野菜飲料とオレ
「なっさけねー……」
ダウンしたせいでオレは現在コンパートメントでお休み中です。
つまらねーし、なっさけねーし、マジでブルーだ。
ゴロゴロと一人で占領してる二人掛けの座席の上でオレは転がる。
デュラン達は隣でまだ作業中らしいし、リムりんとヴィーたんはオレが具合が悪いからって何か探してきてくれるんだそうな。
鍵かけてまで行くこともねぇ気がすんだけど、ま、あの二人過保護だしなぁ。
簡単な事でダウンするオレがいけないんだけどさ。
ま、向こうに着いた時にぶっ倒れてるってのも意味ねぇから、今休む事にゃ賛成なんだけどさ。
あー、暇だ。
ひまー、ひまーと座席の上でゴロゴロしてると、ガチャンと唐突にドアの方で音がした。
へ?
「何でカギ閉めてるんだ、お前?」
ガラガラーっとドアが開いてアドルフが何故か入ってきた。
「ってカギ意味ねぇっ!」
思わず起き上がって突っ込んでしまった。
ついでにタチクラミ。へにゃーっと逆戻り。
「お、おい……大丈夫か?」
「うぁー……」
「寝てたのか。悪かったな」
「てか、今カギぶっ壊しちゃねぇだろうなテメェ……」
「いや、ピンで解錠しただけだって。勝手に壊したりなんかしないぞ」
それはそれで大問題のような。
「とにかく寝てろ。何か飲むか?」
「うーん……や、良い。てか何しに来たんだ? えーと……」
ピンクの頭を見てオレは「あ、そうそう」と寝っ転がったまま手を打つ。
「DDDのアポ○」
「アドルフ。俺は明○製菓の定番チョコレートじゃない」
それぐらい知ってるに決まってるだろう。
だけどその反応からすると他からも言われた事があると見た。
キラーン、とオレは目を光らせる。
「な、何だよ……」
「や、別に」
けっしてからかいポイント発見とか思ってませんよ? 嘘だけど。
「で、何しに来たんだよアポロ」
「アドルフ。俺も休憩しに来たんだよ」
ちらっと隣のコンパートメントの方にピンク色の眼を向けるアドルフ。
デュランがまだ戻ってこないって事は作業中なんだろう。多分。
まぁ、向こうでゆっくりコーヒーで一杯、とかやってるのかもしれないが。……あり得る。
「魔力がそろそろ半分になるからな。回復回復……何か食べるもん余ってないか?」
「んー?」
あらかたオレが食いつくしてますけど。
オレはリュックをがさがさやって、源氏パ○を取りだす。
「ほい」
「お、お前甘党か」
「要らんやったら食うな」
「いや、俺も甘党だからさ。助かる」
「ちっ……」
「……何故そこで舌打ちが来る」
「分け前が減る」
「あー、じゃあ今度何か奢るから今は勘弁してくれ」
やりぃ。じゃ、分けてやろう。
オレから源○パイを受け取って、アドルフは一口で「あーん」と食いやがった。
うわ、でっけぇ口してんなぁオイ。
「どうしてアドルフの口はそんなにでっかいんだ?」
「赤ずきんを食べる為、じゃないな」
なかなかグッドな切り返しだ。
オレは親指をグッと立てる。奴もグッと立てる。
友情(仮)が成立した。
「でー、デュランまだあの変なのやってんのか?」
「あぁ、休まずやってる。凄い精神力だよな」
向かいの椅子にどっかと腰をおろして、アドルフがふーと溜息を吐く。
「魔法ってやっぱり精神力とか集中力要るんだ」
「お前やったことないか?」
「ないない。あり得ない」
「へー……便利だぞ?」
「なくても生きてけるし」
「ま、そりゃそうだ」
ハハッと笑って、「確かになぁ」と妙に感心した風に頷くアドルフ。
そんなに感心する事だろうか?
