」

「いいや」


 デュランは首を振ってにっこり笑う。


「何故言いつけを破ったのか、言い訳させてやると言っただろう?」


 

【作者後記】

ナカバとデュランがタッグを組むだけで字数が増える不思議……。

二人とも喋りすぎです。


そんな事はさておいて、今晩は尋でございます。

初めての方、今晩は。つたない内容ではございますが、お気に召したなら幸いです。

そうでなければ、力及ばず、貴重な時間を頂いたことを申し訳なく思います。

再度ご来訪の貴方。またお会いできてうれしく思います。

何度も繰り返して告げているセリフですが、一重に尋の語彙が足りないだけです……が、こもっている気持ちは本物です。


そろそろ終盤に差し掛かって来ました。

速度を落とさず、質を落とさず。困難ですが両立してゆけるよう精進します。


それでは、またお会いできますように。それまでご健勝に。


作者拝



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