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三日目朝とオレ(後)

「はえ?」


 後ろからいきなり声を掛けられて、ビクッてなって振り返るとピンクな生き物がいた。

 てゆうか、ピンク色の髪にピンク色の目の知らん男が居た。

 ぱっと見た感じちと濃いが、某少年アイドルグループに出て来るか、特撮戦隊物の赤い人をやってそうな顔だ。そして背が高い。ついでに足も長い。


 よーし、つまりオレの嫌いなイケメソ様でございますね。敵認定。


 何も目と心に悪い物なんて見ませんでしたよ。それよりミレイって素敵だよね、という感じで華麗にスルーして元の体勢に戻るオレ。

 いや、三秒以上凝視しちゃったけど、スルーってことで。

 何も見てない。見えてない。


「おーい」

「……」

「無視するなよ……」

「……」

「マサキ」


 ……ちっ、しつこい奴め。

 オレは渋々振り返って、なるべく顔を見ないように目を逸らしながら嫌々返事する。


「……はぁ、どちらさまでしょうか」

「はぁ?」


 至極まっとうな反応をしたはずなのに、相手は何故か嫌そうな顔をしてこっちを見てる。


「何だよ。俺だよ俺」

「うちには妊婦さんをはねて賠償金払わなきゃならないなんて泣いてる知り合いはいません。てか自分でそれぐらい払って下さい。ついでに言うと会社の金着服出来るような知り合いもいません。誰も会社に勤めてません。それから、お金が返って来るから振り込めと言われても、金払ってる相手は近所のスーパーぐらいなので人違いです。さようなら」

「……何言ってるんだか良く分からないんだが、冗談なんだよな? マサキ」


 ……ええっと。

 え? オレオレ詐欺でも無いのか?


「本気で人探し中ですか? もしかして。イケメンなのに」

「イケメ……あー、いや、探し中って言うかお前を探してたんだけどな」


 何で照れてるんですか。ああ、世間一般じゃあイケメンは誉め言葉だっけか? オレは違うけど。

 てか、オレを探してたと言われましても……こっちはそちらに覚えが無いんですが。


「どなたかとお間違えでは?」


 オレとタメ張るぐらい目つき悪いガキが世の中にまだ居るのかとも思いますが。


「……マサキだろう?」

「……不本意ながら」

「ったく……その言い回しも、態度も、間違えられるかよ」

「はぁ……で、どちら様ですか?」

「……もしかして本気で俺は忘れ去られてるのか? いや、嘘だろ? 昨日の夜会ったばっかだろ?」

「えーと?」


 首を捻ったオレに頭を抱えるピンクなにーちゃん。

 しかし、この配色どっかで見たような……うん、あれだ。お菓子のアポ○チョコですね。よし、アポロと呼ぼう。


「で、アポロさん」

「覚えてるじゃねぇか!」

「いや、知りませんけど……」

「……。じゃあ今のは何だ」

「いやぁ、何か見てたらお腹すいて来て……冗談ですよ?」


 そんな青ざめて後ろに下がらんでも。

 取って食いやしませんよ。イケメンなんて食ったら腹壊しそうじゃん。


「分かった。そう言えばそういう奴だよな……」

「しつこいようですけど人違いじゃないですか?」

「違う」


 うーん……。


「どこでお会いしましたっけ?」

「……」


 いや、そんな溜息吐かれても。

 てかさっきから見下されてるんですけど。足長いんですけど。チッ、呪われろこのイケメンアポロ。

 そこまで呪ってからオレはふっとそいつが誰だか思い出した。


「あれ? ……アサギで来た時に居た人か」

「そこからか」


 えー、何その反応。こっちが足りてない記憶容量ひっくり返して探してやったのに。


「ま、良いか……完全忘却じゃなかっただけマシか」

「で、そのDDDの人が何か御用でしょうか?」

「え? あ、いや……」

「……」


 ごく普通のことを聞いたのに、何故にそこできょどるのでしょうか。

 何ちらちら視線逸らして見てんの?

