表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された追放聖女は、もふもふ公爵に愛される【コミカライズ決定!】  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/25

13・義兄と国王

「誰だ、お前は」

 クリストフ様の問いかけを無視し、アシルは

「喋った!」と叫んだ。

 そして駆け寄ってくると、彼の体を触りながら

「うわ、本物だ。すごいな、どうやったら魔獣と融合するんだ? 聞いたことがない。魔力の波長があったのか?」

 と、早口でまくしたてる。


「クリストフ様、すみません。彼が義兄のアシル・ルヴィエです」

「……なるほど。常識はなさそうだな」と、呆れ口調のクリストフ様。


「お義兄様!」アシルの腕を引っ張り、触るのをやめさせる。「失礼が過ぎます!」

「ん?」とアシルが私を見た。「ああ、エヴリーヌさん。帰ってきたのか。よかった。彼は呪われたのではないそうだな。僕が送った呪いに関する綴りは早急に返してくれ。十五年かけて集取した、大切なものなんだ」


 アシル、くるりと向きを変えてクリストフ様を見上げる。

「魔獣と融合したときのエピソードを詳しく!」


 な……なんなの。アシルって、こんなにおかしな人だったの?

 まともに会話をしたことがないから、ここまで変だとは知らなかったわ。


「その前にあなたはどうやって、ここに入ったのだ。見張りがいたはずだが」

 クリストフ様が珍しく、優しげではない口調で詰問した。けれどアシルには通じていない。彼はあっけらかんと、

「いくら頼んでも通してくれなかったんで、眠気を誘う魔道具を使ったんだ」と答えた。


 なんてこと。

 クリストフ様と目が合う。完全に呆れている。


「お義兄様」もう一度、彼の腕を引っ張る。「公爵閣下よ。まずは敬語でお話してくださいな」

「そうか。ええと、ということで、詳しく教えてください」

「……ある意味、マイペースなところがそっくりなのか」

『わふん』とため息をつく、クリストフ様。


 アシルが誰に似ているというのかしら。


「ところで伯爵、エヴリーヌ嬢に荷物を送った理由は?」

 クリストフ様が尋ねたけれど、アシルは答えない。

「お義兄様!」

「なんだ?」

「質問されているわ」

「……そうか、伯爵って僕のことか」

『わふん』

 私もため息がこぼれてしまう。ここまでとぼけた人だったなんて!


 アシルは頭をかいて、

「ええと。荷物の理由? かあ……母に泣きつかれたからです。イザベルと王太子がエヴリーヌさんを偽聖女として追放したから、なんとかしてくれって」と答えた。

「お義母様が?」

「そう」と私を見てうなずくアシル。「そんなこと言われても、僕にできることなんてなにもないから執事さんに相談して、それで荷物を送ろうということになったんだ。母さんには、僕に頼むよりイザベルを説得しなよと言ったんだけど」


 アシルが首をかしげる。


「イザベルは『絶対に大丈夫だから心配しないで』と言って取り合ってくれないんだって、泣いてた」

「その自信はどこから来てるんだ」と、クリストフ様。


「エヴリーヌさんがすぐに帰って来られてよかった。お義父さんが天国で心配してしまう」

 アシルはそう言うと、目を輝かせてクリストフ様を見上げた。「では、詳細をお願いします!」

「その前に番兵を起こしてくれ。問題が起きる前に――」


 バタバタと駆けてくる音がして、

「ご無事ですか!? 番兵たちが!!」

 という叫び声とともに近衛兵たちが飛び込んできた。その後ろからは国王陛下が。


 そして陛下はアシルを見て、

「お前か……」

 と、がっくりと肩を落としたのだった。


◇◇


 アシルは陛下に叱られて、しょんぼりしながら(多分、クリストフ様からお話を聞けないことに対して)職場に戻って行った。


 円卓についた陛下は、

「アシル・ルヴィエは魔道具士としては優秀なのだが、それ以外はまったくダメらしくてな」とクリストフ様に説明した。

「そのようですね」と笑いを含んだ口調のクリストフ様。

「私も詳しくは知らないのだが、かなり奇天烈な人間のようだ」


 思わず、力強くうなずく。

 それから陛下は、温室へ来たのは私へ謝罪するためだったと言って、オーバンのしたことを丁寧に謝ってくれた。


 どうやら私が護送馬車に乗せられたあとすぐに、神官長がオーバンに抗議したらしい。でもそのせいで投獄されてしまったとか。ひどい話だ。けど――


「オーバンはどうして、そこまで強気にことを運べたのだろう」とクリストフ様が呟く。

「私も、それが不思議でな」と陛下。

「さきほどの義兄の話ですが」

 私が言いかけると、クリストフ様がうなずいて、

「義妹の自信だろう?」

 と言った。私も『それです』と答える。


 それからクリストフ様がアシルとの先ほどのやり取りを、陛下に説明した。


「彼らの自信に繋がるようななにか(・・・)があったのかもしれませんね」とクリストフ様が言う。

 私もそんな気がする。でも――

「イザベルには聖女の証拠はありません。自信の元はなんなのでしょうか」

「わからぬな」と陛下。「本人に訊くしかあるまい。今のところはこちらの質問にはなにも答えていないようだが」

「兄上。聖女を追放するなど、国の平和と安全を脅かす行為です。厳然たる処罰を与えなければ、王政が揺らぎますよ」

「わかっている」


 陛下は悲し気にそう言って、深く息を吐いた。


 クリストフ様を見上げる。

「私は今回のことでクリストフ様と知り合うことができてたから、幸せです。けれど、それで許してしまうのは、国家元首としてはダメなのですね?」

「そのとおりだ。だがエヴリーヌ嬢が憂うことではないからな」


 クリストフ様がぐっと首を伸ばしてきた。


「ところで頬がかゆいのだが、かいてもらえるかな?」

 お優しいクリストフ様。

 立ち上がり手を伸ばし、やわらかな頬の毛を思い切りもふもふさせてもらった。

 かゆいなんて嘘だと気づきながら。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