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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:2025.12.10発売予定)  作者: 五十鈴 りく


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40◆Bradley

 その日。

 久しぶりにブラッドは騎士の制服に袖を通した。改めて着ると重たいし堅苦しい。


 今日はルーシャとリスター公爵が顔を合わせる。その場所はリスター公爵の屋敷ではなく、王宮だ。

 何故かというと、もしリスター公爵がルーシャを孫と認めるのなら、そのまま儀式を行うから。儀式の間は王宮にある。


 王宮なら、王太子がいる。多分、ルーシャに会う目的で立ち会うのではないかという気がした。

 そして、ブラッドはロトの配下として護衛に加わる。他の騎士たちとなんら変わりない、ただの護衛として。


 奥歯を嚙み締めたところで現実は変わらない。




 王都まで入ってしまっては下手な襲撃はできないと、ルーシャを狙う者も諦めただろうか。


 捕らえられたアビーは雇い主の名を吐いたというが、それだけで事実関係を鵜呑みにするわけにはいかないらしい。あの女ならいくらでも嘘をつきそうだ。方々に取り調べを行い、起訴するのはそれからになる。

 敵は複数かもしれないのだから、用心に越したことはないが。


 この時、馬車の到着を待つ王宮の門前でブラッドは黒い影を見た気がしたが、振り返って二度見したらいなかった。――気のせいかもしれない。




 フォースター邸より警護されながら馬車が到着した。

 護衛たちですら、民間に紛れていたリスター公爵の孫娘がどんな娘なのか興味津々だった。ブラッドは、誰にもルーシャを見せたくないと思い、ルーシャが自分のものではないということを思い出すまでジリジリと焼けつくような嫌な気分を味わった。


 馬車から下りてきた男を見て、ブラッドですらロトかと見間違えた。

 整えられた鳶色の髪、ウィングタイを着けたグレーのフロックコート。レーンがとても真っ当な恰好をしている。さすがにいつもの姿で公爵に会うのは失礼だという分別があったらしい。


 レーンがエスコートし、馬車から白い長手袋が見えた。指先まで覆われていると、家事に追われて荒れがちな手には見えない。


 赤いドレスを着たルーシャは別人のようだった。黒い髪を結い、純白の花飾りでまとめている。首から肩にかけて、絹地のような滑らかな肌が輝いて見えた。姿勢よく立ち、まっすぐに前を見据えている。


 少なくとも、騎士たちが見とれるくらいには綺麗だった。それでも、ブラッドはいつものルーシャの方が好きだった。


 そして、ルーシャに続いてナタリーも出てきた。ルーシャとは対照的な青いドレス姿で。

 似合っているけれど、気の小さいナタリーはうつむき、縮こまり、レーンの上着を皺がつくほど握っていた。置いてくるのが心配で連れてきたらしい。

 美少女だが、人々の視線は堂々としたルーシャだけに向いていた。

 これが血筋というものだろうか。考えたくはないけれど。


 ロトがレーンのそばに行き、何かを話すとルーシャをエスコートした。この時、ルーシャの深い緑色の瞳がブラッドを捉えた気がした。


 けれど、距離がある上に何人もの騎士が同じ制服を着て控えている。ブラッドだとはっきり認識してくれたかどうかはわからない。


 話をしたい。未だにそれが叶わない。

 このままずっと叶わないままなのだろうかと思ってしまう。


 胸に穴が空きそうなほど痛かった。こんな思いをすることは、二度となくていい。




 ルーシャたちを連れて、弟と一緒にいったん奥へと入っていったロトがブラッドのところへ戻ってきた。


「ブラッド、来い」

「……はい」


 良からぬことは考えるなと釘を刺されるのかと思った。いつになく反抗的な目をしていたかもしれない。

 ロトは真剣な目をしてブラッドを見下ろしていた。


「この後、彼女と話をする機会ができる」

「えっ?」


 今、この大事な時にとは思わなかった。

 ブラッドが戸惑ったのも仕方のないことだろう。

 それでも、ロトはきっぱりと言った。


「これは、お前にしかできないことなのだと思う」

「何を……?」

「詳しく言えなくてすまない。苦情なら後でいくらでも聞こう。今はただ、頼むとしか言えない」


 まったく意味がわからなかった。


「とにかく、お前はここで彼女が来るのを待っていろ。それを逃すと、多分もう機会はない」


 ロトはそれだけ言うと戻っていった。


 一体、中では何が起こっているのだろうか。

 ルーシャのことがただ心配だった。


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