誘惑魔王とオレ
傷心の後は旨いもんを食うに限る。
お陰でここ二年間、オレのポンデ購入率はアップしてるんだが……偶にはアイスってのも良いな。
そんな事を考えながらオレは、「あ、そうだ」と呟く。
アドルフはえーっと……携帯で話し中か。丁度良いや。
「なあ、おい」
ぐいぐいっとデュランの袖を引っ張ると、「どうした?」とオレの方を紫色の瞳が見下ろした。
その双眸が面白そうに笑ってるのを見て、疑問が確信に変わる。
「詐欺師かてめぇは。ハンマ○セッションするぞコラ」
「くっ……ふふふ、お前はだから面白い」
「こちとらちっとも面白かねぇんだよ、この大嘘吐き。何が奇遇だな、だ。お前の舌はミルフィーユか」
「甘言を弄したつもりはないのだがな」
「お前みたいなのをスイーツ(笑)っつーんだよ」
んにゃろうめ。
前に何処かで言った気がするが、オレは非力な美少女が襲われてる所にカッコ良く登場するキザな美形って奴が一番嫌いだった。いかにもテメェ、出番待って何処かで隠れてただろうこのストーカー野郎、って感じがウザさ倍増でさぁ……。
が、上には上がいた。や、この場合下か?
つまり、見て見ぬふりしたうえで、美味しい場面だけかっさらいやがったんだよこの魔王様。
奇遇?
待っていたぞ勇者よ、の間違いだろ。
肘鉄しようとしたオレをあっさり回避しつつ、デュランは肩を竦める。
「何だ、どうにかして欲しかったのか?」
「え? うーん……いや、微妙」
助けて欲しいとかは別に思ってなかった。てか、期待してなかった。
だってデュラン関係ねぇもんよ。
アレはオレのプライベートな問題。
解決しない事で不利益を被るのはオレだけ。
だから他人の助けは当てにしてないし、当てにしちゃならんと思う。
デュランの力なんてそれこそ、論外だ。
本当は、あっちのイチゴ頭に助けられた時だってオレは感謝はしてたけど……けど、半分不思議と言うか落ちつかなかった。
何で余計な事に首突っ込んでんだ、って。
何でアンタがオレを助けるんだ、って。
意味が、分からない。
彼らは意味も無く他人を助ける。助けられる。気まぐれで出来る。
それが、手を差し伸べられた相手にどんな気持ちを抱かせるかなんて考えもしないで。
オレは前の方で携帯で何か話してるアドルフの背中を見る。
助かった。助けられた。その事が少しだけ、苦しい。
自分の非力さなんて、この十四年で嫌ってほど思い知ったけど、さ。
「まぁ、そうだな……お前が望むなら手を貸さんでもないぞ」
デュランがこともなげに言って、紫の眼でオレを見下ろす。
デュランの眼は冷たい宝石みたいだ。
奴の顔はどれもこれも整い過ぎてて、オレにとっちゃ納豆レベルで苦手の塊なんだがこの目だけは不思議とそんなに苦手意識を刺激されない。
ま、紫の眼なんてどこの漫画だよとは思うけどな。
「手って?」
「例えば、あの男の存在を削る、とか」
デュランの唇が三日月の形に歪む。魔王スマイル。
「え? 言ってる意味が分からん」
「もしくは、あの男の中からお前の存在を削り取る、とか」
「んん?」
えーっと、翻訳こんにゃ○プリーズ。
「つまり、あの男からお前への興味が一切消えると言う事だ……関心も、存在も、一切がゼロになる」
私ならば――の構造ごとき、その程度の事は容易い。
デュランの声が静かに凄みを帯びる。
うん、それは……何と言うか、ちょっと、いや、けっこう、かなり、助かる、心動かされる誘惑だった。
確かに魅力的な提案だ。
あのうっとうしいストーカー・べすと・おぶ・情けない馬鹿王子がオレに無関心になる。
随分理想的だ。
とっても良い話だ。
や、別に最初はオレだって先輩の事は別に嫌いとかでは無かったんだ。
てかどうでも良かった。興味ナッシング。好悪の対象外。まあ、どうしようもねぇ奴だなこいつ最悪ぐらいは思ってたけどさ。
まぁ、そんなんで話を適当に相槌打って聞き流してたら、気が付いたらストーカーになってた。
いや、オレだって訳分からんって。何でそうなるってオレが言いたい。
けど、そっからがさらに笑い話。
一日に十通以上意味不明で、しかも変態なメールが来る毎日。
例を上げると「その服胸見えそうだね(制服ですが何か)」「君の体をマッサージしたい(テメェの脳みそでも揉んでろ)」「僕の背後霊について(って知るかぁっ!!)」。
そんな奴が食堂にまでくっついてきてじーっとひたすらいやーんな目つきでこっちを見てくる。
そのせいで碌に落ちついて食事もできやしねぇ。
行きに待ち伏せられ、帰りに待ち受けられ、周りからのガビガビ視線の中あの馬鹿王子と喋らにゃならん毎日。
何この笑えないコメディ。
ま、お陰さまでオレの体重はガクッと減ってスリムになれたけどさ。絶対に一緒に身長に回るはずだった栄養も消えてる。
ちくしょう。返せオレの身長。
うん、まぁ身長の話は取り返しがつかないから一先ず置いといて……奴の迷惑行動。それが一瞬で無くなるかもしれないってのは良い話だ。
奴らがオレに絡んでくるのは、しつこくストーキングしてくるのは興味故なんだから。
「どうする、ナカバ」
デュランの目が俺を見てる。
笑っているような声が、この距離にいるオレだけに聞こえるように囁かれている。
デュランは頼み相手としては都合が良い。
能力はチートだし、人間じゃないから変なしがらみも無い。
何より動機がシンプルだから見返りが軽い。
デュランは面白いってな理由だけでそれをやってのける。それ以上に何も求めない。多くを持ちすぎて、欲しいものがない。
だから、力を借りる相手としてこんだけ都合が良い奴はいない。
居ない、んだけど……。
「や、良い」
「ふむ、そうか?」
「うん」
何か、利用するっぽくて、卑怯な気がする。
それに、我がまま大魔王のアンタがそんな苦しいのに無理矢理笑ってるみたいな顔して言うような事、オレさせらんねぇよ。
そんなのどっちにしたって苦しいだけだ。そんなら。
「ま、うん、要らん要らん」
「ふふ、そうか」
しっしっと手を振って前を向いたオレに、デュランは「そうか」といつもみたいに愉快そうに、楽しそうに笑った。
オレの意地の張りっぷりに呆れただけかもしれなかった。
【作者後記】
手紙の下りは某方の体験談よりお借りしてます(掲載許可取り付け済み)。
どうも、話より実物の方が酷いってどんなオチですかと思う尋です今晩は。
ご来訪下さった皆様、ありがとうございます。
拍手ポチポチして下さってる皆様、恐れ入ります。
リクエストマダー?と思ってるそこの貴方……え、えーと、もう少しお待ち下さい(滝汗
取り敢えず土日に1本ずつのペースで本編上げていきますので、また明日お会いしましょう。
作者拝




