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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:〈上〉発売中。〈下〉2026.2.10発売予定)  作者: 五十鈴 りく


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19◇Lucia

 あのストーカー騒ぎがあってから三日ほど経ったけれど、今のところストーカーが再び現れたりはしていなかった。


 時間が経って冷静になってみると、異常だなと思う。

 普通のストーカーなら、つきまとったり覗き見したりしてくるのだとしよう。ただしそれは、一般人にはその程度のことしかできないだけだ。


 魔術師がストーカーになったなら、この間のようにルーシャの自由を奪って攫うこともできる。そうなのだけれど、魔術師はエリートだから、そんな人がストーカーになった事例は知らない。


 そんなエリートが狙いを定めるにしては、ルーシャはただの庶民である。考えれば考えるほどわからない。

 男性から、好きですと告白されたことは――過去にないこともないが、すごく多いわけではない。


「なんでだろうなぁ」


 仕事をしながら思わずため息をついていると、窓辺を通りかかったナタリーがそこで足を止めた。


「どうしたの?」


 手にしていた待ち針を針山に戻し、ルーシャがそちらに顔を向けると、ナタリーは勢いよく振り返った。


「ルーシャ、あの人見て。ほら、表に立ってる人」

「うん?」


 ナタリーがそんなことを言うのは珍しかった。気になって窓に近づくと、ナタリーが少しずれて場所を空けてくれた。

 そっと外を覗いてみる。日差しを避けるように、木のそばに一人の青年が立っていた。


 背中に届くほど長い黒髪をひとつにまとめているのだが、細身で中性的な容姿にとてもよく似合っていた。服はシンプルな白いコットンシャツと黒いパンツ。着飾っていないからこそ素材の良さが際立つ。


「綺麗な人ね。男の人でしょうけど」

「うん、そうね。この辺りでは見ない人だわ」


 あんなのがいたら、町の女性たちが放っておかないだろう。けれど、噂にも聞いたことがなかった。最近この町に来たばかりなのかもしれない。


 ルーシャたちが見ていたせいか、その青年がこちらを見た気がした。二人して見ていたことがバレたら気まずい。

 とっさに隠れてやり過ごしたけれど、青年はそれでも動かなかった。誰かと待ち合わせをしているのだろうか。


「さて、仕事仕事」

「う、うん」


 ルーシャは気を取り直して、ドレスの裾にバテンレースを取りつける作業を再開した。ブラッドが迎えに来る前に終わらせてしまわないと待たせてしまう。




 頑張った甲斐あって、残業せずに仕事を終えることができた。

 ブラッドが来たら、また買い物につき合ってもらってから帰ろう。


 そんなことを考えながら帰り支度を済ませ、一階に下りていくと、レーンが人と話している声が聞こえた。

 ブラッドかと思ったけれど、違う。丸いテーブルを挟んで座っているのは、あの昼間見た美青年だった。


「あれ、店長の知り合いですか?」


 思わず言うと、レーンは眉間に皺を寄せた。


「あたしは知らないわよ。あなたの知り合いじゃないの?」

「えっ?」


 この時、ナタリーはまたどこかに隠れてしまっていた。だから、青年が目を向けたのはルーシャだ。


「私ですか?」


 自分を指さしてみる。


「ウェズリーさんの知り合いって」


 知らない。こんな美形なら一度知り合ったら忘れないと思う。

 この時、美青年は慌てた様子で立ち上がった。


「い、いえ、その、亡くなったウェズリーさんの知り合いで、彼女とは……」

「おばあちゃんの知り合いですか?」


 ルーシャが問いかけると、美青年は心底困惑したように見えた。


「ま、また来ます」


 そう言い残すと、急いで店を出ていった。レーンが呆れたようにぼやいている。


「人見知りがひどいのかしらね。はっきりものを言わないのよ。あんな綺麗な顔して勿体ない」

「おばあちゃんの知り合いって、もしかして亡くなったって聞いてお参りに来てくれたんですかね?」

「それならそう言えばいいのに。何かもの言いたげにうろうろしているから、話を聞こうと思って捕まえたのよ」

「また来るって言ってましたね」

「ええ。来るのかしら」


 祖母の知り合いというのが気になる。祖母の知り合いはほとんどがルーシャの知り合いでもあって、あんなに若い知り合いがいるとは知らなかった。


 もともと祖母は誰彼構わず親しくなる人だったので不思議ではないが、それをルーシャに教えてくれなかったのなら、それほど深い関わりではないのかもしれない。


 考え込んでいるとブラッドが来た。カラン、とドアベルが鳴る。


「あっ、ブラッド!」


 笑って迎え入れると、ブラッドはルーシャの勢いに少し驚いたようだった。


「もう帰れるのか?」

「うん。買い物して帰っていい?」

「わかった」


 二人のやり取りを見ていたレーンが、意外そうにつぶやく。


「やだ、新婚夫婦みたい」


 今更それを言うか、とルーシャは聞き流した。

 

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