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急所一蹴とオレ

「おー」


 アイスクリームがいっぱいある。

 さすがどんな注文でも引き受けます、三百六十日違う種類が食べられますってのがウリなだけあるな。


「てか、大理石でどーこーの方じゃなくて良かった訳?」

「トッピングは邪道です」

「……ってこの子が言うから」

「そ、そか」


 ヴィーたん、偶に変なこだわりあるからなぁ。そこが可愛いんだけどさ。

 ま、オレはこっちで大満足だから良いんですけど。


「折角だからダブルで頼もうぜ、サイフはあいつだし」

「おい」

「何だよ、踏み倒し」

「まだ踏み倒して無いだろ」

「まだって事はその予定ありってことか?」

「いやそう言う訳じゃ……」

「お前さあ、折角美少女二人に感謝される場面なんだから、ここはどーんと構えてババーンと奢っとけよ」


 大体アイスの単価なんざたかがしれてんじゃん。

 後ろでぶつぶついってるアドルフを黙らせて、オレ達はメニュー表を見る。


「私、このマルガリータにしようかしら」


 トマトにチーズピースいりのアイスクリームですか。さすがリムりん。


「ナカちゃんは?」

「んー、ラムレーズンのレーズン抜きで」


 後ろで盛大に噴き出す音がした。

 じろっと振り返って睨むとアドルフがさっと視線を逸らした。……ほほぅ。やる気かテメエ。

 良いだろう、私に刃向った事を地獄で後悔するが良い。

 オレはつかつかと歩み寄り、奴の急所へ一撃くれてやった。


「!!!!!!!!」


 ふっ、ざまぁみろ。

 ん?

 何で他の男性店員と顔客が青ざめた顔でオレを見ているんだ?

 前屈みだし……アドルフに同情的視線を送ってる人も居る。


むごい事を」


 デュランまで苦笑いしている。

 え? 普通に有効打じゃね? ちょっと足にぐにゃ、見たいな感じがしてキモイが。

 オレは玄関の泥拭きマットで足の裏をゴシゴシしながら首を傾げる。


「確かに有効だが、有効すぎるのも考えものだぞ?」

「えー? 何でさ」

「内臓を直に傷つけられたも同然の痛みだからな」


 うーん、予想以上に痛そうな感じだった。

 向こうの方で静かに悶絶しているアドルフを見てオレは三ミクロンほど反省する。

 後でお詫びしにいっとこっと。

 その前に一発殴るけど。


「ま、サイフの事はひとまずほっとくとして……デュラン、お前何か食べねぇの?」

「俺か? そうだな」


 アイスもとろけるような熱視線を送ってきてる店員の皆さんの方を見ないようにしながら、デュランが顎に手を添えて呟く。


「お前を見習ってミントアイスのミント抜きでも頼むか……」

「いや物理的に無理だから」


 お前のそれはただのいじめだろ。やるならセシェン君だけにしなさい。

 

「真面目にやりなさい」


 ちなみにオレの注文は大マジに大真面目だ。

 レーズンあんまり好きじゃないんだ。ラムレーズン味は好きなんだけど。


「ではコーヒーで」

「やっぱりか」

「別段構わんだろう?」

「構わないけどさ。お前徹底してるよなー」


 店員さんがレーズンの入ってない所だけせっせとくりぬいてくれてる間に、オレはもう一つ別で注文を済ませ、先に出来上がったそれを持って未だうずくまってるアドルフの所に行った。

 ぺしぺしと肩を叩いたら、振り返った奴が涙目で睨んできた。

 えー、そんなに酷い事したのかオレ?


「よぉ、アポロ。無事じゃないよね?」

「アドルフだ……無事に見えるかコレが……」

「や、ちっとも」


 何故か目つきが更に険しくなった。

 いや、まぁ分かってやってるんだけどさ。


「うん、半分くらいはオレが悪かったからはい、お詫び」

「はぁ?」

「ほれ、アイス」


 苺とチョコレートのダブルを差し出してオレは言う。


「ちゃんと上が苺で下がチョコ。ほら、ばっちりアポロな組み合わせ」

「……。ま、貰っとく」


 オレからコーンを受け取って、アドルフは「はー」と溜息を吐く。


「お前って変な奴だな」

「まじで? ありがと!」


 やった。


「……って今の会話の何処に喜ぶ要素があったんだ?」

「え? だって変わり者って面白いじゃん」


 変わり者って言葉はオレには誉め言葉です。


「……。そうか」

「うん。アポロも割と面白い感じ。ぐっじょぶ」

「アドルフだっつーの……まったく。お前はいつ」

「あ、オレのアイス出来たっぽい」

「……分かった、取って来いよ」


 言われんでも行きますよ。

 オレは綺麗なお姉さんからアイスを受け取り、戻ってくる。

 店員さんの努力の結晶は微妙に不格好だったが、それでもここまでやってのけたプロ根性には拍手を送りたい。

 えらいぞ、店員。これぞカスタマーズサ……何だっけ。カスタマーズサクリファイス? まぁいいや。

 オレはラムレーズン(レーズン抜き)の二段重ねをさっそくいただく。

 うーん、幸せだー!


