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黒曜石

師父視点のお話、最終話です。

用があり、七彩雲を飾る崑崙山に上がる。二郎真君としても幼い頃から出入りしている、勝手知ったる場所である、用が済めば速やかに出るだけだ。


「ほっほっほっ迷うた顔をしておるな」


わざわざ広い城内で、太上老君が僕を見つけた。清廉たる仙人らしい仙人で掴み所のない水のような方だ。昔は道君様とともに相手をしてもらったが、成人した今となっては捉え所がなくて若干の苦手意識もあった。


「これは太上老君様、お久しぶりでございます」

「よいよい、小さな頃から知っておるのだ。お前から堅苦しい挨拶など要らぬ」

「……はい」

「何に迷うか若人?」

「いえ、何にも迷いはございません」

「ほっほっほっ儂に隠しても無駄じゃぞ?言い当ててしまうぞ?ほっほっほっ」


食えない御仁だ。天帝といい老君といい、仙人としてはまだ若年の僕を揶揄って楽しいのだろうか。頭を下げたまま床を見つめる。鬱屈した気分のまま顔を合わせたくない。


「お前は煌煌(きらきら)しいな」

「はい、ありがとうございます」


容姿を褒められる事は様々な場所で多々あった、顔を合わせてない今を褒められても特に何も思わない。


「わかっておらんな、お前は道君の愛情が注がれておる、と言っておるのだ」

「え?」


顔を上げた。老君様の柔和な目と合う。


「迷うておるだろう?良いのだ、それで。小魚を烹るがごとく、よくよく己を眺めよ。」

「はい……」

「道はな、何処にでもある。全てにある。お前にも儂にも、そこいら全てにだ。お前はよくよく迷い考えておる、それで良いのだ」


相変わらず掴み所の無い言葉を続けられる。


「不満が顔に出ておるぞ、何が言いたい?とな。ほっほっほっ」


言い当てられ無言になる。


「道はな、慈愛に満ちてもおるが、苛烈よ。己を見ずに逃げ惑う者達には元より見えぬし、道を求める者にも、無為自然たれ、あるがままの己を見よ、研鑽せよ、と常に求める」

「はい……」


求めても追いかけても手に入らない彼の方を思い起こす。


「お前はよう悩んでおる、研鑽もしておる、良きかな良きかな。今は待て。満ち満ちた愛情が降り注がれておるお前には、道が用意されるであろう、悩む全てに応えてくれるであろう」


穏やかな笑い声を残して老君様は去っていた。



◇◇◇◇



遠のいていた地獄へ、久しぶりに職務のついでに寄った。遠のいていた理由は明白で、道君様への想い、府君への想い、二つが一つとなり自分自身でも持て余していたからだ。

しかし、その場で思いもよらない話を聞いた。


「離職された?」

「はい、我らが主人の泰山王は後任を決め、今は別件にて、名も姿も変えております」

「どこに向かわれたのか?」

「申し訳ありません。守秘義務があり、お伝え出来かねます」


急ぎ紫宮に向かい、天帝に問うた。


「泰山府君が離職し姿を消したと聞きました、彼を探しても?」

「ならぬ」

「なぜです!」

「為すべきをする、そう申して出たのだ。察しろ」

「しかし!」

「落ち着け、彼と二度と会えぬ訳でも、彼が消滅した訳でも無い。待つのだ。必要があれば、また会い見えよう」


返事もせずに踵を返した、その足で海に向かう。何も知らされなかった自分の立場を後悔した、何も出来ない自分が無念だった。


悔しい。


海上に雲で一人浮かぶ。空は青く晴れ渡り、海は青空を映しながら深い藍を見せる。彼の色だ。


太上老君の言葉が蘇った「道は全てにある」今更のように気がついた、彼は世界だったのだ。


仕事人間な彼が離職し別件にて姿を消したのも、きっと職務に関する事なのだろう。記憶を封じた今も彼は変わらず慈悲深く人を我らを命を愛してくださる。前も今も、彼の愛情は世の全体へ注がれていて僕個人だけに向けられてはいない。僕にとっての一番が彼でも、彼にとっての一番は僕ではない。どうあがいても僕だけの物にはならないのだ。


慟哭しようかと思った。しかし必要が無かった、彼はすでにここにいるのだ。

僕の中に、僕の外に、周囲に、全てに。

空と海だけの視野、濃紺と青に染まる視界、彼の色、世界を見つめ僕は決意した。


僕に出来る全てを尽くし、世界を愛そう。彼が世界なのだから。


波音だけが静かに聴こえていた。



◇◇◇◇



あの方もこのような想いだったのだろうか?


今、目の前で幼子が棒を持って、構えながら型を作っている。


「師父!ちゃんと見て!」


哪吒の真似だ、彼の中で流行っている。ここ数日ずっと続いている。僕の真似はしないのに。


「よう似ている、凛々しく見えるぞ」

「へへへへ」


無邪気な笑顔を見せる、愛らしい。石のように動かぬ時期もあったが、動き出した今は一瞬も目が離せない、千変万化する豊かな表情、成長を見せる精神、濡れた黒曜石の瞳が一瞬一瞬の感情で色が変わる。全てが愛しくて堪らない。


過ぎ去る、この一瞬が愛おしい。


己の中に愛情があふれ満たされているのがわかる、こんな穏やかに誰かを慈しんで愛せるようになるとは。飢えてもがき、自分自身の不甲斐なさを悔いたあの頃は考えもしなかった。


自分自身も知らなかった僕を、これまで見なかった僕を、目の前の幼い彼が教えてくれる。


老君様の言葉は正しかった『道が用意されるであろう、悩む全てに応えてくれるであろう』まさか、こんな形になると思っても無かったが。


いずれ本当の彼が起きたら聞いてみたい、あの頃の僕をどう思って見ていましたか?今、共に居る僕をどう思いますか?と。


僕は今、幼い貴方との時間を何よりも素晴らしい宝だと思っています。



ここまで読んでくださりありがとうございます、これにて仙界にて雲に乗り(引きこもりと仙人のほのぼのライフ)全て終了しました。


読み終わった方が少しでも楽しめたら嬉しいです。


ブクマ評価してくださった方々、本当にありがとうございました。そのおかけで最後まで手を抜かずに書けたと思います。

異世界転移のハイファンタジーという人気ジャンルで、中国神話や仙人ネタでしかもBL絡みあり。せっかくの読む層をかなり減らしそうなチョイスでしたが沢山の方に読んでもらえて、評価やブクマで書いてる私と同じように楽しんでくれる人がいるとわかり、幸せでした。

また御縁があって次回もあれば楽しんでもらえると幸いです。

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