冷血魔王とオレ
ちなみに、灰と化していたファリドじいちゃんが仕事放棄で、案内する気ゼロだったあたりは誤魔化そうとしましたが……魔王には勝てませんでした。
矛盾を突かれ、揺さぶりをかけられ、何か洗いざらい白状させられました。
ごめんファリドじいちゃん。
オレちくっちゃった。
何か向こうの方でデュランの冷ややかな視線と、あくまで優しい声にいたぶられてるファリドさんを見ながらオレはそっと手を合わせる。
でも、心なしか詰られるうちにファリドさんの顔が緩み始めてるのは気のせいだろうか。
何か微妙に顔が赤くなってるのも気のせいだろうか。
……デュラン、今お前は中央十騎士の一人を新たな世界に目覚めさせようとしてるんじゃないか?
詰られて、軽蔑の眼差しで見下されて何やら興奮を覚えてるらしいファリドさんからオレはそっと目をそむける。
うん、あの人には遠い世界で幸せになってもらおう。
「さて、そろそろ良い時間か」
ファリドさんを調教してたデュランがふっと踵を返してこっちにやって来る。
思わず逃げた。
あっさり捕まった。
「……また勝手に何処か行くつもりなのかな?」
「滅相もございませんです!」
なのでオレの調教は止めてください。
まだそっちの世界には興味ありませんからっ!
恐れ戦くオレにデュランは微妙そうな顔をしていたが、気持ちを切り替えたのか上を指す。
つられて上を見ると卵型ドームの天井から巨大な振り子がぎっこんばったんと動いてた。
その振り子の表面に何か色々くっついてたり、わっかが周囲をぐるーっと囲んでたりするようだけど真下のこの位置じゃ良く分からない。
さらにその周囲には螺旋階段がぐるーっと天井沿いにのびていてずっと上の方まで続いている。あそこを登った日には翌日全身が筋肉痛でガッキボッキになるだろう。間違いない。
てか何に使うんだあんな凶器みたいな階段。
「えーと、あの振り子が【永久時計】?」
「では無い」
なんだ紛らわしい。
「じゃあ何さ」
「あれは【天季盤・第弐番】だな……この界の季節の運航、並びに気象の制御運営装置だ」
「……あれ、何か凄い単語が聞こえたような気が。耳に水入ったかな」
「本当の話だ」
耳は無事だったっぽい。
「太陽や星、月などが天球上を規則正しく運行しているのは、あそこから指令を発信しているせいだ」
「指令って、誰の?」
「ここの管理人達だ。とは言っても、今は一人だけだがな」
「ほー」
管理人ってことは双神子様のことだな、多分。
しかし双神子様って【永久時計】の管理以外にもいろいろ仕事があるんだなぁ。
それも世界規模の。
ん?
「じゃあさ。双神子様ってやろうと思えば好きな時に好きな場所に雨降らせたり、嵐にしたり、雷落としたり、雪で埋め尽くせるんだ」
「……。まぁ、他にも晴れにすることも出来るがな。事実、此方に俺たちが来てから晴れ続きだろう」
「あれ? あれって偶然じゃねぇの?」
「この世に偶然など無い、あるのは必然だけ」
お前はどこぞの次元の魔女ですか。
じろっと睨むとデュランは「冗談だ」と笑って手を振った。
大して面白くもねぇんだよっ! と某メガネ君っぽい感じの動きで突っ込みを入れておいた。
ちょっと体がつった。
「でもさー、それって結構怖くね?」
「何故?」
「だって世界中のエネルギーの首根っこ握ってる人が、天候まで操ってるとかさ。どっかが気に入らねぇなーってなったら雨降らしまくってやっつけるとか出来るし。バランス的に偏りすぎじゃね?」
「ふふ、すぐにそれに気付いて聞いてくるか」
「んー……だって、お前に聞く分には問題ねぇだろ?」
そりゃあ普通の人が聞いたら目を剥くか、「頭おかしいんじゃねぇのこいつ?」って目で見られるか、危険思想をもった異分子だーって迫害されたり怒られたりしそうだけどさ。
でも、デュランは魔王だし。
変な色眼鏡無くオレの意見を聞いてくれるだろうし。
色々裏事情も知ってそうだし。だから良いかなーと思ったんだけど、ダメ?