「……。お前、本当に美味そうに食べるよな」

「だって美味いもん」

「ふーん……」

「まぁ、そのこだわりをどっかの誰かは鼻で笑い飛ばしやがりましたが」

「うっ」

「オレの味の好みと店員さんのプロ根性をどっかの誰かは鼻で笑い飛ばしやがりましたが」

「い、いや……」

「大事な事なので二度言いました」

「……その、すまん」


 分かればよろしい。


「しかし、それで蹴るか?」

「蹴ったら痛そうじゃん」

「……確かに痛かったけどな」


 死ぬかと、いや死んだ方がマシかと思ったと顔を青ざめさせるアドルフ。

 うーん、そこまで痛いのか。


「ちびっこは元気なのが一番だけど、良く考えて行動しろよ」

「はぁ……」

「後もうちょっと素直な方が可愛いぞ」

「や、可愛さは自分に求めてないんで」

「変に大人になろうとなんてまだしなくて良いんだぞ。そのうち嫌でもなるんだからな。子供のうちは俺とか、一緒に来てるお姉さん達とか、年上に素直に甘えておけよ」

「うーん……」

「それとも、もう誰か守ってあげたい女の子でも居るのか?」


 ニヤリ、と笑うアドルフにオレはちょっと考えてから頷く。

 まぁ、リムりんもヴィーたんも、オレなんかよりずっと強いんだけどさ。人間的にも、実力的にも。

 でも、だからって弱い事に甘えてちゃいかんと思うのですよ。

 特に、長く一緒に居たいなら。重石でばっかりは居られない。


「あの子たちか」


 オレの視線の先を見てアドルフが呟く。


「ま、大事な人とか守りたい人が沢山居るってのは悪くはないよな。俺もファミリーの連中は大事だしさ……って、まだこの話はお前には早いか。もうちょっと大きくなってからだな」


 ……。

 いったい何歳だと思われてるんですかね、オレ。

 えーと、身長一四一センチメートルってどの年代の平均身長なんだろか?

 確かこの前、十一歳男子の平均で一四五ぐらいあるって話を聞いたような。

 ……。


「オレ、一応十四歳なんですけどね」

「ぶはっ」


 コラ。


「あー、そっか。そりゃ悪かったな。ま、もうちょっとしたらぐっと伸び出すんじゃないか? 百八十ぐらい直ぐに届くさ」


 苺アイスを齧りながら、何故か慰める風の感じで言うアドルフ。

 嫌でもさすがに百八十は無いと思う……それってデュランの高さだろ?


「そっかぁ、十四か。てっきりうちのチビどもぐらいの年かと思ってたんだけどな……ん、って事はあのお嬢さん方とも同じくらいか」

「うん、クラスメイト」

「ふーん……で、どっちが本命だ?」


 はい?


「ん? そう言う旅行じゃないのか?」


 あー……まぁ、同級生だって事が分かったらそう言う方向の発想はまぁ無くはねぇよな。

 ある意味自然だ。


「や、別にどっちがどうってわけじゃねぇんだけどさ……」

「ん?」

「今回のはデュランがメインでさ。で、オレとデュランが知り合いだから一緒に行くって話になったら、あの二人も行きたいって言い出してさ……」


 嘘は言って無い。


「はー……ま、ボスはアレだもんな」

「アレだよなぁ」


 向こうでコーヒー味のアイスを受け取ると同時に何やら囲まれて凄い事になってるデュランを見つめ、オレとアドルフは同時に溜息をついたのだった。


 

【作者後記】

おそくなりやしたー!

あと、皆さんナカバのように冗談で急所蹴っちゃだめですよ。

それと護身術としては足の甲でもヒールで踏み抜く方がよいです。実際急所を狙うと太ももが邪魔になりますし、相当しっかり足上げないとだめですから。


どうも、尋です。

ご来訪ありがとうございます。

拍手ありがとうございます。

お気に入り登録95人目様いらっしゃいませ。

ご感想ありがとうございます。


あっつい日が続いておりますが、皆様くれぐれも水分補給だけには気を付けてお過ごしくださいませ。


作者拝

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