 挙動不審だし、邪魔だから駅員さんに通報しちゃおっかな。


「あのー、ここに危ない人」

「待て待て、落ちつけ。通報するな。通報するな」

「うっさいアポロ邪魔。触んな、チョコがうつる」

「……」

「で?」

「……」


 何か深々と溜息を吐いてから、またアポロ(仮名)はちらっとオレの斜め後ろを確認する。

 だから何見てんのさ。


「で? 次言わなかったら帰って下さい」

「お前本当に容赦ないな……あー、なんだ。今日帰るのか」

「見ての通りですが」


 や、見ても分からんか。

 荷物なしで駅にゴロゴロしにだけ来てる人も居るかも知れんし。

 オレの言葉にアポロ(仮名)はまたちらっとオレの斜め後ろを見る。

 そっちにはアサギが停車中のはずだけど……。


「もう一日ぐらい残って、就任式見て行かないのか?」

「行かない」

「……そうか。結構面白いと思うんだけどな」

「いや、もう滞在ビザ切れますから。それに帰って宿題やんなきゃならんし」


 勉強しなきゃいけないことも増えたし、勉強したい理由も出来たし。


「……お前、学生だったのか」

「そうですけど?」


 何だと思ってたんだ。

 まさか、就学前のガキだと思ってたんじゃねぇだろうな。そうならタマ蹴り潰すぞ。本気で。全力で。

 ぎらっと目を光らせたオレに危険を察知したのか、アポロ(仮)が一歩下がった。

 チッ、運の良い奴め。


「まぁ、じゃあしょうがないか……」


 またどっかをチラ見しつつ言うアポロ。

 んー? 本当に何見てるんだろう。


「なぁ、マサキ」

「はぁ、何でしょうか」


 というか、何故にそんなに親しげに呼ばれにゃあならんのでしょうか。

 まぁ、初対面からやたらフレンドリーとか、そういう人も世の中居るけどさ。


「今度、会いに行って良いか」


 ……はい?


「何で?」


 意味が分からないので直球で打ち返してみました。

 あれ、アポロ○ョコがただの苺チョコに。

 ……ほむ。


 オレはそろーっと視線を横にずらしてさっきからアポロ(って名前でもう良いよね)の見てた辺りを確認する。

 そこには、綺麗な金色の髪を風になびかせて、こちらを心配そうに見ている絶世の美少女の姿がありました。

 ほほぅ。リムりんですか。

 オレは改めて目の前の苺チョコを見上げ、思わずニマニマする。


「な……何だよ急に」

「いいえー、別にー?」


 はいはい、そーゆーことですか。成程ね。

 オレはようやくここでこの相手の目的を把握して納得する。

 リムりんかぁ……確かにあの愛らしい美少女フェイス、金色のふわふわの天使な見た目、おまけに才女で努力家で、声もむっちゃ可愛くて、しかもぼいーんと見事なEカップのお胸様ですからね。

 リムりんを選んだこいつはそういう意味じゃ、見る目がある。うん。

 リムりんイイよ。可愛いよ。無茶苦茶もてるんですよ。

 実際、リムりん目当てのこう言う奴がオレの所に絡んでくるのはこれが初めてって話でも無いしね。

 リムりん攻略には正面から本人に行けよとは思うけど、お嬢様のリムりんには近づくことがまず難しいんだなぁ。黒服さん、今回は居ないけど普段はついてるし。 

 そうすると、絡め手からーとちょっと頭が回る奴は思う訳で、いわゆる「友達の友達はお友達だよね?」作戦って奴だ。

 でもリムりんの友達というのは基本的に皆さまリムりんと同じお嬢様ばっかりなので、こっちも関わるのは難しい。

 そうやって消去法で残るのが一応一般庶民のヴィーたんと、どこまでも一般庶民のオレなんだが……まぁ、ヴィーたんは超優等生。庶民の星。ファンクラブまであって名前も良く知れてる子。