「まぁ、確かに問題ないな……そして、お前の疑念だが、そちらも問題ない」
「何で?」
「あれらには自ら人間に害を加えることは出来ないように予めセーフフィルターがその存在に組み込まれている。仮に殺されかけても人間に自分から抵抗することは出来ない」
「え? それもなんか随分だな……」
「だからこそ中央十騎士が存在するということだ」
「つまり?」
「自分では戦えないから、他に自分の意図どおりに動く人間を使って対抗する」
「……理屈としては分かるけど、何か悪どくねぇ? 中央十騎士にメリットあんのか?」
「あるぞ」
ま、メリット無かったらやらんよね。
「例えば、報酬もそうだな……一月分でお前の住んでいるあの建物くらいなら軽く買えるだろうな」
「ぐっはあ」
てことはあっちのファリドさんとか、ナーさんもそうなのか。
……殺意を覚えるのは小市民の宿命でしょうか。
あんのジジイどもめ……。
「他にも身体能力も魔力も制御系も全てが上がる。ついでに老化速度も落ちる。ある意味人ではない存在になるということだな」
「あー、そりゃ志望者増えそうだな」
「他色々特典はついてくるのだがな……だがそれ以上に、中央十騎士になると双神子の意思に沿い、双神子の為に行動すること自体に喜びを覚えるようになるからな」
「洗脳?」
「そもそも双神子に絶対の忠誠を誓い、それから先の可能性全てを双神子に差し出すことで得る特権だ。契約の結論として当然のことだな」
そう言えばナーさんも、双神子様の為じゃなかったら指一本だって動かさないつってたっけ。
あれ比喩とかじゃなかったんだな。
「まぁ、中央十騎士の盲信をあまり責めてやるな。あれはただ、今はそういう存在になっているだけだ」
「んー……」
「それに、アレらも苦労していない訳ではない。【天季盤】を維持しているのはあれら自身の力を消費してのことだし、【永久時計】の機構の一部として生きるのもけっして楽な事では無い」
「だからこそ」、とデュランは何でか苦い感じの笑みを浮かべて大きな振り子を見上げる。
「こんなどうでも良いことに、わざわざ力を割くことは無いのだがな……」
「いやいや、どう考えてもどうでもよくないだろ。全国のお百姓さんと海の男と、明日雨になれと願ってる運動会直前のお子様に謝れ」
「すまなかった」
素直でよろしい。
「で? 話は戻るけど、上がどうしたって?」
「これから上がる」
「人殺し! 人殺し! 冷血漢! サド!」
「……待て、なんだその反応は」
オレはびしっと延々と続いてる地獄の螺旋階段を指さす。
「オレに登れるわけねぇだろうが!」
「まぁ、そうだろうな」
「分かってて言ってんのかこの野郎! 魔界に落ちろ!」
「言われずと落ちるが、俺達が使うのはそれだ」
デュランは上を指してた指をそのまますーっと下ろして、床に描かれたでっかい三つの紋章っぽいものの一つを指さす。
うーん、何か花をこう抽象化したような紋章なのは分かるけど、何の花かは分からない。
五弁の花びらの上にさらに何かこう、ヒラヒラしたのが乗っかってるという……ランっぽいかな。
「あれ何の花をベースにした模様なん?」
「エピデンドラムだ」
「エピ……え?」
「エピデンドラムだ」
「……もう一回」
「エピデンドラムだ」
よし、分かった。
覚えられない。
「ちなみにあっちのは? 何か真中にちっちゃい梅の花みたいのがくっつてて……何かああ言う感じの斑入りのミントなかったっけ?」
「あれは薄荷ではなく初雪草だな。庭にもあるぞ」
「へー、気付かなかった」
これは覚えた。初雪草ね。うん。後で探そう。
「で、あ、あれは何か見たことある」
「何か分かるか?」
「えーと……えーっとね。ちょっと待って」
しばらくじっくり考えて、オレはポンと手を打つ。
「うん! 分からん!」
「マリーゴールドだ」
「あ、そういうんだ……で、名前何だっけ? もっかい言って?」
「後でメモを作ってやろう」
何か諦めたっぽいデュランが疲れたようにそう言ってくれた。
うん、まあその方が忘れないけどね。
「で、あれが何?」
「まぁエレベーターのようなものだ。あの上に乗るとベクトル展開によって目的地まで運ばれる」
「移動?」
「移動だな」
「目的地ってどこ?」
「お前達が言うところの双神子様の部屋の前に通じている」
「……へ?」
「出来るなら会ってみたいと言ってただろう」
いや、言ったけど……もう会っちゃったと言いますかですね。
「とりあえずあの恐ろしい階段は登らなくて良いんだ」
「あれは別の所への道だしな……お前にあれを登らせる気は元から無い」
なぁんだ、びっくりした。
じゃあ疑問も解決したところでちゃっちゃか参りましょう。
双神子様待たせるのは多分良くないし、せっかく会えるなら……あれ、でもあんまり会いたくないかも? ほら、さっき猛ダッシュで逃げたばっかりと言いますかですねごにょごにょ。
とか考えてたら、むんずっと襟首をひっつかまれた。
「はい?」
「さて、誤解が解けたところで先程の言葉の訂正を貰おうか」
「へ?」
「誰が人殺しで冷血漢でサドだって?」
今オレを捕獲して目だけ笑って無い笑顔を向けてる貴方は充分サドだと思うんですが、どうなんでしょう?
【作者後記】
出てきた三つの植物はどれも実在するものです。
それぞれ一応意味があります。
さて、今晩は尋でございます。
初めての方もリピーターな方も迷子の方もようこそいらっしゃいました。
少しでも笑ったり、楽しんだりして頂けたなら本望です。
さて。
ナカバ、再び双神子様とご対面ということで……次回ご期待頂ければ嬉しいです。
作者拝