「あー、だる。やっぱ一気に消耗するとくるな……」
「魔力って抜けると疲れる?」
「疲れる疲れる。大量出血したみたいな感じになるな」
「いやいや、そんな経験ねぇから」
「あ、そうか。どう説明したもんかな……」
「まぁ、抜けると疲れるんだな」
「そうそう。俺なんかは回復特化だから割と楽なんだけどな」
「おお、生白魔術師」
「そりゃゲームだろ。大体治癒魔術と回復特化は別物なんだよ」
苦笑いするアドルフ。
「何が違うって?」
「俺は自然回復能力が高いんだよ。へばってもすぐ直るって奴。便利だぞ」
「うわー、良いなー。八割よこせ」
「渡しすぎだろ」
ですよねー。
「ま、こればっかりは生まれつきだからな」
「ま、オレのも生まれつきだしなー」
「ボスのあれも生まれつきだとしたら大したもんだな」
「何が?」
「魔法の行使だよ。足が無い魚が二足歩行を覚えようとするみたいなもんだからな。生まれつき無いはずの物を使って、流れを制御して、利用する。相当訓練しないと出来ない事だぞ」
やっぱあの人ただモンじゃないな、とかアドルフは言ってるけどオレにはちんぷんかんぷんだった。
「要は、デュランは存在が反則だと」
「ま、まぁそう言う表現も間違いじゃないけどさ。何者なんだろうな」
「魔王だろ」
「ははっ、そりゃ行き過ぎだろ。あの顔だとどっちかっつーとニケだな」
「ミケ?」
「それじゃ猫だろ。ニケ。勝利の女神だ」
「はぁ……」
実物は魔界の暴君、帝王ですが。
お前デュランに夢見過ぎてねぇか?
「ま、自分で考えれば? オレに鎌かけてもオレも何も知らんし」
「……ばれてたか」
「ばれらいでか」
バラライカ。いや関係ねぇな。
「休憩なら他でも出来るだろうし、カギかかってんのにわざわざ入って来たって事は他に目的考えらんねぇじゃん」
「あー……」
「本当は留守中にゴミあさりしたかったんだろうけど、オレの前じゃ無理だから雑談……な感じか?」
「降参」
ホールドアップするアドルフ。
「お前もそこまで分かってて良く相手するな」
「え? だって隣デュランだぜ? 雇い主にクビっつわれたらあんたら一巻の終わりだろ?」
「……それにしても度胸あるな。声も上がらないうちに終わるとか、人には言えない事で口割らされるとか考えなかったのか?」
「その時はその時で反撃する」
「はー……お前小さ」
ていっ。
「ぐあ、オレのシャツがトマトジュース色に!」
「し、か、え、し」
「しかも何か台詞が軽くむかつくっ?!」
ニヤリッ。
「お前、調子に乗ってると後で痛い目見るぞ……」
「後でおごってくれるんだよな?」
「……」
「良いぞ、好きなだけどーんと奢りたまえ。許してつかわそうではないか」
「数秒前の俺を止めてやりたい」
「何だよ、食の恩人に対して」
てか既に数秒以上経過してるからな。
「ちょっと来い」
「ん?」
呼ばれたので近寄ってみた。
わしっ。
頭を掴まれた。
「お前はちょっとは反省しろー」
ぎゃー、こめかみー!
なんのっ、くらえトマトジュース!
「おまっ!」
「ぎゃーすぎゃーす! トマト色に染まれアポロ!」
「アドルフだつってんだろ! このこのこのっ!」
「……何やってるのかしら?」
ん?
吹雪のような声に振り返ると、リムりん達が入口のところに立ってた。
それを見てオレはアドルフを指し、
「こいつが襲ってきた」
「なっ、それはお前も」
「……こ、の、ケダモノ!!」
「馬鹿、こんな所で剣抜くなー! 話を聞け! 話をっ! うわぁっ!」
ざまあみろ。
【作者後記】
書きたい事があるのに、キャラ同士の会話があっさりわき道にそれてなかなか本題に入らないというこの現状。
しかし掛け合いやってる時がナカバは一番楽しそうなので「まぁ良いか」と放置してます。
どうも、放任主義の尋です。
ご来訪ありがとうございます。
拍手ありがとうございます。
お気に入り登録84人目ありがとうございます。
皆様のお陰で何とかやってます。
まだ前半すら終わってない状況ですが、宜しければお付き合いくださいませ。
作者拝