 一方のオレはしがない公務員の子で、ついでにみそっかす。

 オレの方が楽な攻略ルートに見えるらしくて、リムりん目当てのヤローどもにはちょくちょく絡まれるのですよ。

 ……で、こいつもその同類ですか。

 ふーん。

 そうですか。

 成程。


 ……良い度胸じゃねぇかよ、面白い。


「良いですよ」


 愛想笑いで答えたオレに、相手が一瞬「へ?」と間抜けヅラしてそれからすぐに笑顔になる。


「本当か?」

「構いませんけど、オレ学生ですから」

「ああ、そっちの邪魔はしねぇよ」


 ふむ、ここはまともに受け答えしたな……まぁ実際どう動くのかはこれから見極めさせていただきますが。

 ちなみに、参考までに言うとオレルートでリムりんに接触しようとした人たちの成功率、今のところゼロです。

 あの程度のことでへこたれるような根性ない男にオレの大事なリムりんは渡さん。


「で、他にはもう良いですか?」

「ああ、じゃあ連絡先を」

「携帯の電池が切れて居るので分かりません。無理です」

「……充電池なら」

「機種が古すぎるので無理だと思います」

「何年前のだ?」

「二十四、五年前ですが」


 流石に相手が沈黙した。

 どうだ、これなら持っているまい。ちなみに嘘じゃなくてこれは本当の話。


「……分かった、その辺りは後で調べる」

「さいですか」


 ちなみに我が家の住所、連絡先は一切公にしていませんけどね。

 親は公務員だから、勤め先に行けば見かけるかも知れんけど。


「で、他にはもう良いですか? そろそろ乗らないと列車出ちゃうんで行きたいんですけど」

「あぁ、そりゃ悪かったな」


 ちらっとリムりんを見て言うチョコ男。

 せめてそれぐらいちゃんとこっち見て謝れ。マイナス八千点。

 一万になったらさようならです。せいぜい頑張って下さい。

 オレはベンチから立ち上がる。

 戻らないと。


「じゃ」

「あぁ、またな」

「……。ん」


 列車のドアを開けて中に入って、オレは振り返って笑う。


「ばいばい」


 ドアが閉まる。列車がゆっくり動きだす。ギリギリセーフだったらしい。

 向こう側で「マサキ」と呼ぶ声がした気がするけれど、別に特に注意する必要も感じなかったのでオレは客室の方へと歩き出す。

 列車に乗ってる間に二人にセントラルのお土産を渡さなきゃならないんだ。

 ヴィーたんには普段使ってるのとはちょっと違うけど、珍しい形をしたナイフを買ってある。

 リムりんにはお高めのコーヒー屋さんで買ったコーヒーの瓶がある……何でインスタントにしちゃったのかは自分でも謎チョイスだけど。まぁ、良いか。

 戻ろう。

 うん、オレの側の世界に戻らなきゃ。



 最後に一度だけ振り返ったオレの視界の端に【内苑】の黒い塔の先端が一瞬見えて、すぐに消えて行った。



 

【作者後記】

今晩は、皆様。

おいでいただき、誠にありがとうございます。


長らく続けてまいりました観光旅行も、これにて完結です。

作中日数にして僅か四日間なのに話数が百越えという、進まないにも程がある話でしたが、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

閲覧のみの方にも、拍手をぽちっとして下さった方にも、コメントを下さった方にも、感想をご記入下さった方にも。関わって下さった全ての方に深く感謝申し上げます。


感謝の一部として、拍手をなんちゃって人物紹介にしております。宜しければお立ち寄りください。

なお、ラスト含めた本話にかんするごちゃごちゃは作者後記にて後ほどUpいたします。


途中書き直したり、中断したり、後半になって路線変更をしたりと迷走の多かった話を曲がりなりにも形を付けて終えられたのは貴方のお陰です。

ありがとうございました。


作者拝


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