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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:〈上〉〈下〉発売中)  作者: 五十鈴 りく
本編

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41/46

41◇Lucia

 向かうこの先に、ルーシャが立ち向かわなくてはならない問題が待っている。


 祖父はルーシャをどう思うだろう。ルーシャが普通の暮らしを捨てられないと言ったら、顔をしかめやしないか。

 だとしても、正直なところを話そうとルーシャは決めていた。


 ここ、王宮は王と王族のためのもので、国中の粋を集めたもので構成されている。今のルーシャには何も感じ取れないけれど、この木々も石にも降り注ぐ光にも精霊が宿り、女神の子孫である王族を護っているのだ。


 貴族の仲間入りとして儀式を終えればそれが感じられるようになるらしいが、ルーシャが儀式を受けるのかはわからない。このままかもしれない。


 庭園のアーケードを抜けた先に白亜の神殿のような建物があった。


「ここで公爵が待たれている」

「公爵……」


 貴族というだけでも縁遠いのに、その最高峰の人が身内なのだ。

 ロトはここで、ルーシャに心配そうな目を向けてから一人で来た道を引き返した。レーンはこれから公爵に会うせいなのか緊張して見えた。


「さあ、行きましょう」


 ルーシャはうなずき、足が強張って転ばないように気をつけながら進んだ。けれど、少しも冷静ではなかった。


 神殿の中は薄青い床と白い壁、白い柱といった最低限度のもので構成されていた。光に溢れていて、それが夜空のようにとても神聖に見える。


 その神殿の中央付近に二人の人がいた。

 一人は七十ほどの老人、もう一人は二十代半ばの青年だった。

 どちらも明らかに身分のある人だと雰囲気でわかる。


 老人の方が公爵だろう。杖を手にして白いマントを羽織り、銀縁の眼鏡をかけていた。若い頃は逞しかっただろうと思わせる骨の太い体格で、目つきは鋭い。


 青年の方は優美で、気品の塊のようだった。最上級の絹地で仕立てた水色のジュストコールが長めの金髪によく映えている。涼しげな目がこちらに向いていた。


 レーンは二人の姿を見るなり感極まったように震えた。やはり、二人とも雲の上ほどの身分なのだ。


 深々と息を吐き、レーンは立ち止まった。

 ルーシャたちもそれに合わせて足を止める。


「――その娘が、息子の忘れ形見だと?」


 公爵が白い口髭の下から硬い声を出した。その厳しさにルーシャもギクリとする。

 レーンは強張った顔をしていたけれど、鮮明な声で答えた。


「はい」


 そして――。

 トン、と背中を押した。


 ルーシャではなく、ナタリーの。


「ナタリー、行きなさい。君のおじい様だ」


 押し出されてナタリーは愕然として振り返った。


「えっ? えっ?」


 愕然として成り行きを見守ったのはルーシャも同じだ。

 レーンはそんなルーシャの腕を取り、後ろへ引いた。そうして、耳元でささやく。


「ルーシャ、君からはどんなことを言われても甘んじて受ける覚悟はある。すまない」


 いつものようにふざけた口調ではない。真剣な目をして、震える唇で言ったのだ。冗談などではない。

 ルーシャは瞬きをすることさえ忘れて驚きに目を見張った。


 ――つまり、レーンたちはルーシャを囮に使ったのだ。

 本物(ナタリー)から注意をそらすために。


 ナタリーと同年で身内のいないルーシャは最適だった。

 本当のことをナタリーは何も知らなかったらしい。聞かされていないのだ。言えばナタリー自身から秘密が漏れてしまうかもしれない。そんな危険は冒せなかったのだろう。


 どんなことをしても、ナタリーを無事に送り届ける。そこにどんな事情があったのかは知らない。

 ただ、そのためにルーシャがどうなっても仕方がないと割りきることができたのか。


 怒りを通り越して体が石のように強張った。


「ここを出たところにブラッドがいる。彼に送ってもらってくれ」


 ――ブラッド。


 彼はどこまで知っていたのだろう。

 ロトの義弟なのだ。何も知らされていなかったとは思えない。

 全部知っていたのだ。そう考えると納得できる点が多くある。


 ミリアムと外で鉢合わせた時、ブラッドはルーシャの方を選んで追いかけてきてくれた。手を繋いで一緒に買い物をした。


 けれどあれは、ミリアムにこれは仕事だからと言い聞かせて我慢してもらっただけなのではないのか。仕事が終われば埋め合わせをするからと。

 どんなことをしても、ブラッドはルーシャの機嫌を損ねてはいけないと考えていたからこそ。


 いつでも心配してくれたのも、気を持たせるようなキスをしたのも、全部。


 ――なんて惨めなんだろうか。


 信じていた人たちは、誰一人としてルーシャを一番には考えていないのだ。

 ただの小娘でしかないルーシャは、どんな目に遭わされたところで嘆くことしかできない。


 もっと、何もかもを疑ってみるべきだったのに、信じてしまったのはルーシャの責任なのか。


 ルーシャに背を向けたレーンと、泣き出しそうな表情でルーシャを見ているナタリー。

 一秒でも早くこの場所から逃げ出したかった。この後どうするのかなんて、何ひとつ考えられない。


 邪魔なドレスの裾を持ち上げ、ルーシャはただ現実から逃げ出すようにして走った。


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― 新着の感想 ―
真実が明らかになる時にここまで醜い状況になったのは、主人公に女神の力がある以外の部分は、悪意で説明がつきます: これまでの囮作戦が順調すぎたのに、最後の処理を怠るなんてありえるのか? 警戒厳重な王宮…
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